「WWDJAPAN」ポッドキャストシリーズの連載「考えたい言葉」は、2週間に1回、同期の若手2人がファッション&ビューティ業界で当たり前に使われている言葉について対話します。担当する2人は普段から“当たり前”について疑問を持ち、深く考え、先輩たちからはきっと「めんどうくさい」と思われているだろうな……とビビりつつも、それでも「メディアでは、より良い社会のための言葉を使っていきたい」と思考を続けます。第19弾は、【アンニュイ】をテーマに語り合いました。「WWDJAPAN.com」では、2人が対話して見出した言葉の意味を、あくまで1つの考えとして紹介します。
ポッドキャスト配信者
佐立武士(さだち・たけし):He/Him。ソーシャルエディター。幼少期をアメリカ・コネチカット州で過ごし、その後は日本とアメリカの高校に通う。早稲田大学国際教養学部を卒業し、新卒でINFASパブリケーションズに入社。在学中はジェンダーとポストコロニアリズムに焦点を置き、ロンドン大学・東洋アフリカ研究学院に留学。学業の傍ら、当事者としてLGBTQ+ウエブメディアでライターをしていた。現在は「WWDJAPAN」のソーシャルメディアとユース向けのコンテンツに注力する。ニックネームはディラン
ソーンマヤ:She/Her。翻訳担当。日本の高校を卒業後、オランダのライデン大学に進学して考古学を主専攻に、アムステルダム大学でジェンダー学を副専攻する。今ある社会のあり方を探求すべく勉強を開始したものの、「そもそもこれまで習ってきた歴史観は、どの視点から語られているものなのだろう?」と疑問を持ち、ジェンダー考古学をテーマに研究を進めた。「WWDJAPAN」では翻訳をメインに、メディアの力を通して物事を見る視点を増やせるような記事づくりに励む
若手2人が考える【アンニュイ】
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日本では褒め言葉で、メディアでも多用される。ファッションでは、襟付きのシャツなどクラッシーさを残しつつ、ゆったりとしたシルエットでこなれ感を演出するスタイルやくすんだニュートラルカラーの使用などが例に挙げられる。メイクでは、ムーディーな下まぶたのアイシャドウやファッション同様のくすみカラーの使用やそばかすを書き足して抜け感を演出することなどが特徴だ。ほかにも、無造作に見せるためウェーブを作るヘアスタイルや色素を薄く見せるカラコンなどが、「アンニュイ」なビューティとして知られている。いずれもこなれ感や抜け感を故意に作る、"あえて"の美学が根底にあるといえる。しかし、言葉自体がフランス由来であるように西洋的なインスピレーションは明らかで、そばかすやウェーブヘア、色素の薄い瞳など西洋人的な特徴を模倣したいわゆる"外国人風"の一面があることは否定できない。さらに、「アンニュイ」は身につけたものや一時的な感情や表情だけでなく、個人のスタイルや雰囲気を形容するためにも使われるようになっている。セレブリティーでは、小松菜奈やティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)、モトーラ世理奈らの名前が挙げられる。
「アンニュイ」は日本独自の発展を遂げたため、単語自体は存在するフランス語圏や英語圏でも通じないが、近いアイデアは存在する。"サッド・ボーイ(sad boy、sad boi)"は、哀愁や気だるさをファッションや音楽などのライフスタイルで表現する人々を表す。ネガティブな感情を、美しさやオシャレとして解釈をするプロセスは「アンニュイ」に通ずるものがあるが、"〇〇系男子"のように男性のみに使われることが多い。これは、伝統的に積極性や強さが求められてきた男性が、逆にメランコリックな雰囲気で魅力的になっているからだろう。イギリスのバンド、ザ・スミス(The Smiths)のモリッシー(Morrissey)は、ニヒルな歌詞、文学的趣味やソフトなシルエットのファッションから"サッド・ボーイ"のイメージが若い頃にあったほか、「アンニュイ」で名を挙げたティモシー・シャラメも表情や「君の名前で僕を呼んで(Call Me By Your Name)」などの登場作品から同様のイメージがあると言える。また、英語の"エフォートレス(effortless)"は、日本語の"抜け感"のような意味で、「アンニュイ」の脱力感のあるオシャレに近いニュアンスを持つ。
【ポッドキャスト】
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