「WWDJAPAN」では年2回、百貨店特選(ラグジュアリーブランド)フロアの商況を取材し、「ビジネスリポート」という別冊にまとめています。2021年秋冬(7〜12月)の取材で個人的に印象的だったのは、有力百貨店がこぞって「特選消費の主役が若返っている」と話していたことです。従来の主役は外商客の60代以上の富裕層でしたが、彼らがコロナで外出を控えるようになっているため、30〜40代の新世代富裕層の存在感が大きくなっているということでした。
新世代富裕層の消費の凄まじさや、彼らが具体的にどんな人たちで、どんなものを買っているのかについては、弊紙の人気連載「今月の平山美春さん」をご覧ください(末尾の関連記事から飛べます)。平山さんは、“百貨店外商が今一番お近づきになりたい30代富裕層”とも言われる、麗しの人物です。
同時に、富裕層以外の一般の若年層の客も特選フロアには増えているんだとか。松屋銀座本店は「サステナビリティ意識の高い20代が、特選ブランドのサステナビリティ関連の打ち出しに共鳴している」、そごう・西武は「話題になっている“推し活”同様に、20代は(使えるお金自体は限られる中でも)自身が『これぞ!』と思うものへの消費は惜しまない。それで特選ブランドも売れる」と話していました。あとはフリマアプリが広がったことで、2次流通でも価値が下がらないものを求めた結果、特選ブランドに行き着く、という面も引き続き大きいと思います。
変化を迫られる“オーセンティック”ブランド
特選消費の主役が若返っていることは、今まで年齢層の高い富裕層女性を中心に支持されてきたブランドが苦戦しているということでもあります。百貨店によって呼び方は違いますが、“オーセンティック”“エスタブリッシュ”などとカテゴライズされる、売り上げの軸がバッグや靴ではなく、プレタ(洋服)のブランドです。士業や管理職など、責任ある立場の女性が着ているような、セットアップやスーツ、もしくは上質な日常着のブランド群がこれに当たります。
顧客対象が若返っていることを受け、ブランド側もイメージの刷新を進めています。例えば「セリーヌ(CELINE)」は、前任のフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)に代わって、18年2月にエディ・スリマン(Hedi Slimane)がディレクターに就いています。フィービーの知的な大人路線から、突如ナイーブさを漂わすティーンネージャーのイメージになったことで、「若返りすぎ」という困惑の声も当初は非常に多かったですが、ここ数シーズンはそのイメージもすっかり定着。エディー流のプレッピースタイルは、今や日本のリアルなファッショントレンドにも非常に大きな影響を与えています。ブレザーにジーンズ、ローファーといった、エディーフォロワーなスタイル、街でも店頭でも見かけることがすごく増えましたよね。今回のビジネスリポート取材でも、「『セリーヌ』が20代に売れている」という声は百貨店から非常に多かったです。
とは言え、「セリーヌ」はコロナ禍による市場の変化を受けて刷新したわけではありません。数年前から刷新してきた内容が、まさに狙い通りコロナ禍の市場にビタっとハマったというものです。コロナ禍は世の中に全く新しい変化を生み出したというよりも、起こりつつあった変化のスピードを加速させました。となると、コロナがなかったとしても結局市場はこういう方向に動いていたというわけで、それを見越してエディを抜擢していた「セリーヌ」経営陣のマーケティング眼には恐れ入ります。
藤原ヒロシとのコラボでブランド認知が向上
以上が「セリーヌ」の刷新事情ですが、一方で今まさに若返りの真っ最中なのが、「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」です。「ロロ・ピアーナ」といえば、カシミヤやビキューナといった最上質素材を使ったコートやニットで知られるイタリアのブランド。まさに前述の“オーセンティック”“エスタブリッシュ”カテゴリーに当てはまるブランドだったと思います。それが、「もともとは“オーセンティック”のカテゴリーだった(それで20年は売り上げも落としていた)のに、21年秋冬はかなり戻してきた。新規客も取れている」と、複数の百貨店が口にしていたんです。
イメージ刷新の目玉として、「ロロ・ピアーナ」は21年秋冬に、藤原ヒロシさんとのコラボ商品を発売しています。コラボをポップアップなどで打ち出した阪急うめだ本店では、21年7〜12月の売上高が前年同期比43%増、岩田屋も同40%増だったといいます。「ローラさんや桐谷美玲さんなどを起用したSNSプロモーションや、藤原ヒロシさんとのコラボでブランドの認知度が向上したことで、高額なケープやコートも好調だった」とは、阪急うめだ本店のコメントです。「一度袖を通してもらえれば価値は分かる。藤原さんとのコラボは、若年層に袖を通してもらうために効果的だった」というのがブランド側のコメントです。ちなみに、ヒロシさんとのコラボは、その第2弾がつい先週、4月6日に伊勢丹新宿本店や阪急うめだ本店、銀座のブランド直営店などで発売されています。
「セリーヌ」と「ロロ・ピアーナ」には共通点があります。それはどちらもLVMHグループの傘下であるということ。「ロロ・ピアーナ」は13年にLVMHグループ入りしています。これも今回の取材で多くの百貨店担当者が口にしていましたが、「(「グッチ」や「バレンシアガ」などを擁するライバル企業のケリングなどと比較して)とにかくLVMHグループのマーケティング力が圧倒的」だといいます。数年後の市場変化を見越してエディを「セリーヌ」に抜擢したこともそうですし、「ロロ・ピアーナ」でヒロシさんコラボやSNS施策によりバズを生み出したこともそう。話題を作り出すために、さまざまな投資ができるブランドや企業体、そのための資金力とデジタルを中心としたノウハウを持つところがいっそう売れていく時代です。それができなければ、いいものを作り続けていても時代に取り残されてしまう。そんなことを改めてまざまざと感じた、21年秋冬のビジネスリポート取材でした。