ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。米アマゾンが衣料品の実験的なリアル店舗を出店すると発表した。まだオープン前で全貌は明らかになっていないが、ファッションビジネスの新しい潮流を作るでのはないかと期待が高まっている。公開された情報からその成否を考えてみよう。
米アマゾン(AMAZON)がショールーミング型ファッションストア「アマゾンスタイル(AMAZON STYLE)」を今年後半に立ち上げると発表したが、離陸さえ難しいと思われる。なぜならアパレルのショールーミングストアは試着サンプルの運用とBOPIS※.1利便に無理があり、先行した実験店はいずれも挫折しているからだ。
※1.BOPIS(Buy Online Pickup In Store)…ECで注文して店舗で受け取る顧客利便で、米国では駐車場受取のカーブサイド・ピックアップも多い。英国では受取所渡しも含めてC&C(Click&Collect)と言う
「アマゾンスタイル」の概要
アマゾンは同社初のショールーミング型ファッションストア「アマゾンスタイル」を今年後半、ロサンゼルスのグレンデールガレリアの向かいにあるライフスタイルモール「アメリカーナアットブランド」にオープンする。ノードストロム(NORDSTROM)や「J. クルー」(J.CREW)、H&Mなどと並ぶ30000平方フィート(845坪)の大型店はウィメンズ、メンズのアパレルやシューズ、アクセサリーをそろえるが、ロボットピッキングを行うバックヤードを合わせると40000平方フィートを超えると推察される。
店内にはアマゾンのAIアルゴリズムが選択した数百ブランドの数千アイテムがサンプルのみ展示されており(ゆえに同サイズ通常店舗の倍以上の選択肢を提供できる)、顧客は気に入ったアイテムを見つけるとスマートフォンのアマゾンショッピングアプリでタグのQRコードをスキャンし、色・サイズのバリエーションやレビューなどの情報を閲覧できる。画面の「試着する」をタップして試着を予約すればアイテムが用意され次第、プッシュ通知で試着室番号が表示される。試着しないで購入する場合は、「購入する」をタップするとピックアップカウンターにアイテムが運ばれる。
試着室には、指定したアイテムだけでなく顧客のアクティビティに基づいてAIがピックアップしたアイテムも用意される。顧客は好きなだけ試着し、壁のタッチスクリーンで商品を評価したり、他のアイテムをリクエストしたりすることもできる。バックヤードには同社フルフィルメントセンターのロボットピッキングシステムが応用されており、リクエストした商品が試着室に届くのに要する時間はわずか数分だ。試着品のピッキングはオートマチックでも商品の受け渡しや試着後の検品と棚戻し、精算は店員の作業が必要で、この人件費で先行実験組は音を上げた。「アマゾンスタイル」では棚戻しも自動化されていると推察されるが、その他の作業は人手に頼るしかない。
「アマゾンスタイル」でのアクティビティはオンラインストアのレコメンドにも反映され、販売価格もオンラインストアと変わらない。オンラインストアで気に入ったアイテムを「アマゾンスタイル」に送り、試着して気に入らなければ買わないで店を出れば良い。
「ザラ」も「ジーユー」も挫折したショールーミングストア
アパレルのショールーミングストアは、インディテックス(INDITEX)の「ザラ(ZARA)」(サンプル陳列のみ)や、ファーストリテイリングの「ジーユー(GU)」(全サイズ・カラー陳列)も試みたが期間限定の実験で終わり、多店化には至っていない。その敗因は試着用サンプルのピッキングと試着室へのセッティング、試着後の検品(再プレスが必要になる場合もある)とストックヤードへの戻しという運用に手間取る割にショールーミングによる売り上げが伸びず、在庫を抱える通常店舗に販売効率も収益性も及ばなかったゆえと推察される。通常の店舗でもストアアプリがあればタグの二次元コードからECに飛べるし、BOPISができる小売りチェーンも多くなった今日、サンプル試着型ショールーミングストアの存在意義は失われたのではないか。
売り場の商品タグに添付された二次元コードをスマホでスキャンしてECサイトに飛び、商品情報や価格を比較して購買を決定するというショールーミングは、家電など販売価格を比較するNB(ナショナルブランド)商品では一般化して久しいが、販売価格が統一されたアパレルやコスメでは価格を比較する意味がない。商品情報(ささげ情報)やレビュー(購入者評価)を確認するという目的なら事前探索のウェブルーミングの方が確実で、BOPISに直結する利便性も大きい。
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