岡本大陸デザイナーによる「ダイリク(DAIRIKU)」が、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」最終日の19日にブランド初のファッションショーに挑んだ。ファッションコンペ「東京ファッションアワード 2022(TOKYO FASHION AWARD 2022)」受賞により実現したもので、岡本デザイナーは「ブランドを始めたころから、いつかショーをやりたいと思っていた。今日、その夢が叶いました」とショー直後に語った。
高校時代にファッションに没頭
聖地は大阪・アメ村
岡本デザイナーは1994年、日本人の父親と韓国人の母親の元に奈良県で生まれた。高校時代に服に興味を持ち、授業を終えると大阪・心斎橋のアメリカ村に出て、古着屋を回る生活を送っていた。「そこでできた友達とは今でも仲良くしています。学校よりも楽しかった」。その後、バンタンデザイン研究所大阪校ファッションデザイン学科に進学し、在学中に「ダイリク」を設立。現在は東京を拠点に活動している。
「ダイリク」は毎シーズン、特定の映画に着想し、そのストーリーや登場人物を発展させてコレクションを製作している。例えばジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch)監督の「ミステリー・トレイン(Mystery Train)」や、ジョエル・シュマッカー(Joel Schumacher)監督の「セント・エルモス・ファイアー(St. Elmo's Fire)」など。ミニシアター系から王道ラブコメまで、あらゆる映画がイメージソースだ。
映画の大好きなシーンを
ショーの大舞台で再現
ショーの舞台は、渋谷ヒカリエのイベントスペース。工事現場の足場で作ったランウエイと、複数台のビデオカメラを設置し、映画スタジオのような空間を演出した。これは、岡本デザイナーが「大好き」だと語る、フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)監督の作品「8 1/2(はっかにぶんのいち)」のラストシーンをイメージしたものだ。「主人公に関わった人や妄想上の人たちが全員出てきて、映画のセットを踊り回るんです。そして、『人生は祭りだ。ともに生きよう』と言います」。会場に爆音が鳴り響き、一夜限りの“祭り”が始まった。楽曲名は「after -school」だ。
映画、洋服、アメ村
ルーツへの愛に溢れたコレクション
ウエアは、ブレザーやチェックスカートなどの学生服を軸に、映画とアメ村、韓国といった岡本デザイナーのルーツを盛り込んだ。例えば、タンカースジャケットにモヒカンヘア、サングラスのスタイルは、マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督の「タクシードライバー(Taxi Driver)」を直球に表現したもので、肩には“with love to the movie(映画への愛を込めて)”のバッジが付いていた。ショルダーバッグには大阪のキーホルダーを付け、足下には1990年代のアメ村のトレンドだったルーズソックスを合わせる。小学生の頃に韓国で過ごした日々に思いを馳せて、スーベニアジャケット“コリジャン”や、当時使った毛布をイメージした花柄のフリースなども製作。紫とピンクのカラーパレットは、学生のフレッシュさを表現したものだ。自転車のカギをネックレスにしたり、ラジカセをアクセサリーとして持たせたりと、自由奔放なスタイリングも、異文化がごった返すアメ村に通じるものがあった。
ショー音楽は、ロックバンドのエイジ ファクトリー(Age Factory)が担当した。同バンドのフロントマン清水英介は、岡本デザイナーの高校の同級生だ。プレスリリースには、清水による等身大なメッセージが記されていた。「放課後になると、俺はギターを持ってスタジオへ向かい、大陸はアメ村へ向かった。今、俺らはあの時の未来の中にいる気がしてる。今回、曲を作らせてくれてありがとう」。
さらに、スタイリストの渕上カンやオフィシャルフォトグラファーの小見山峻ら、岡本デザイナーと親交の深いスタッフが多く携わっていた。「みんなとショーができて本当にうれしい」。リリースにはスタッフからモデルまで全員の名前を記し、その感謝を伝えた。
「一つの夢が叶った」と話す岡本デザイナーは、まだ27歳。現在の卸先は34アカウントで、今シーズンは海外での取り扱いが初めて決まり、6月にはパリでの展示会も控えている。このショーを弾みに、世界に大きく羽ばたいてほしい。彼のストーリーは、始まったばかりだ。