「ミカゲシン(MIKAGE SHIN)」が、2022-23年秋冬コレクションのショーを3日に開催した。会場は、東京・大久保のウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会。クラシカルな音楽が、徐々に1980年代をほうふつとさせるシンセサイザーの音に切り替わると、ショーが始まった。
自由なクリエイションを求めた
デザイン集団に共鳴
今シーズンのテーマは、“型破り”を意味する“Out of the Box”。80年代にポストモダンの工業デザインを提案したデザイン集団“メンフィス(Memphis)”に着想したコレクションだ。当時は機能的でミニマルなデザインが主流だったが、彼らは派手な色や幾何学柄を積極的に使い、デザインの本能的な楽しさやアート性を重視した。また、純粋な才能のつながりを求めて、女性や若手クリエイターを積極的に起用していた。「凝り固まった考えにとらわれず、自由で独立したクリエイションを追求する彼らに共感した」と進美影デザイナー。
ウエアは、エレガントなスタイルを軸に、さまざまな国や年代からピックアップした柄とグラフィックを落とし込んだ。ブランドのシグチャーであり、メンフィスも好んで使った大理石柄やテラゾー(人工大理石)柄は、総柄のワンピースやシャツ、スカート、袖と身頃を切り替えたテーラードジャケットなどに採用。枯山水のような凹凸のある素材はチャイナジャケットやハイネックトップスに落とし込み、丸や三角などの記号は、襟のカッティングや肩や裾のくり抜き、Tシャツのグラフィックなどで表現した。カラーパレットは、青やベージュ、ブラウンがベース。メンフィスといえば赤や黄、紫などポップなカラーだが、「ブランドらしい落ち着いた色味はそのままにした」。多くのルックに合わせたグローブは、愛知・名古屋で江戸時代から親しまれている“有松絞り”を応用したもの。「このグローブは機能的には必要ない。でも、着用することで気分が高揚し、ファッションが持つ本来の力を感じられる思う」。
昨シーズンに続いてサステナビリティも意識し、リサイクルウールを100%使ったコートや、リサイクルウールとアクリルを混ぜたニットなどが登場した。「ファッション性も楽しめるように」と、コートはダブル風の前立てと右身頃が飛び出したようなデザインに仕上げ、ニットは前後に斜めのカッティングを施した。
モデルもさまざまなボーダーを超越
多様性を強調するキャスティングも目立った。ファーストルックには、バングラデシュにルーツを持つモデルのシャラ・ラジマを起用。髪を金に染め、青いカラコンを入れたルックスは、一つの国籍に限定されない魅力がある。その後も、ノンバイナリーを公言するモデルや白髪のシニアモデルらが登場。ボディーコンシャスなニットワンピースやベルスリーブのシャツなどを男性モデルに着せたのは、ジェンダーレスの表現ではなく、「純粋に一人一人に似合うスタイルを組み上げていったから」。
同ブランドは過去2シーズンを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、東コレ)」で披露していたが、今回はオフスケジュールに切り替えた。「東コレでともに盛り上がることも考えたが、グローバルの商機を逃さないよう、このタイミングを選んだ」。コレクションを本格始動して2年が経ち、世界を見据えている。
フィナーレで登場した進デザイナーは、ロシア語で“戦争反対”と書かれた黒いTシャツを着ていた。「モデルにはロシアとウクライナ出身の人もいる。どちらも政権の問題に巻き込まれた被害者だ。より多くの方に真剣に関心を持ってもらえたらと思い、発信した」。