座右の銘は「泣かぬなら 笑わせてみせよう ホトトギス」。ZOZOTOWN立ち上げメンバーで、「ファッションチアリーダー」に就任した武藤貴宣氏が、ファッションへの愛と明るい未来について、ゆるく語ります。
(前回から続く)
前澤(友作)さんをずっと見てきて、何度か「天才だ」と語ってきましたが、最も天才的な経営判断は、澤田(宏太郎)さんを社長にしたことだと思います。
僕にとってはすごく意外な選択でした。意外過ぎて、面白かったです。澤田さん自身も予想していなかったんじゃないでしょうか。でも、株主や取引先、従業員など、いろんな目線から見て、相当考えて、社長に選んだんだと思います。優しくて、冷静で、人の意見をよく聞く。前澤さんのようなカリスマ性はないけれど、人間性が高いんです。ヤフー側や取引先も安心もするだろうし、社内においても、自分たちが主役になってやっていく、自分たちがやりたいことを提案できるという空気を醸成できます。全てにおいてバランスがいいです。澤田さんの社長就任によってそういう流れができていて、前澤さんの判断のすごさをひしひしと感じています。
澤田さんは、もともと人事などのバックオフィスのシステムを設計するスカイライトコンサルティング所属で、ZOZO(当時スタートトゥデイ)社内に常駐していた2人のうちの1人で、僕らからすると、「困った時に問題解決をしてくれるシステムの人」という感じでした。まだ上場する前の頃ですね。2人共優しくて、ちょっと面白くて、いつでもそばにいて皆の問題を解決する人たちでした。
会社の雰囲気にもなじんでいたし、すごくいい人たちだったから、前澤さんが「社員になってほしい」と頼んだんです。でもスカイライトにとっても2人は貴重な人材だったので、断られたんです。前澤さんは諦めず、スカイライトの社長に直談判に行って、「おまえ、そんな話しに来てんのに短パンで来やがって」みたいなことを言われる(苦笑)ところから始まり、粘り強く交渉しました。澤田さんたちは板挟みになって、すごく困ったと思いますが、ZOZOのことも好きになってくれていたので、最終的にはスカイライト側も2人の意思を尊重する感じになり、無事に入社が決まりました。
澤田さんたちが得意とする分野の延長線上で、何か新しい事業をやろうということで、スタートトゥデイコンサルティング(STC)が立ち上がりました。澤田さんを社長に、ZOZOTOWNの取引先の自社EC立ち上げを支援する事業の会社です。僕はずっと取引先を回っていたので、澤田さんと一緒に「自社ECを立ち上げて、ZOZOTOWNと物流一元化で一緒にやりませんか」という営業をしました。何年かすると、事業は軌道に乗ってきました。でもそこで前澤さんが「自社ECとZOZOTOWNは、いつかカニバる」という話をし始めたんです。
最初からそんなことは分かっていたけれど、二兎を追おう!でスタートしたんです。でも「今はいいけど、将来的なことを考えると、絶対カニバるし、うちのスタッフが、一つしかない在庫を自社ECで売るのか、ZOZOで売るのかで取り合いになって、けんかになったらどうするんだ。スタッフ同士、争わせたくない」みたいな。
結構激論になって、最終的にはやめる判断をしたんです。こちらがお願いして始めたオペレーションを、いきなりやめますとブランドさんにいうのもなかなかハードルが高いですよね。一社一社説得して、謝りに行くのも澤田さんと一緒にやりました。
風呂敷を広げては営業しに行って、閉じるときにまた謝りに行くパターンは、僕にとっては想定内だったのですが、澤田さんは、すごく悔しかったんだと思います。だから、ビームスに行ったとき、泣いていましたね。「僕の力不足で申し訳ございません」って。その姿を見てカッコいいなって思いました。情が深いところも見ていますし、取引先からのいろいろな要望に対して、ちゃんと的確に問題解決して、実現するスキルも見てます。ずっとSTCの社長でしたが、社長というより、すごく仕事のできる、頼りになる優しい人。社長っぽくない社長っていうのはすごく新しいし、本当に適任だと思います。(次回は4月25日12時にアップします)
武藤貴宣(むとう・たかのぶ)/ZOZOファッションチアリーダー:1978年2月6日生まれ、岐阜県出身。東京情報大学卒業後、東光オーエーシステムを経て、2002年にスタートトゥデイ(現ZOZO)に入社。04年、ZOZOTOWN立ち上げに携わる。19年5月から執行役員(EC事業本部管掌)。22年2月から現職。610(=むとう)は昔からのニックネームで、社内でも浸透している。趣味はジャケ買い、お墓参り