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「TikTok売れ」が起きる理由とは? 「ケイト」“リップモンスター”の大ヒットの裏側をひも解く

 TikTokをきっかけに商品が売れる「TikTok売れ」現象が起きている。カネボウ化粧品「ケイト(KATE)」の“リップモンスター”も「TikTok売れ」した商品の一つだ。“リップモンスター”のプロモーションでは、発売前から発売当日まで、TikTokやYouTubeほか、各デジタル媒体の特性を意識したターゲットへの情報の出し分けや情報を届けるタイミングまで、総合的なコミュニケーションプランを設計し実施した。その結果、若年層を中心に話題となり、口コミが拡散され、新規顧客の獲得に成功。発売から約1年で累計出荷本数350万本(2021年4月20日~2022年5月20日)を突破した。そこで、「ケイト」ブランド担当者らにマーケティング効率を向上させたTikTok広告の活用法を聞いた。

メイクをする高揚感を
TikTokで体現

WWDJAPAN(以下、WWD):“リップモンスター”のプロモーションでTikTokを選んだ理由は?

若井麻衣 「ケイト」PR担当(以下、若井):“リップモンスター”の開発当初、化粧品市場ではコロナ禍による影響で「リップを発売しても売れない」という風潮が広がっている時期だった。一方でSNSなどを見ていると、トレンドに敏感な若年層による「マスクをしていてもメイクを楽しみたい」というニーズの高まりを感じていた。そこで、こういう時だからこそメイクを楽しめるようなアイテムやコミュニケーションが必要だろうと、商品開発に踏み切った。

 マスクをしていても色が落ちにくく、保湿力と高発色を兼ね備えた機能面から、ソフト面では「なんかワクワクする」と感じられるような施策を打ちたかった。そこで、商品名の“リップモンスター”しかり、「欲望の塊」「ラスボス」といったキャッチーな色名をつけ、デジタル上でシェアしたくなるようなネーミングにこだわった。コミュニケーションにおいては、メイクをする高揚感を伝えるべく、体験もできて見るだけでも楽しめるプラットフォームとしてTikTokを活用した。TikTokであれば、外出が制限されている中でもみんなと共有してメイクを楽しめるきっかけを提供できるだろうという強い期待をしていた。

「TikTok売れ」が起きた
“リップモンスター”

WWD:TikTokを活用する上で意識したことは?

新井堅斗 電通デジタル シニアアカウントプランナー(以下、新井):ニューノーマルの影響による店頭のタッチアップの自粛やテスターの使用制限を背景に、商品設計の段階から体験機会の創出を重要視していた。そこで、TikTokでオリジナルのブランドエフェクトを開発した。マスクを外しても、口元に“リップモンスター”の高発色な色味を楽しめる演出とともに、ユニークな色名が一緒に広がるように意識。エフェクトに商品のネーミング(テキスト情報)が入るように仕掛け、興味関心を喚起した。エフェクト利用の動画は、約1600回投稿され、エフェクトの利用体験は約27万5000回、エフェクト利用の動画総再生回数は約460万回(2021年5月1~6日)だった。リップを楽しく試すことができるという体験価値を提供することに成功した。

自粛生活でも
メイクを楽しめる場を創出

WWD:TikTokをどのように活用したのか。

若井:まずは“リップモンスター”の認知を広げるために、発売前から「ケイト」公式のYouTubeや口コミ施策で種まきをし、美容感度の高い人の口コミが溜まっていた。そして、発売当日(2021年5月1日)から人気TikTokクリエイターを起用した動画を投稿し、さらにそのクリエイター動画をブーストすることができる新しいインフィード広告「Spark Ads」を配信した。そこから一気に広がり、商品への興味喚起や期待感を高められた。

 また、TikTokのコメント欄でも「どの色がおすすめ?」「全色ほしい」などユーザー間でのコミュニケーションが自発的に生まれ、それを見た別のユーザーへの波及効果もあり、予想を上回る多くの反響をいただいた。この動画がきっかけとなり、若年層を中心に真似る人が続出。TikTok施策の後押しもあり、“リップモンスター”は発売1週間でセルフメイクの口紅市場においてシェア50%超え(2021年5月3~9日、インテージSRI+調べ)を記録。その後、SNSを中心に多くの口コミが拡散されて現在では全口紅市場でシェアNo.1まで成長した。今も品薄状態が続いておりお客さまにご迷惑をお掛けしているが、TikTokのコメント欄で「この店舗にあったよ」など、ファン同士のコミュニケーションも積極的に行われており印象的だった。

新井:TikTokは、既存のお客さまだけではなく、潜在的なお客さまにも商品を知ってもらう場所であり、体験ができる場所でもある。TikTokの調査によると、TikTokユーザーは主体的な視聴態度で動画コンテンツを消費しているので、「おすすめ視聴」により新しい発見や興味と出合いやすい。さらに、TikTokクリエイターを起用することで違和感を感じさせず、商品を知っていただき、ユーザーの購買行動にもつながる。

 次々と最新トレンドを生まれるTikTokは、“エンターテイメントコンテンツプラットフォーム”となってきている。ブランドにとって、リーチのみならず、エンターテイメントを通じて、ユーザー(TikTokコミュニティー)とつながり、エンゲージメントを深めていくためのプラットフォームとしては欠かせない存在となっている。

WWD:今後TikTokをどのように活用していきたいか。

若井:TikTokはお客さまとの接点の場でもあるので、メイクを楽しめる体験機会の創出の場として引き続き活用していきたい。「ケイト」では、4月から民法の改正で成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことを受け、 “オトナ”になっていく多くの方にとって未成年最後となる3月31日に、もっと自由にメイクを楽しんでもらう場をTikTok内に用意した。さまざまなスタイルに変身することで新たな自分との出会いを楽しめるエフェクトが多くの共感を集めた。

新井:TikTokは若年層だけではなく幅広い世代に支持を広げ、コミュニケーションの一つの手段として定着している。ブランドとの接点作りという点においても期待が高いメディアだ。今後もブランドの価値向上につながる企画を提案していきたい。

製品の“疑似体験”が話題に
新規顧客の取り込みに成功

@01310mu どれも色合いが良くって可愛い!!どの色がタイプ??✨ #リップモンスター ♬ リップモンスター - KATE

 TikTokクリエイターが独自エフェクトを使った動画を投稿すると、それを真似したユーザー投稿が続出。TikTokのほか、ブランド公式のYouTubeやその他のSNSを使ったコミュニケーション施策により、若年層を中心に話題が広がり、新規顧客の獲得につながった。