ファッション

「リュウノスケオカザキ」は夢と現実の狭間を進む 感情を揺さぶるドレスの新章

 岡﨑龍之祐のファッションブランド「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」は、渋谷区や渋谷周辺の施設が参加するイベント“渋谷ファッションウイーク”の一環で、23体の新作を集めたコレクション“001”のランウエイショーの映像を公開した。映像は27日に渋谷で開催したショーを収録したもので、当日はメディアや一部関係者を渋谷・桜ヶ丘の再開発地区に招待した。会場は工事が着々と進む物々しい雰囲気で、招待者はマスクも含めて全身真っ黒に指定されたドレスコードに身を包み、全員が黒いヘルメットも着用するという異様な空間。一見すると、“自然との調和”を掲げる「リュウノスケオカザキ」のクリエイションとは相反するムードに、期待と不安が入り混じる。

 岡﨑デザイナーにとって、今回のショーは人生で2度目の経験だ。東京藝術大学大学院在学中からドレスを作り始め、卒業から半年後の2021年8月に文化庁の支援を受けて「楽天 ファッション ウィーク東京」で初めてのショーを開催し、学生時代からの作品も含めたコレクション“000”を披露。歩行のリズムに合わせて躍動するドレスが大きな反響を呼んだ。以降はファッションメディアに登場する機会も増え、「リュウノスケオカザキ」のドレスが「ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)」の表紙を飾り、2022年の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のファイナリストに選出されるなど、ファッション業界でのキャリアを着実に歩んでいる。

暗闇に浮かぶドレスの輪郭

 今回は“001”と題し、昨年のショー以降に制作した23体の新作で臨んだ。漆黒の会場に強烈なライトが灯ると、暗闇の向こうからシンメトリックなドレスの輪郭が徐々に浮かび上がる。鮮やかな色彩の組み合わせや柄でテキスタイルが際立った“000”に対し、“001”は過度な装飾をそぎ落とし、ストイックに造形美に徹した印象だ。前回よりも軽やかで、肌の露出が多かったのは、リズミカルに動く巨大なドレスの内側に生じる空間にも焦点を当て、肌との余白もクリエイションの一部としてデザインしたからだろう。その分、軽量のチューブで描く曲がりくねった装飾や、ドレスの引き裾という“足し算”のデザインが一段と主張していた。フィナーレで23着のドレスが連続すると、まるで夢の中にいるような光景で、むき出しの鉄柱が並ぶ現実的な空間でさえ、多様な美しさを引き立てるセットのように調和していた。

 岡崎デザイナーは、“001”でも物作りの根幹にある“祈り”と“自然との調和”を貫き、「手を動かし続けて初めて発見できるかたちや湧き上がる昂揚感」に向き合いながら、素材やフォームを通じて自身の造形への美学を表現したという。クリエイションの方向性はそのままに、生地についてさらに深く探求し、進化させることに挑んだ。また、物々しい工事現場も“自然との調和”なのだという。「服とこの場所は対極に見えるけど、人の生活の延長線上にできたものであれば、それも自然なのだと思う」。

 ショーと同じく、「リュウノスケオカザキ」自身もまた夢と現実の狭間にいる。“000”が与えた衝撃は、おそらく本人の予想以上に大きかったはずだ。ファッション業界から注目を浴びれば浴びるほど、ビジネスについて本気で考えるタイミングが迫ってくる。「商品化はいつ?」と繰り返し聞かれたり、記者に囲まれたり、前回と比較されたり、シーズンごとに新作が期待されたりすることは、ファッションビジネスの世界では当然の“現実”なのだから。しかし例え現実に直面しても、岡崎デザイナーのルーツからにじみ出る、人の心を動かすクリエイションはこの先も揺るがないだろう。小難しい考察よりも、「きれい」「すごい」「かっこいい」というシンプルな直感を呼び起こす“夢”のドレスは、ビジネスになりすぎたファッション界を揺さぶる力がある。光に向かって歩み始めたばかりの26歳は、これからどう進化していくのだろうか。

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