クリスチャン ルブタン エス アー エス(CHRISTIAN LOUBOUTIN SAS以下、ルブタン)およびデザイナーのクリスチャン・ルブタン氏がシューズブランド「エイゾー(EIZO)」などを運営するエイゾーコレクションを相手取り提訴した件について、東京地裁はルブタン側の請求をすべて棄却した。ルブタン側は、エイゾーコレクションが「ルブタン」の定番といえる赤い靴底(レッドソール)のパンプスに類似した商品を製造販売したと主張し、同社に対して損害賠償などを求めて提訴していた。ルブタン側は、“レッドソール”で有名な「ルブタン」の周知著名性を使用してエイゾーコレクションが類似商品を製造販売し、「ルブタン」の商品と混同を生じさせたことが不正競争に該当すると主張。合計で約4200万円の損害賠償と、エイゾーコレクションが製造販売しているパンプス7種の製造販売および展示の禁止を求めていた。これに対してエイゾーコレクションは、「ルブタン」のレッドソールは「新規性、特異性がないため特別顕著性が認められず、また、周知性も認められない」と反論。「女性用ハイヒールは世の中にありふれたもの」「(ルブタンのレッドソールの)赤色も、パントン社が色見本として販売する赤色の一つとして市場に一般的に流通している色であって(中略)特別特殊な色というわけではない」「日本では(中略)伝統的な漆塗りの下駄底から女性用ハイヒールの靴底に至るまで、靴底部分に赤色を配色することが多数の事業者において慣習上一般的になされて」きたと主張する。
本件について裁判所は、マニキュアのような光沢がある「ルブタン」のレッドソールと、ゴム製の「エイゾー」の赤い靴底とでは、光沢や質感の点で与える印象が異なるなどと判断し、不正競争には該当しないと判断。また、赤色についても「ファッション関係においては国内外を問わず古くから採用されている色であり、(中略)原告商品が日本で販売される前から靴底の色彩として継続して使用され、(中略)一般的なデザインとなっている」と述べるなど、ルブタン側の主張を認めず、要求をすべて棄却した。
本判決を受けてエイゾーコレクションの松村康信社長は「妥当な判決と受け止めている。弊社としては“赤はみんなの色”と考えている。誰かが発明した色ではなく、特に日本においては古来よりなじみのある色であり、さらにファッション業界では、誰もが容易に発想し得る色だと認識している」とコメントした。ルブタンからは本記事掲載までにコメントを得られなかった。
エイゾーコレクションは、「エイゾー」「ビュー(VUE)」「エイゾーブラック(EIZO BLACK)」などを展開する1983年創業の婦人靴メーカー。
ルブタンのレッドソールを巡っては過去にも各国で訴訟が起きている。2012年には「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」が赤い靴底の靴を販売したことを受けて提訴した。この時は、一審で「ルブタン」が敗訴したが、二審では靴底と上部の色にコントラストがある場合にのみ「ルブタン」の商標権が認められると部分的に認定し、「イヴ・サンローラン」が販売した赤い上部に赤い靴底のシューズは商標権の侵害に当たらないと判断した。また、オランダのシューズチェーン、ヴァン・ヘイレン(VAN HAREN)との間で係争している商標権侵害訴訟では、18年に欧州司法裁判所がルブタンのレッドソール商標は有効だと判断した。
ルブタンの主張によると、レッドソールは、オーストラリアやカナダ、フランス、EU、ロシア、シンガポール、英国、米国などを含む50カ国で商標登録されているという。日本では15年に商標登録を出願したが、19年に拒絶された。現在は拒絶査定に対する不服審判の審理中だ。