高島屋は、立川高島屋S.C.(東京都立川市)の百貨店区画「高島屋立川店」の営業を2023年1月末で終了する。同店は18年の大規模改装で百貨店区画を10フロア中の3フロアに縮小しており、すでに館の主役をニトリ、ユザワヤ、ジュンク堂書店といった専門店区画に明け渡していた。3割の区画を残し、かろうじて百貨店としての面目を保ってきたわけだが、消費市場の激変でそれすら難しくなった。
11日に行われた高島屋の22年2月期決算説明会(電話会議)。同社の村田善郎社長と並んで登壇した東神開発の倉本真祐社長は、立川高島屋S.C.について「高島屋の所有物件であり、それにふさわしい稼ぎを出さなければいけない」と話した。
立川高島屋S.C.の百貨店区画は、地下1階の食品、1階の特選ブティック・化粧品・婦人雑貨、3階の婦人服の3フロアのみだ。他の7フロアは51店舗が入居する専門店区画であり、家賃で稼ぐ不動産事業である。運営主体も高島屋本体ではなく、グループ会社でショッピングセンター運営を担う東神開発だった。約1万1000平方メートルの百貨店区画の売上高は、80億円(22年2月期)にすぎない。隣接する伊勢丹立川店の323億円(22年3月期見通し)にだいぶ差をつけられている。コロナによる販売不振が続く中、「(立川に)伊勢丹以外の百貨店が必要なのか」(倉本社長)という根本的な問いを突きつけられたという。
大都市をのぞき「地域二番店は成立しない」というのが近年の百貨店業界の常識だ。そのエリアで最も売上高を稼ぐ「地域一番店」に人気ブランドが集中し、二番店には回ってこない。ブランド側も一番店にエース級の販売員を送り込む。かつては共存できたが、百貨店マーケット自体の縮小が進んだため、二番店が分け前にあずかれる状況ではなくなっていた。
百貨店を核にしながら、併設する専門店で新しい客層も呼び込む――。高島屋は百貨店と専門店のハイブリッド運営で定評があった。古典的成功事例である玉川高島屋S・Cをはじめ、タカシマヤタイムズスクエア(新宿)、日本橋高島屋S.C.、柏高島屋ステーションモールなどで実績を築いてきた。だが、いずれも「強い百貨店」という核があればこそのハイブリッド運営だった。
百貨店区画を3割だけ残して効率化するという立川高島屋S.C.の4年前の目論見は、結果を見れば失敗に終わった。確かに販管費は削減された。しかし縮小された百貨店区画は、ブランドや品ぞろえの魅力に乏しく、集客力が落ちてしまった。縮小均衡の罠である。平時ならもう少し延命できたかもしれない。コロナ下の商環境では館全体の競争力の低下を招きかねず、見直しが待ったなしになった。
百貨店の衣料品売上高は20年間で3分の1
百貨店の収益の屋台骨は、利幅の大きいファッション部門である。ここの落ち込みの激しさも同社にとっては誤算だろう。立川高島屋S.C.は百貨店区画として3階に婦人服フロアを設けていた。同フロアの具体的な数字の推移は不明だが、衣料品がコロナ下で大打撃を受けたことは間違いない。
日本百貨店協会によると、百貨店における衣料品の売上高は2000年で3兆5476億円だったのに対し19年には1兆6833億円に減った。さらにコロナ後の直近の21年には1兆1664億円になった。00年比で3分の1である。コロナ前から直近にかけてオンワードホールディングス、ワールド、三陽商会といった大手アパレルが数百単位で売り場を削減し、一時代を築いたレナウンは倒産した。百貨店では婦人服や紳士服の売り場を埋められず、苦肉の策としてポップアップなどの催事スペースに充てる光景が全国で見られるようになった。
富裕層の地盤がないと生き残れない
欧州や米国を見渡しても大衆型の百貨店は淘汰されており、高所得の顧客に特化した百貨店に収斂される傾向にある。百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスや、大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ.フロント リテイリングは、富裕層を対象にした外商サービスの強化、ラグジュアリーブランドや時計・宝飾品など高額品の品ぞろえ拡充を事業戦略の柱に据える。数として少ないとはいえ、百貨店に対して年間数百万円を使うような富裕層は増えている。ショッピングセンターやEC(ネット通販)と競合しない富裕層を呼び込むことが、百貨店の現実的な生き残り策になっている。ただし、富裕層の強固な基盤を持てるのは大都市の大型百貨店にほぼ限られる。
立川高島屋S.C.は百貨店区画に「ルイ・ヴィトン」「グッチ」をそろえるものの、館全体としてみれば、富裕層を満足させるプレステージ性も、幅広い層にアピールする大衆性も中途半端になっていた。
立川は商圏としては肥沃なエリアといえる。周辺の昭島市や国立市などを含めて子育て世代の若いファミリー層が多い。実際、立川駅周辺の立川ルミネ、グランデュオ立川、少し離れた再開発エリアにはららぽーと立川立飛(15年開業)、イケア立川店(14年開店)が営業し、大勢の若者や家族連れで連日にぎわっている。
立川高島屋S.C.は、23年秋の専門店化によるリニューアルで若い世代を呼び込めるか。人気テナントを集めるのはもちろん、館としての独自性を高めることも不可欠になる。