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連載 小島健輔リポート

「ザラ」「H&M」「ユニクロ」3大SPA最新決算にみる挫折感【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。コロナ禍から2年以上がたち、ファッション市場の中での優勝劣敗がはっきりしてきた。グローバルマーケットで大衆の心をつかむ「ザラ」「H&M」「ユニクロ」のSPA3社の最新決算を細かく分析すると、あまり語られていない事実が浮き彫りになる。

 3月16日に「ザラ(ZARA)」を運営するインディテックス(INDITEX)が2022年1月決算を発表して、21年11月決算のH&M、「ユニクロ(UNIQLO)」を展開するファーストリテイリングの21年8月決算とグローバルSPA3社の決算で出そろったが、2年に渡ったコロナ禍を各社はどう切り抜けたのだろうか。果たして、その先に明るい未来はあるのだろうか。

インディテックスの背中は遠ざかった

 3社で決算期が多少ずれ展開地域も異なるためコロナ禍の影響も微妙に異なるが、売り上げでも営業利益でもインディテックスの首位は動かず、売り上げではH&M、営業利益ではファーストリテイリングが続いた。

 インディテックスの売り上げは277億1600万ユーロ(3兆6136億円)と前期から35.8%回復したが、前々期(282億8600万ユーロ)には97.8%とわずかに届かなかった。とはいえH&Mは1989億6700万SEK(2兆5468億円)と6.4%の回復に留まって前々期(2327億5500万SEK)には85.5%と遠く、ファーストリテイリングも2兆1329億9200万円と6.2%しか回復せず前々期(2兆2905億4800万円)には93.1%と及ばず、インディテックスの背中は遠ざかった。

 インディテックスは粗利益率も57.1%と過去6年間で最高水準に回復し、販管費率を41.6%に抑えて売上対比15.5%、前期比2.84倍の42億8200万ユーロ(5583億円)の営業利益を確保した。ファーストリテイリングも50.3%と6期ぶりに粗利益を50%台に乗せ、販管費率を38.4%に抑えて売上対比11.7%、前期比1.67倍の2490億円の営業利益を計上したが、H%Mは粗利益率が52.8%に留まる一方で販管費率が45.1%と高止まりし、営業利益は前期から5倍近く回復しても売上対比7.7%、152億5500万SEK(1953億円)に留まった。

H&Mの劣勢が目立つ各指標

 H&Mの粗利益率は19年の水準を回復しても10年の62.9%からは10.1ポイントも低く、販管費率は06年の37.1%より8.0ポイントも高く、営業利益率は07年の23.5%からは15.8ポイントも低下している。コロナ以前に大規模化非効率化してスローになったファストファッションのビジネスモデルが行き詰まり、収益力の低下に歯止めが掛からなくなっている。

 人件費率はインディテックスの15.1%に対してファーストリテイリングは13.4%(委託費を合算すると15.7%)、不動産費率(賃借料+減価償却)も12.3%に対して11.3%と大差ない。H&Mは経費明細の開示がないが、粗利益率がインディテックスより4.3ポイントも低いのに販管費率は3.5ポイントも高く、両経費とも他2社より負担が大きいと推計される。単価が低く棚資産回転も極めてスローで消化歩留りも販売効率も他2社とは格差が大きいH&Mは収益力が劣化しており、売り上げでもファーストリテイリングに抜かれて3位に落ちるのは時間の問題と思われる。

 平均店舗規模(面積と売り上げ)はインディテックスの732平方メートル/427.9万ユーロ(5億5790万円)に対してファーストリテイリングは909平方メートル/5億9606万円とやや大きく、国内ユニクロに限れば1001平方メートル/8億8594万円と一回り大きい。坪売り上げはインディテックスの249.2万円に対してファーストリテイリングは225.1万円とほぼ9掛けだが、「ザラ」と国内ユニクロで比較すると265.4万円対295.0万円と逆転して「ザラ」が国内ユニクロの9掛けになる。日本国内の同一商業施設における「ザラ」と「ユニクロ」の坪売上格差はもっと大きく、「ザラ」は「ユニクロ」の7掛け程度に留まる。グローバル統一MDゆえのローカル対応の欠如が要因で、後述するが日本市場でのインディテックスは勢いを失っている。

 H&Mは売り場面積の開示がないため坪売り上げは算出できないが、平均店舗売り上げは4144.3万SEK(5億3047万円)とファーストリテイリングの89%、国内ユニクロの6掛けに留まる。日本国内の坪売上格差はさらに大きく、同一商業施設での販売効率は「ユニクロ」の3〜4掛けに留まるケースが多い。

棚資産回転とOMOの格差

 インディテックスの棚資産回転日数は前期から1日短縮の93.3日で、11.8日短縮しても136.1日のファーストリテイリング、4.7日短縮しても144.9日のH&Mに比べればまだ回転が速い。低コスト生産地で大量生産した在庫を売り減らすダム型サプライのH&Mとファーストリテイリングに比べれば、小ロット(H&Mより1ケタ少ない)短サイクル生産で本部も各国も倉庫在庫を持たず一撒きに徹するインディテックスの棚資産回転が速いのは必然だが、DX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使した小ロット短サイクル生産の越境ECで実質無在庫販売するシーイン(SHEIN)に比べれば格段にスローな旧世代モデルと言わざるを得ない。

 インディテックスの棚資産回転の速さのもう一つの要因が店舗在庫引き当てによるC&C(クリック&コレクト、店渡し・店出荷)で、H&Mのように各国にEC用の出荷倉庫を配して在庫を積んだり、国内ユニクロのようにEC専用の出荷倉庫を設けて店舗物流と分離したりすれば在庫が分散して非効率化するのはもちろん、顧客が受け取る利便(速さと送料負担)も損なわれるばかりか、店舗在庫が圧迫されて売り上げが落ち込むリスクも指摘される。店舗軸に徹したインディテックスのOMO(オフラインとオンラインの融合)は効果絶大で、22年1月期のオンライン売り上げは75億ユーロ(EC比率27.0%)に達して24年には30%への到達を見込む一方、坪売り上げも前々期を5.1%上回ったが、店舗軸OMOへの決断が遅れた国内ユニクロのEC比率は15.1%に留まって坪売り上げも前々期を12.4%下回った。

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