「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」は3月8日、東京・南青山のオフィスで2022-23年秋冬コレクションを発表した。今シーズンは「BLACK ROSE(黒いバラ)」をテーマに、近年の特徴とも言えるアートとの境界線を超越したような渾身のクリエイション、16体を披露した。川久保玲は、「私にとっての黒い薔薇のダークな美しさは、勇気、抵抗、そして自由を意味します」と語る。
漆黒の縮絨素材などで作るスタイルは、バラの蕾や花々のように曲線的だ。ブラカップを内蔵したジャケットの胸元からは別の生地が覗き、一部をくり抜いたスカートの中には異なる生地がはち切れんばかりの状態でギュウギュウに詰め込まれている。その姿は、まさに今、花開こうとするバラのよう。内側の花弁が外側の花弁を押しやり、花開こうとする姿を描くことで、既成概念を打破して自由を手に入れる生き様を表現しようとしているのは、実に「コム デ ギャルソン」らしい。
一方で黒バラは、バラとしての美しい姿をとどめるため、大きく開こうとする内側の花弁を外から押さえつけているようにも見える。グレーの縮絨生地にほんのり覗く七色の糸、フェルトや綿のような素材に樹脂を流し込んでカッチカチに成形した帽子、同じく大きな綿をロープのような黒い紐でグルグル巻きにしたヘッドピースなどがシンボリックだ。
ゼブラ柄のドレスは内側からフェイクファーや縮絨、レースなどの異素材がこぼれ出ているかのようだし、漆黒のスカートは内巻きのディテールの内部にフローラルモチーフをあしらい中身への興味を掻き立てる。一方終盤のジャケットは、コルセットのようなディテールを内蔵し、モデルの体を美しい縦長シルエットの中に閉じ込めた。内側から大きく花開くことで花としての形を凌駕しようとする力と、花としての形を維持するために外から押し付けようとする力は、どう均衡し、最終的にはどちらが勝るのだろう?そんなことを想起させる。