村上亮太による「ピリングス(PILLINGS)」は18日、2022-23年秋冬のランウェイショーを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で開催した。ファッションコンペ「東京ファッションアワード 2022(TOKYO FASHION AWARD 2022)」受賞によるイベントで、約2年ぶりのショーだった。ニットを強みにする同ブランドは、兵庫・神戸を拠点にする岡本啓子が主宰するニットアトリエ「アトリエK'sk」との協業により一点一点手編みで作っている。ニッターたちとのコミュニケーションを交わしながら生まれる、ウィットの利いたデザインが持ち味だ。
“道に迷っている人”を
応援するニットウエアを
今季のテーマは“道に迷っている人”。村上デザイナーが講師として携わるニット教室や、ファッションスクール「ここのがっこう(coconogacco)」で学生と交流するうちに、ある思いが芽生えた。「この選択肢が多い時代に、自分の居場所を探そうともがき苦しんでいる子が多い。そういう人たちを応援するようなコレクションを作りたかった」。
キーアイテムはアランセーター。もともとはアイルランド・アラン諸島で漁師の妻たちが夫の漁の無事や成功を祈って編んだセーターだ。幸運を願うラッキーモチーフを入れた編み地があったり、事故にあったときに誰か分かるように家紋を用いたりするものである。「ピリングス」でも「道に迷っても無事に戻れますように」という願いを込めて、伝統的な編み地をのせながら、グレーやレッド、ブラウンなど、さまざまな色を使った。またニットの上から大胆に太いロープを編み込み込んだデザインは、縛られながらも前に進む強さを感じさせる。
生きとし生けるものの個性
多様性を表した昆虫モチーフ
セーターには、花や虫、犬、イルカなど動植物のモチーフをふんだんにのせた。立体的なマスコットで取り入れたり、インターシャ(はめ込み模様の柄編み)として編み込んだり。中でも多用した巨大なアリは、「社会性のメタファーをイメージした」という。「多様性と言われる時代で、生きやすくなった人もいるはず。でも一人一人の人間は異なるので、そもそもジャンル分けをするのは違和感がある。きっと、虫一匹一匹にも名前や個性があって、意思があるから」と説明する。ブランドの頭文字の“P”や、ピアノの形を数十匹のアリで表現したニットもあった。
また、村上デザイナーが学生の頃から好きだという太宰治のスタイルにもヒントを得ている。床を引きずるように裾が広がったパンツは、和装の二重回しのシルエットから。苦悩を抱えながらも、名作を世に送り出した文豪のスタイルを重ねる。特徴的なウェーブヘアも、太宰の髪型からだ。
会場に吊るしたピアノの意味
理想と現実の狭間
ランウエイの天井にはロープでピアノを吊るし、BGMもピアノ曲を使うことで“理想と現実”をイメージしたという。「ピアノは“一ミリのズレも許されない”という社会性のメタファー。僕は音痴で、子供の頃に音楽の授業で『口パクでいいよ』と言われたのがトラウマになった」。ランウエイは理想を意味し、上に吊るしたピアノは現実――その狭間をモデルたちが進む。
ショーでは手編みの職人技を加えたショーピースがメインだが、商品化する際は、今回のエッセンスを加えた手に取りやすいアイテムも並ぶという。「これまでは“愛おしいニット”を作りたいという気持ちが強かった。でも今は“愛おしい人”を作りたい、という意識に変わった」と村上デザイナー。その言葉通り、今季はコンセプチャルなクリエイションの強さを残しつつ、洗練された雰囲気もプラスされ、着る人への愛に溢れていた。