「ドールズサン(DOLLSSAN)」は、手作りのぬいぐるみをインスタグラムや展示イベントを中心に発表している“ぬいぐるみメゾン”だ。ドールズさんこと那須野さつきの作品は、耳に安全ピンを大量につけたコアラや、手足に4つの目があるゾウなど、かわいいのか、ポップなのか、毒々しいのか、一言では言い表せない不思議な魅力がある。その個性が徐々に注目を集め、13日間の展示で1万円前後のぬいぐるみ100体が完売。さらに、パリ・メンズ・コレクションにも参加しているファッションブランド「キディル(KIDILL)」とはぬいぐるみをドッキングさせたウエアを共作し、「ビームス(BEAMS)」主催の企画展に参加するなど、ファッション界からも注目を集めている。型破りなぬいぐるみの数々はどのようにして誕生しているのか。そのクリエイションに迫るべく、那須野にインタビューを行った。
WWD:ぬいぐるみを作り始めた経緯は?
那須野さつき氏(以下、那須野):美術の勉強をしていたと思われることも多いのですが、もともとトリマーの学校に通っていたんです。毛のフワフワを形作ることは楽しかったのですが、犬の扱い方が本当に難しく感じて、生き物にハサミを向けるのが怖くなってしまった。トリマーとして就職したものの、働いた期間は短かったですね。
これからどうしようかと考えていたとき、ふいに幼い頃にフェルトで人形を作るのが好きだったことを思い出したんです。そして偶然入った喫茶店でクリエイターが集まるイベントのチラシを見つけて、それに参加したところからぬいぐるみ作りが始まりました。
WWD:ぬいぐるみ作家として活動していく覚悟を決めたきっかけは?
那須野:しばらくはイベントに出展し、ビンテージのトランクにぬいぐるみを入れて売るスタイルで活動していました。でも、私は絵を描くような感覚でぬいぐるみを作っていきたいと思うようになった。そんな心境の変化が、きっかけかもしれません。それからはイベント出展よりも個展を増やし、作風も変わっていきましたね。
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WWD:「ドールズサン」の作品はどのように生まれている?
那須野:基本的にはアドリブです。最初からデザインが決まっているわけではなく、生地を選んだらとにかく切り始めます。黙々と作業しているときも頭の中は暇だから、考えていることや耳から入ってきた情報、昨日見たものとかがぬいぐるみに出ちゃう。
WWD:具体的にいうと、どういった部分?
那須野:例えばこのゾウのぬいぐるみだと、赤と緑の組み合わせがかわいいなと生地を選んで作り始めたら、切りっぱなしになっていたフェルトが目に入ってきたんです。それをゾウの手に当てたら目のように見えて面白かったので、手足に目を四つ付けることを決めました。さらに、ピンクのガムテープも目に入ったので、切って貼って完成させたという感じです。
“隠れクマタン(sharaku)”は、もともと個展で飾っていたときは目にライトを入れてビームが出るようになっていたんです。個展が終わってからリメイクのアイデアを考えていた頃に“隠れキリシタン”について知り、“隠れクマタン”のイメージが湧いてきてこう仕上がりました。“隠れキリシタン”に着想していることが誰かに伝わるかなと期待したのですが、結局、誰にも気づいてもらえませんでした(笑)。
WWD:表現の手段として、ぬいぐるみを選ぶことのメリットは?
那須野:まず、フワフワでかわいいこと。そして、誰にとってもぬいぐるみは愛着や懐かしさがあること。そういう温かみがベースにあるおかげで、どれだけクセの強いことやハードなことをやっても“かわいい”という印象に吸収されたり、ギャップが生まれてより魅力的になったりするので、そういう意味でぬいぐるみという素材は面白いで
すね。
今、作りたいのは
“爆発力のある一点"
WWD:個人的に気に入っているシリーズは?
那須野:名画をフワフワのぬいぐるみで再現する“絵画シリーズ”は、作るのが本当に大変ですが、やっていて楽しいです。これまでに、ピカソの「ゲルニカ」や「泣く女」を作りました。作り方は、ベースになる生地を2mくらい買い、絵を見ながら下書きせずに大体の位置に色を置いて仮止めして、本縫いしながらフェルトでラインもつけていきます。これを全部手縫いでやるので、必死でやっても一つ作るのに一カ月くらいかかります。
WWD:「キディル」とコラボレーションしていますが、ファッションとぬいぐるみを掛け合わせた作品づくりで感じたことは?
那須野:「キディル」との共作は、参加した企画展の会場にヒロ(末安弘明デザイナー)さんが来ていて、ぬいぐるみを気に入ってくれたことがきっかけです。ヒロさんがチャンスをくれたおかげで、視野が広がりました。歩くモデルが身に着けてかっこよく動くのはどんなぬいぐるみなのかなど、これまでとは別の角度から考える視点をもらえましたね。ヒロさんが「ドールズサン」のぬいぐるみをファッションの一部として扱ってくれたり、「ビームス」の担当者さんが面白がって応援してくれたりしたおかげで、アートとして見てくれる人が増えました。
WWD:2020年の暮れに出産を経験し、クリエイションで変化した部分は?
那須野:制作に使える時間は少なくなりましたが、時間が限られているからこそ、一つでインパクトを残す作品づくりに興味が出てきました。今考えているのは、ショーやビジュアルの撮影だけで使われるコスチュームだったり、ぬいぐるみで作ったヘッドピースだったり。量産はできないけど、爆発力のある作品を作りたいです。