こんにちは!欧州通信員の藪野です。ミラノほど詰まったスケジュールではないかな〜と思っていたパリコレですが、中盤からはどんどん展示会やアポが入り、忙しくなってきました。今回お届けするのは、5日目と6日目。いよいよ後半に突入したパリのダイジェストをどうぞ!
LOEWE
「ロエベ(LOEWE)」の会場には、四角い空間に大きなカボチャのオブジェが3つ。これは、英国人現代アーティストのアンセア・ハミルトン(Anthea Hamilton)による作品だそう。「昨シーズン(2022年春夏)の削ぎ落としたコレクションの続きのようなもの」だとジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が話す今季は、見た目と実物の触感や硬さの意表を突く不一致がポイントになっています。例えば、冒頭に登場したミニドレスは、風に吹かれてなびくようなシルエットですが、実際はレザーを伝統的な手法でモールド成形したもの。この硬いシルエットは、ビニールのような繊維の3Dプリントやフェルトでも表現されています。また、車の形状を3Dプリントでそのままベアトップドレスのスカート部分に落とし込むというジョナサンらしい突飛なアイデアも登場します。
今季を象徴するモチーフは、バルーン。その表現方法は、たくさんの風船をプリントしたドレスの上にバルーン型にモールド成形したブラカップを重ねたり、ギャザーで細かいドレープを寄せたドレスの隙間に樹脂製のつぶれた風船を挟み込んだり。アイコンバッグの”フラメンコ”や“ゴヤ”にも中綿を入れてふくらませ、パンプスのヒールやサンダルのアッパー、ペンダントにもバルーンモチーフを採用しています。そんなユニークなアクセサリーについては、井上エリさんがリポートしていますので、こちらをご覧ください!
そして、今季の「ロエベ」を語る上で欠かせないのは、センシュアルなムードです。サテンのロングドレスの胸元には大きな唇の立体モチーフをあしらい、ベロアのドレスにはなまめかしい女性の体や手をプリント。透け感のあるタイトドレスの内側に閉じ込められたハイヒールは昨シーズンに通じる違和感のある突起を生み、ラテックスのセカンドスキントップスやパテントレザーのミニドレスはフェティッシュな印象をもたらします。セクシーや官能美の表現は、22年春夏のトレンドに浮上しましたが、この秋冬も継続。さらに幅が広がっています。
YOHJI YAMAMOTO
今季は、デニムのロングシャツと「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」らしい黒のアシンメトリーヘムのドレスがドッキングしたようなルックからスタート。その後もクロップドジャケットやプルオーバーシャツ、スリムなジーンズなど濃いブルーやブラックのデニムアイテムと、ヘムがランダムに揺れる黒の生地を重ねたロングドレスを合わせたスタイルが軸になります。テーラリングは、スリムなシルエットに尖った肩と太いピークドラペルをあしらったデザインから、ボディーラインになめらかに沿うものまで。デニムやパファージャケットといったストリートウエアの要素と、レースや透け感のある素材のドレープで描くダークエレガンスのコントラストが印象的です。
そして、毎回楽しみにしているのは、ショーで使われる日本の曲。日本人以外の観客はどんな感覚で聴いているんだろう?と思いますが、日本人としては心に沁みます。今季の選曲は、鈴木常吉さんの「思ひで」のカバー。タイトルを聞いてピンとこないかもしれないですが、そう、ドラマ「深夜食堂」のオープニングに流れるあの曲です。「ヨウジ」の静謐感のあるショーには、哀愁漂うメロディーがよく似合います。
VTMNTS
2021年にスタートした「ヴェトモン(VETEMENTS)」による新ブランド「VTMNTS」初のリアルショーは、スーパーマーケットのモノプリ(MONOPRIX)跡地で開催されました。そこに登場した坊主や角刈りの男性、女性、そしてノンバイナリーのモデルは、怒りをむき出しにして、大股で風を切るように闊歩。その姿は、決闘に向かう不良グループのような印象を受けます。
そんなモデルのキャスティングでも表現されているように、「VTMNTS」は“ジェンダーを問わない服を提案する”ブランドとのことですが、ベースとなるのはメンズウエアのワードローブ。肩の張ったボクシーなジャケットやチェスターコートから、バーシティージャケット、クロップ丈のパファージャケット、ウォッシュドデニム、ジップアップブルゾン、トラックスーツまでをさまざまな組み合わせで連打します。テーラードパンツの裾にはファスナーを用いたスリットをプラス。モデルの動きに合わせて躍動的に揺れ、そこからゴツいソールのカウボーイブーツを覗かせています。
終盤に登場したジグソーパズルと青空のモチーフは、グラム・ヴァザリア(Guram Gvasalia)のパーソナルな記憶に由来するモノ。戦争により故郷ジョージアを離れてドイツに移住したときに、両親が買ってくれた青空のジグソーパズルに思いを馳せて、カーコートやスーツに落とし込んだそうです。
HERMES
「エルメス(HERMES)」の会場は、フランス共和国衛兵隊の本拠地。これまで何度もショーに使用したことがある場所ですが、今回はなぜか正面ではなく横から入場するようになっていました。まず通されたのは、中庭のようなスペースで、ドリンクやフィンガーフードが振る舞われ、そこにある厩舎に入って馬と戯れることもできるという粋な演出。今日のワンコならぬ、今日のお馬さんのつぶらな瞳にいやされました〜。開始時間が近づき、ショー会場に移動すると、広がるのは緑っぽい砂が敷かれた空間。今季はメンズコレから地面が砂という演出が多いです。
ショーが始まると、会場上部の両サイドに設けられた柱が並ぶ回廊のような通路にモデルが登場。その姿を見上げていると、地上のランウエイにモデルが現れました。今季のイメージは、パリジェンヌと馬術競技を掛け合わせた”ニュー・カヴァリエ(新たな騎士)”。黒のレザーとストレッチニットをストライプ状にはぎ合わせたジップアップジャケットとミニスカートのファーストルックを筆頭に、強くセクシーな女性像を描きます。「エルメス」で“セクシー”というのはちょっと意外でしたが、官能的というよりもヘルシー&スポーティーで若々しい印象です。
膝下丈のドレスやジョッキーのような細身のパンツルックもありますが、新鮮なのは、レザーのドレスやスカート、ストレッチニットのジャンプスーツやパンツをミニ丈で仕上げ、ニーハイソックスや長いレッグウォーマー、ロングブーツを合わせるスタイル。ニットは透け感がポイントで、セカンドスキンのようにボディーラインを強調したり、胸元や首周りの細かいフリルをあしらってロマンチックなアクセントを加えたり。一方、アウターはメゾンのルーツを感じさせるデザイン。ウエストを絞ったコートやレザージャケットは乗馬服のようで、レザーのパイピングとパーツを配したカシミアのジャケットやコートは、ホースラグを想起させます。
バッグはアイコニックな“ケリー”をアレンジしたモデルが豊作です!ショルダーバッグの“ダンス”や大きな長財布のような“トゥーゴー”は、犬の首輪から着想を得た“コリエ・ド・シアン”のブレスレットに通じるピラミッッドスタッズやリング付きのストラップでアップデート。両面を表になるようにツイストさせたデザインの新作も登場しました。
おまけ:今日のワンコ
「VTMNTS」のショーにはモデルに抱えられて、ワンちゃん登場。バチバチの威圧感漂う空間が、急にほんわかした空気に包まれました〜。
【WWDJAPAN Educations】
2022-23年秋冬トレンドセミナーご案内
■毎シーズン恒例の 2022-23年秋冬トレンドセミナー開催!
最新コレクション情報から国内マーケットの展望やリアルトレンドの実態まで22-23年秋冬商戦に備えるための1日となります。日々の取材を通して得た情報を主軸に多彩なゲストをお招きして「WWDJAPAN」が次シーズンに向けたファッショントレンドをお届けします。
受講日時:2022年4月19日(火)13:30~17:00
【第1部】60分 13:30~14:30
◇2022-23年秋冬コレクションレポート
登壇者:向 千鶴/WWDJAPAN編集統括 兼 サステナビリティ・ディレクター
藪野 淳/WWDJAPAN欧州通信員
モデレーター:村上 要/WWDJAPAN編集長
【第2部】50分 14:40~15:30
◇国内マーケット展望
登壇者:五十君 花実/WWDJAPAN副編集長
ゲスト登壇者:神谷 将太/三越伊勢丹 婦人・雑貨・子供服MD統括部 新宿婦人営業部「リ・スタイル」バイヤー
モデレーター:村上 要/WWDJAPAN編集長
【第3部】50分 15:40~16:30
◇どう着る?どう魅せる?スナップなどから探るスタイリング提案
登壇者:向 千鶴/WWDJAPAN編集統括 兼 サステナビリティ・ディレクター
藪野 淳/WWDJAPAN欧州通信員
ゲスト登壇者:シトウレイ/ストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト
モデレーター:村上 要/WWDJAPAN編集長
※お申込みは、4月18日(月)午後12時で締切となります