PROFILE:(たじま・ろう)1974年生まれ。97年にマガジンハウスに入社し、「ブルータス」に配属となり、約18年間在籍。2016年に「ハナコ」編集長に就任し、リニューアルに着手する。雑誌作りに加え、デジタルや読者コミュニティ、海外事業、商品開発、クリエイティブレーベル事業などを幅広く手掛ける。21年12月から現職 PHOTO:ASUKA ITO
マガジンハウスの「ブルータス(BRUTUS)」は、4月から田島朗編集長が率いる新体制を本格始動した。年間23冊発行や雑誌作りの根幹はそのままに、今後はBtoBの制作案件などを受けるクリエイティブ・ブティック“プラン B(PLAN B)”を立ち上げる。さらに昨年9月にリニューアルしたデジタルの強化や、初夏をめどに読者コミュニティー設立を目指すなど、「ブルータス」ブランドのビジネスを拡張させていく狙いだ。過渡期を迎えるメディアビジネスで、「ブルータス」がこれから変わること、変わらないこととは。
【変わること】
編集者の知見を生かしメディアを“開放”
WWD:新体制で変わることは?
田島朗「ブルータス」編集長(以下、田島):クリエイティブ・ブティック“プラン B”の立ち上げや、デジタルの強化、夏ごろに読者コミュニティーを設立して、雑誌のイメージが強かった「ブルータス」を拡張し、同時に強くしていきたい。それが自分のやるべきことだと考えている。
WWD:“プラン B”発案の経緯は?
田島:「ブルータス」は、ファッションやカルチャーなどのジャンルを超越しながら、らしさを保ってきた珍しくて不思議な雑誌だ。マガジンハウスの中でもクリエイティビティで勝負してきたメディアである。新しい視点を常に探り続けてきた編集部の知見や人脈、センス、それに広いテーマに楽しんで取り組んできた彼らのパッションやパワーで、クライアントと一緒に何かを作れたら面白いと思ったのが出発点。編集者のスキルを雑誌作りだけではなく、企業の課題解決に役立てたい。これまでも付き合いのある企業の制作案件は受けてきたが、今後は誰でも気軽にアプローチできるようにどんどん開放していきたい。
WWD:自身の経験も関係している?
田島:「ハナコ(HANAKO)」編集長時代にアイスクリームを開発した際、パッケージを作ったり、味を考えたり、試食を重ねたりする過程は、表紙やページネーションを決める編集作業とあまり変わらない感覚だった。編集者って何でもできるんだなと気づき、同時にいろいろな可能性を感じた。
WWD:“プラン B”の体制は?
田島:編集者の伊藤総研さんをクリエイティブ・ディレクターとして招き、現在10人の編集部員と外部クリエイターを束ねてプロジェクトを進めてもらう。編集者は究極のプロジェクトマネジャーだと考えているので、さまざまな案件をパラレルに並行してできるのが強みだ。
WWD:デジタルと読者コミュニティについては?
田島:デジタルは昨年9月にリニューアルし、PVは300%、UUは340%の伸び率だ。今後は編集部の体制を整えてオリジナルの記事を充実させ、“雑誌のおまけ”ではなく一つのメディアを作っていく。読者コミュニティはまだ構想中だが、いろいろな趣向の読者を抱える「ブルータス」だからこそ、今までになかったものにしたい。最終的に収益化させたいが、有料会員や有料コンテンツという考えは現段階ではない。
【変わらないこと】
1日でも長く年間23冊発行し続けたい
WWD:「ハナコ」から「ブルータス」に戻って編集部に変化は?
田島:いい意味で変わっていなかったのは、雑誌の強さ。私の前任者であり、師匠でもある西田善太(現ブランドビジネス領域担当 執行役員)が作り上げた「ブルータス」らしい編集の視点や、考え方、それを編集部員たちが誰に教わるわけではなく、自分でやりながら覚えていくスタイルは何も変わっていなかった。
WWD:「ブルータス」らしい編集とは?
田島:コアバリューとして掲げた“新たな視点を求める、すべての人に”という考え方。クリエイターやイノベーターのための本ではなく、職種や年齢、性別を問わず、新しい視点が欲しい全ての人がわれわれの読者だと考えている。
WWD:では、守っていきたいことは?
田島:雑誌を、一日でも長く年間23冊発行し続けたい。これだけ発行できるからこそできる特集があって、結果的にそれがブランド作りにつながっている。最近反響が高かった昆虫特集は、正直作っているときは当たるかなんて分からなかった。でも、月に2回発行する軽やかさがあるから幅広いジャンルに挑戦できる。歴代10人の編集長たちが守ってきたことでもあるし、できる限り長く出し続けたい。
WWD:発行数の多さがブランディングにつながっていると。
田島:正直、23冊全部が160kmの直球みたいな特集だと疲れるし、読者にもストレートしか投げられない雑誌だという印象を抱かれる。だからいろいろな球種があっていいし、売れるかどうか確信がなくても、ひねった面白いこともやり続けたい。でもそういうのがちゃんと売れるのが「ブルータス」なので、そこも素晴らしい
60カ国を旅した
新編集長らしい1冊
田島編集長が率いる新体制で初となる特集が4月1日発売の“世界が恋しくなる料理。”だ。日本のエスニック料理を中心に紹介する同号について、「自分らしい1冊」と田島編集長。「『ブルータス』編集部に18年間在籍していたころはひたすら旅の担当をしていて、出張で60カ国ぐらい行った。だから自分が編集長の1号目も、旅をテーマにしたかった」。実際に旅ができない日々が続き、「世界や他国の文化を知ること、刺激を受けることの大切さを改めて感じた」といい、その感覚を届けたいという思いも込めている。「でも、“日本のエスニック特集”ってタイトルは絶対につけたくなかった。伝えたいことは何かを考え、そしゃくし、編集するのが『ブルータス』らしさだから」。