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連載 コレクション日記

ドラマチックでエレガントな「サンローラン」に心奪われる 2022−23年秋冬パリコレ現地リポートvol.1

 ボンジュール!欧州通信員の藪野です。ミラノに続き、2月28日にパリ・ファッション・ウイークが始まりました。ミラノからのフライトは、晴れていると雪の積もったアルプス山脈がとてもきれいに見えるので、いつも窓側を指定して景色を楽しんでいます。

 パリコレ初日の昼に到着したので、まずは荷物の整理とスーパーでの買い出し(今回は半分ほど自炊予定)を済ませて、夜に行われた「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE C/O VIRGIL ABLOH)」のショーへ。すでに別途記事をアップしているので、下記をご覧ください。今回のリポートでは3月1、2日のダイジェストをお届けします!

DIOR

 「ディオール(DIOR)」の壮大な会場には毎回驚かされますが、今季壁全面に飾られていたのは、女性をモチーフにした白黒の肖像画の数々。「モナ・リザ」や「真珠の耳飾りの少女」といった見慣れた作品もあるのですが、空白の部分が残り、目が重なり4つになっています。これは、イタリア人現代アーティストのマリエラ・ベティネスキ(Mariella Bettineschi)がデジタルペインティングで制作したもの。「ザ・ネクスト・エラ(The Next Era/次の時代)」と名付けられた作品群は、女性を取り巻く慣習に対する問いを投げかけているといいます。今季のコレクションで、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が試みたのは、「ディオール」の美的感覚とテクノロジーの融合。そのために、マイナス80度以下にもなる南極で科学者たちが作業できる防護スーツを開発しているイタリアのスタートアップ企業のDエア・ラボ(D-Air Lab)と協業しました。ファーストルックは、蛍光グリーンの有機的なラインのボディーツで、温度を均一に保つ機能を備えられています。アイコニックな”バー”ジャケットや繊細なレースドレスに合わせた防具のようなコルセットやショルダーパーツには、体の湿度を管理し、必要な際に温めるシステムが搭載されています。それらラインアップは、未来的で、SF映画のコスチュームのよう。1月のオートクチュールのとき、「人間的なつながりのないメタバースには興味がない」と言い切ったマリア・グラツィアですが、これらの作品で「テクノロジーの中にも人間的な側面があることを示したかった」と言います。

 そんな実験的な挑戦もさることながら、際立ったのは”バージャケット”を想起させるシルエットのアレンジと、”プロテクト”のリアリティーのある解釈。象徴的なシルエットはアシンメトリーヘムのスカートのスーツをはじめ、コートやドレスに合わせたレザーのコルセット、カントリームード漂うフード付きジャケットなどに落とし込まれました。一方で、レーシングスーツをほうふつとさせるジャケットやロンググローブ、ゴツいブーツは、タフなイメージにつながります。

SAINT LAURENT

 今季もショーの舞台は、セーヌ川を挟んでエッフェル塔の対岸にあるトロカデロ庭園。そこに巨大な黒い箱のような会場を設けました。会場内は、ふかふかのカーペットに等間隔で並べられたベルベットのキューブ型の座席、鏡面仕上げの壁がクラシックなムードを漂わせています。会場を囲む壁が開き、エッフェル塔のイルミネーションが輝く中でショーがスタートしました。

 アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が着想を得たのは、創業者イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)の自宅の装飾にも大きな影響を与えたアール・デコ。そしてミューズには、イギリスの上流階級で作家や政治活動家として活躍した1920年代を象徴するスタイルアイコンの一人、ナンシー・キュナード(Nancy Cunard)を挙げています。そのスタイルは、「時代を先取りした大胆なもので、マスキュリンなワードローブに独自の痕跡を残し、パイオニアとしての役割を果たした」とプレスリリースに書かれています。

 ランウエイに登場するのは、ナンシーのスタイルを現代的に解釈したもの。厚手のウールのテーラードコートやレザーのアウターは、クラシックなメンズウエアを想起させる誇張された肩のラインや大きなラペルが特徴的で、逆三角形のようなラインで仕上げられています。ボリュームたっぷりの人工ファーのコートも印象的です。それらの下に合わせるサテンやチュールのロングドレスは、細身で流れるようなシルエット。腕には、ナンシーさながらシルバーやゴールド、ウッド、象牙のような素材などの太いブレスレットを重ね付けしています。そのドラマチックでありながらエレガントな「サンローラン(SAINT LAURENT)」ウーマンの姿に、心を奪われました。

 終盤に登場したのは、サンローランが66年に発表した”スモーキング”を想起させるルック。タキシードをいち早く女性に向けて提案したそのスタイルは、パワフルなテーラリングが広がる今シーズンにぴったりで、一層輝きを放っています。

DRIES VAN NOTEN

 デジタルでのコレクション発表を続けている「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」ですが、今季はパリでプレゼンテーションも開催しました。会場は、1728年に建てられて1920年代の装飾が残る左岸にある古い邸宅。メンズから継続してコレクション映像の撮影が行われたロケーションです。ドリスは、アントワープの自宅をほうふつとさせる、この場所を選んだそうです。プレスリリースの今季のキーワードは、“官能的なささやき”や“極度のフェミニニティーとメンズウエアの強さのコントラスト”など。彼が、特に思いを馳せたのはイタリアで、建築家、そしてデザイナーや写真家として活躍したカルロ・モリーノ(Carlo Morino)のポラロイド作品に見られるようなノスタルジーやグラマー、官能性を探求しています。奇しくも「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)新クリエイティブ・ディレクターもモリーノのポラロイドをインスピレーション源の一つに挙げていました。先シーズンから女性性を再考する流れは継続していて、今季はイタリアのクラシックな官能美に魅せられたデザイナーが多いようです。会場に流れるのは、イタリア人歌手ミーナ(Mina)の楽曲「ルナ・ディアマンテ」。エモーショナルなイタリアン・ノスタルジアを象徴する曲で、今季の着想源と重なります。

 ジャケットやコートは、円を描くように誇張された肩から袖のラインが印象的。メンズウエアに見られる力強い肩と絞ったウエストでコントラストを効かせたデザインや、クリスタルなどの装飾をあしらったスタイルもあります。そこに合わせるのは、ドレープを生かしたドレスやタイトスカートからウォッシュドデニムまで。質感豊かな素材のレイヤードがコレクションを華やかに彩ります。

 ドリスらしい自由な柄のミックスは、レオパードやゼブラ、ダルメシアン、ジラフ(キリン)などのアニマル柄、大ぶりなハイビスカスやポピーのプリントなど。インテリアからヒントを得たデザインも顕著で、古い壁紙を想起させるような模様や、アンティークの中国陶器のような白地に青の柄がウエアやアクセサリーに落とし込まれています。

 会場内には発表されたばかりのフレグランス(とリップスティック)も展示されていました。ニュースで写真を見たときから飾りたくなるようなボトルデザインにときめきましたが、実際見てもとても素敵でした。自身の庭園から着想を得たという香りを試すことができたのですが、クセがなく使いやすそうな香りが充実!今回のコレクション出張のご褒美は、これで決まりかなと。最終日にセーヌ川左岸のブティックに買いに行こうと思います。

 「ドリス ヴァン ノッテン」のランウエイショーをまた見たいという気持ちもありますが、ドリス本人は映像制作にも楽しさを見いだしているよう。映像と共に行われたこのプレゼンテーションは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚を生かしてブランドの世界観を楽しむ展覧会のようで、ショーとはまた異なるリアルな体験の魅力が詰まっていました。

ACNE STUDIOS

 「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」は、真っ白な空間にさまざまな大きさの長方形のくぼみがあり、その中に座って歩くモデルを見上げる演出。アメリカ人ミュージシャンのスザンヌ・チアーニ(Suzanne Ciani)によるエレクトロ・ミュージックのパフォーマンスと共にショーが幕を開けました。

 「考えたのは、エモーショナルなパッチワークというアイデア。子どもの頃、ものを切って組み立てることを始めたのが、私のファッションへの旅の始まりだった」と話すジョニー・ヨハンソン(Jonny Johansson)は今季、見慣れたものや身の回りにあるものから新しいものを生み出すことをテーマにしました。

 布団のような中綿入りの素材はオーバーサイズのコートやジャケットになり、ウォッシュドデニムはランダムにパッチワークしてドレスに。古いインテリアを想起させるような柄はボディースーツになり、極細のフリンジがあしらわれた花柄の大判ストールはドレスやスカートへと変わります。着古されたように開いた穴や、修繕のディテール、縫い目からむき出しになった中綿などは、ここ数年の「アクネ」を象徴するスタイルとなっている未完の美を感じさせます。

おまけ:今日のワンコ

 「カルティエ(CARTIER)」のプレゼンテーション会場で、真っ黒なカーリーヘアのワンちゃんを発見。こういう屋内、しかも高価なものが並んでいる会場にペットを連れて入れるのは、ヨーロッパならではと感じます。


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受講日時:2022年4月19日(火)13:30~17:00

【第1部】60分 13:30~14:30
◇2022-23年秋冬コレクションレポート

登壇者:向 千鶴/WWDJAPAN編集統括 兼 サステナビリティ・ディレクター
藪野 淳/WWDJAPAN欧州通信員
モデレーター:村上 要/WWDJAPAN編集長

【第2部】50分 14:40~15:30
◇国内マーケット展望

登壇者:五十君 花実/WWDJAPAN副編集長
ゲスト登壇者:神谷 将太/三越伊勢丹 婦人・雑貨・子供服MD統括部 新宿婦人営業部「リ・スタイル」バイヤー
モデレーター:村上 要/WWDJAPAN編集長

【第3部】50分 15:40~16:30
◇どう着る?どう魅せる?スナップなどから探るスタイリング提案

登壇者:向 千鶴/WWDJAPAN編集統括 兼 サステナビリティ・ディレクター
藪野 淳/WWDJAPAN欧州通信員
ゲスト登壇者:シトウレイ/ストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト
モデレーター:村上 要/WWDJAPAN編集長

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