「WWDJAPAN」ポッドキャストシリーズの連載「考えたい言葉」は、2週間に1回、同期の若手2人がファッション&ビューティ業界で当たり前に使われている言葉について対話します。担当する2人は普段から“当たり前”について疑問を持ち、深く考え、先輩たちからはきっと「めんどうくさい」と思われているだろうな……とビビりつつも、それでも「メディアでは、より良い社会のための言葉を使っていきたい」と思考を続けます。第18弾は、【ドレスコード】をテーマに語り合いました。「WWDJAPAN.com」では、2人が対話して見出した言葉の意味を、あくまで1つの考えとして紹介します。
ポッドキャスト配信者
ソーンマヤ:She/Her。翻訳担当。日本の高校を卒業後、オランダのライデン大学に進学して考古学を主専攻に、アムステルダム大学でジェンダー学を副専攻する。今ある社会のあり方を探求すべく勉強を開始したものの、「そもそもこれまで習ってきた歴史観は、どの視点から語られているものなのだろう?」と疑問を持ち、ジェンダー考古学をテーマに研究を進めた。「WWDJAPAN」では翻訳をメインに、メディアの力を通して物事を見る視点を増やせるような記事づくりに励む
佐立武士(さだち・たけし):He/Him。ソーシャルエディター。幼少期をアメリカ・コネチカット州で過ごし、その後は日本とアメリカの高校に通う。早稲田大学国際教養学部を卒業し、新卒でINFASパブリケーションズに入社。在学中はジェンダーとポストコロニアリズムに焦点を置き、ロンドン大学・東洋アフリカ研究学院に留学。学業の傍ら、当事者としてLGBTQ+ウエブメディアでライターをしていた。現在は「WWDJAPAN」のソーシャルメディアとユース向けのコンテンツに注力する。ニックネームはディラン
若手2人が考える【ドレスコード】
ドレスコードは日本語では「服装規程」と呼ばれ、TPOにふさわしい装いのガイドラインやルールを指す。公衆では服を着用することなど法律やモラルで定められるもの、宗教で勧められた服装、行事を含めた文化的な理由で着るもの、職場や学校といった機関が設定する制服、年齢や性別などコミュニティー内で暗黙の了解で決められるものまで、さまざまなレベルで存在する。
行事で定められるドレスコードには、例えば結婚式でドレスを着る場合、花嫁のドレスと同じ色は避けて主役より目立つことを控え、露出を抑えたアイテムを選ぶことなどが挙げられる。成人式や卒業式でも、振袖やスーツが晴れの日にふさわしい装いとされている。近年では、ジェンダーによって男性はスーツ、女性は華やかなものを着用するべきだという固定観念に挑戦する装いも見られるようになっている。
職場では、スーツがビジネスの場におけるドレスコードとなっており、男性はネクタイやジャケットでカジュアルさを調整する。明治維新をきっかけに、洋風の生活様式が取り入れられた際に男性社会に“近代的”装いとして普及したスーツだが、日本の高温多湿な気候や地球温暖化による温度上昇によって限界を感じるようになり、「男性はスーツ」という価値観も見直されつつある。石川優実が提唱した「#KuToo」は、女性に対する職場の服装規程で、ヒールのあるパンプスを履くことの強制や、高さまで指定する風習に意義を唱えた。
イスラム教徒の女性は頭部を覆うスカーフであるヒジャブを巻くなど、宗教的観点からもドレスコードは存在する。またイスラム圏では、宗教的施設を観光したり、海水浴場に行ったりする場合は、所属する宗教に関わらず女性は露出を控えるルールを設ける空間もある。ただ近年は、“イスラム・フォビア”にも見られるように、イスラム教に対するヘイトが集まっており、ヒジャブを“抑圧の象徴”とみなす宗教的偏見がある。2016年にはフランスで、イスラム教徒の女性が着用する肌を覆う水着“ブルキニ(burkini)”の着用を禁止する事態にも発展した。
スポーツの場でも、ユニホームを通したドレスコードは存在する。特に女性選手のユニホームは、競泳やビーチバレー、陸上競技や体操競技など、幅広いジャンルでレオタードや上下のセパレート型のものなど、露出の多いウエアが採用されている。21年7月には、ノルウェーの女子ビーチハンドボール選手らが規定のビキニ着用を拒否し、太ももに当たる短いパンツで試合に挑んだところ、欧州ハンドボール連盟により罰金が科された。居心地の悪さや性的に見られることに抗議する選手がいても、誰もがプレー中の何を着用するか自由に選べない現状がある。
一方、クラブなどのカルチャーシーンにおけるドレスコードには、テーマを設けたり入場者の装いをある程度そろえたりして、世界観を創ることもある。ドレスコードというとカジュアルなものや個性を排除して、社会のために“固い”服装をすることが根底にあると感じられるが、オールホワイトや1970年代風のファッションをテーマにしたものなど、遊び心のあるドレスコードもある。ドイツ・ベルリンのクラブ「ベルグハイン(BERGHEIN)」はドレスコードの基準を明記していないものの、厳しい入場規制があることで知られている。判断基準が不明瞭であることから、ドレスコード以外にも、その人の体形やジェンダー、人種などのバイアスによって入場規制がかかっているのではないかと指摘する声も存在する。
ドレスコードを理解する上で大事なのは、「誰のためにあるものなのか」「何を守ろうとしているのか」を考えることなのではないだろうか。漠然と“社会のTPO”を考えてしまうと、何を尊重するためのルールであるのかから離れてしまう。大手企業の中にはスーツ規程や髪色の規定を見直すところも増えており、服装の選択肢が広がっている風潮がある。ドレスコードの意味を理解してその場や人に敬意を払いつつ、ただ個人を“縛る”だけではないあり方が見つけられるはずだ。
【ポッドキャスト】
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