レッドカーペットイベントや授賞式がリアルに戻った今シーズン、多くのセレブは久しぶりに華やかな衣装を身に纏い、スポットライトを浴びる場を楽しんだ。中でも今季はクリステン・スチュワート(Kristen Stewart)が着用した「シャネル(CHANEL)」のショートパンツやアリアナ・デボーズ(Ariana DeBose)の「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のパンツといった目を引く衣装から、従来の豪華なボールガウンといったハリウッドらしいルックがレッドカーペットを占めた。肌の露出度が高いような衣装はあまり多く見られず、レッドカーペットにエレガンスが戻ったといっても過言ではないだろう。
このトレンドをまさに体現したのがアカデミー賞授賞式でのニコール・キッドマン(Nicole Kidman)やグラミー賞授賞式のレディー・ガガ(Lady Gaga)だ。2人とも「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVE)」のカスタムガウンを着用した。2人の個性に合わせ、テイストもデザインも異なる衣装は、デザイナーのジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)のデザインの幅広さを物語った。
トニー・ベネット(Tony Bennett)との曲「ラヴ・フォー・セール(Love For Sale)」で最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバム賞受賞を受賞したレディー・ガガは、ホワイトのスカートがウエストに巻かれたブラックのワンショルダーのシルクガウン姿で登場した。一方、映画「愛すべき夫妻の秘密(Being the Ricardos)」でルシール・ボール(Lucille Ball)役を演じ、主演女優賞にノミネートされたニコールはパステルブルーのシルクガウンをチョイス。ペプラムスカートと大ぶりなリボン、ゴールドのクリスタルをあしらったエレガントなドレスだ。
米「WWD」は、ジョルジオ本人にレッドカーペットのトレンドや影響力ある女性の衣装を手掛けること、自身のデザインを着用したセレブを見た時の感動などについて聞いた。
WWD:クラシックなスタイルがレッドカーペットに戻ったと思う?それは昔ながらのハリウッドらしいスタイルなのか、もしくは言葉通りのクラシックなスタイル?
ジョルジオ・アルマーニ=デザイナー(以下、アルマーニ):はい、ハリウッドの黄金期を連想させるような、ドラマチックで煌びやかなグラマラスさが戻ってきている。私がキャリアを始めた頃と真逆なトレンドだ。ファッショントレンドは循環するもので、必ず何年かに1回戻ってくるからね。今は誰しもがSNSでスーパースターになれる中、みんなが大胆な夢を抱き、輝ける時代。だからこそ本当のスターたちはさらに輝かなければならない。彼らのスタイルをフォローすることはとてもワクワクすることだ。
WWD:ニコール・キッドマンとレディー・ガガは全く異なる性格の持ち主だが、2人とも授賞式で着用した衣装は素晴らしかった。彼女たちに共通するファッションのメッセージはあるのか。
アルマーニ:確かにニコールとレディー・ガガは全く違う女性だが、共に「アルマーニ」ウーマンであり、ファッションに大きな興味と熱量を抱いている。2人はドレスに負けることなく、自分らしく着こなせる。だからどれだけ華やかでゴージャスな衣装を着ても、個性が埋もれてしまうことなく、自分らしさが際立つのだ。
WWD:2人の衣装をデザインする際にこだわった点は?彼女たちから何かリクエストはあったのか?
アルマーニ:私が作る全てのドレスは、必ず会話から生まれる。着る人の要望に耳を傾け、それをデザインに反映する。2人は今、キャリアにおいて重要なステージに立っている。そこで、彼女たちの美しさや功績を讃えるようなドレスを作りたかった。また2人ならではの女性らしさも表現すべく、エレガントで品のあるニコール、色気のあるレディー・ガガを際立たせたかった。カラーパレットやデザインに関しては、ニコールには絵画的なもの、レディー・ガガにはグラフィカルなものを提案し、2人とも最初から気に入ってくれた。
WWD:自分でスケッチした衣装がレッドカーペットでセレブが着用しているのを見た時の感情はどのようなもの?人それぞれ立ち方だったりパーソナリティーがあったりするので、それも加味してデザインをする?
アルマーニ:ドレスは単体では動きのないもの。誰かが着て初めて命が吹き込まれ、その人その人のパーソナリティーにに合わせて動く。コレクションをデザインするときは特定の女性をイメージすることはないが、レッドカーペットは着る人のアティチュードや姿勢を知っているので、そういった要素をデザインに落とし込む。今でも自分が作ったドレスが、セレブが着用することによって生き生きと輝く瞬間を見ると、毎回感動するよ。
WWD:レッドカーペットのデザインはどのように進化してきた?
アルマーニ:時代に合わせて自分のスタイルも年々進化してきた。これまで、従来のグラマラスさに近いスタイルを自分のレンズを通してたくさん表現してきた。私は引き算をしたエレガンスが好きで、“やりすぎた”派手なグラマーは耐えられない。しかし派手なデザインやグラマラスさも上手に取り入れれば、素敵なクリエイションを生み出すことができる。その絶妙なバランスは面白いと思う。
WWD:衣装を手掛けた女優で驚いたことはある?
アルマーニ:予想外なディテールや気づきは必ずある。たとえば女優の歩き方だったり、見た目だったり。毎回何かしらサプライズはあるけれど、それもこの仕事の魅力の一つだと思う。
WWD:レッドカーペットは、今でも世間の憧れであり続けると思う?
アルマーニ:今も憧れではあるが、もしかしたら昔とは少し違う意味合いかもしれない。今はみんな、(SNSなどで)日々大量のニュースや写真を目にする。そんな中でレッドカーペットがハリウッドの全てではなくなったが、あの華やかさや雰囲気を真似できるイベントはないだろう。レッドカーペットの写真や記事はセレブやブランドへの憧れや興味を高め、たくさんの話題を生み出す。ポップカルチャーにはなくてはならない存在で、ファッションの重要性を物語る。