中高生のためのファッション育プロジェクト「フューチャー・ファッション・インスティテュート(FUTURE FASHION INSTITUTE、以下FFI)」は、「ファッション育」を通じて子どもたちの感性を磨き、未来の業界を担う人材やセンスを生かして働く子どもの育成を応援している。展示会への訪問や業界人へのお仕事インタビューなどを重ねるメンバーは、自らの体験をシェアして友人に刺激を提供。ポジティブなループを通して、子どもたちが「未来の自分」を思い描き、夢に一歩近づくことを願う。今回は「アニエスベー(AGNES B.)」を訪れ、ファッション業界のサステナブルについて学んだ。
学生が訪れたのは、「アニエスベー」青山店。店舗の2階はギャラリーとして、アートを展示・販売している。プレインターンは、「アニエスベー」が2019年に公式インスタグラムにアップした「I HATE FAST FASHION」という投稿の意味を学ぶことから始まった。創業者のアニエスベーやブランドの関係者は、ファストファッションの大量生産がもたらした大量廃棄や、原材料の生産地の特性やノウハウを軽視した画一的なモノづくりに警鐘を鳴らしてきた。露木麻理子アニエスベージャパン ブランド&デジタル部シニアリーダーは、「皆さんには、流行っているからという理由で衝動買いしてしまったり、バーゲンだったからつい買ってしまったりで、“ほったらかし”にしている洋服はありませんか?」と投げかける。そんな洋服も大事に着続けて欲しいというのが、「アニエスベー」のスタンスだ。
創業デザイナーのアニエスべーは昔から、彼女自身が最新コレクションの洋服を、それより前に発表し着続けている洋服とコーディネート。「ずっと着ていなかった洋服も、1つだけ、なにか新しいものと合わせると、新鮮な気持ちでもう一度楽しめる」という彼女の考え方に憧れるスタッフは多い。実際露木シニアリーダーは、「『アニエスベー』で働いて20年以上になりますが、今日のブルゾンは、ショップスタッフとして働いていた頃からの一着。スカートは、40年近い歴史あるモデルのリバイバル。改めて新鮮な気分でコーディネートしてみました」という。
色褪せない「アニエスベー」のデザインは、実際長く愛されている。例えばブランドを代表する“カーディガンプレッション”は1979年の誕生以来、ウィメンズやメンズ、キッズ、さまざまな色や柄はもちろん、長袖やボレロ、レザー、ネックラインにスタッズを施したタイプ、ロングドレスなど、既存のものを使って独自なものを生み出し続けながら現在に至っている。22年春夏シーズンに登場した新作「カーディガンプレッション ビオ」は、GOTS(オーガニックテキスタイルの世界基準)認証を得たオーガニックコットン100%の糸を用い、染色には天然の植物性染料を使用。技術継承のため、この商品は40年以上、フランスの同じ工場で生産し続けている。
一方バスケットバッグに用いるラフィアは、マダカスカルが原産のヤシの葉から取り出した天然繊維だ。はじめは硬いが使い続けると樹脂がツヤを生んで柔らかくなる素材は、家具などに仕上げる現地の職人の手作業を経てバッグになる。マダカスカルは政情不安が続き、現地の人々は不安定な生活に悩んでいるという。そこで環境に優しいモノづくりを継続して依頼することで生活の安定を願っている。
サステナブルの工夫は、
ハンガーから社内の自動販売機まで
地球環境に向き合うのは、「ファッション業界が、『汚染産業』と言われている」からだ。アニエスベージャパンの松戸美紗サステナビリティ・アンバサダーは、ファッション産業が世界の排水の20%、温室効果ガスの10%を生み出しているなど「汚染産業」と言われている現実を伝え、「ブランド立ち上げ当初から環境保護活動を続ける創業者のアニエスベー同様、私たち本社スタッフも全員、20年からサステナブル・プロジェクトに取り組んでいます」という。現在取り組むのは、①プラスチックの削減、②再生プラスチックの利用、③廃棄物の削減、④環境に優しいエネルギーの活用、⑤衣類回収などの各種プロジェクトなど。例えばプラスチックの削減については、「日本でも60%が燃やされたり、埋め立てられたりしている」現実に目を向け、まずは商品を守るための梱包資材に目を向けた。結果、梱包資材のスポンジはこれまでに7万6000個を削減し、ポリ袋にいたっては20万枚以上を廃止した。倉庫から店頭に商品を搬入するときのハンガーも、使い捨てを改めてリユースに。店頭では、今年中にショッピングバッグを本体だけでなくハンドルまで認証紙素材に切り替え。雨よけのカバーは2月に再生プラスチック素材に切り替え、緩衝材の“プチプチ(エアクッション)”も同様のサステナブル素材に切り替える予定だ。ECでも、プラスチックを使わない包装に改めた。商品の下げ札をプラスチックではなく糸でつけるようにしたり、バッグラインでは内装ラベルも再生ポリエステル素材に切り替えたりなど、サステナブルな取り組みは細部にも及んでいる。
また日本国内の「アニエスベー カフェ」でも、テイクアウトを含めてプラスチックの紙素材への切り替えを進め、昨年は400kgのプラスチックを削減した。努力は社内にもおよび、クリアファイルは紙製に切り替えた。さらにオフィスでは自動販売機を撤去することでペットボトルのゴミの半減に成功。さらにはペットボトル用のゴミ箱を撤去して、ゴミゼロも達成した。
ファッション業界は毎年9200万t、実にゴミ収集車が1秒に1回捨てるほどの繊維の廃棄物を生み出しているという。アニエスベーでは、店舗で不良品を生まないよう啓発ビデオを作成するなど努力を積み重ね、20年の洋服の不良品は半減、バッグでも25%の削減に成功し、昨年はさらに平均して14%の削減を達成した。これにより日本での商品廃棄は生産量の0.004%まで減少したが「この数値をゼロにするため、さらに努力を重ねている」。また、渋谷店は100%再生可能エネルギーを使用し、青山店はLED照明を導入するなど、環境に優しいエネルギー消費も心がけている。
個人としてのアニエスベーは、フランス本社のCEOでもある息子と共に、タラ オセアン(TARA OCEAN)財団を共同創立し、海洋科学探査船「タラ号」を購入。この船は世界を航海し、気候危機や環境破壊が海洋に及ぼす影響を調査・研究している。地表の7割は海で「海の健康」は「地球の健康」に直結するが、理解できていないことはまだまだ多い。「タラ号」はそんな謎の解明とともに、環境保護についての啓発活動に取り組んでいる。アニエスべーがサポートする活動らしいのは、船にはアーティストも乗船して、彼らのアートの力で経験を発表して、海洋保護の重要性を訴えている点だ。アーティストでなければ感じられない海の状態や様子、実際の海での体験を作品で発表し、「アートと科学の融合」を目指している。
参加した学生のレポートから
SDGsに色々な方法で注力し、たくさんの人に環境問題を伝えていることを知り「すごい」と思いました。私も、なにか行動しようという気持ちになりました。ありがとうございました。(Eri 中学2年生)
今はほとんどのブランドが「環境問題に取り組んでいます」と発信しているが、「どんなことをしているのか」を明記しているところは少ない。「何をしているのか、教えてほしい」と思っていたので、「アニエスベー」がしっかり教えてくれて嬉しかった。特に「タラ号」の取り組みは凄い。日本に来た時は存在を知らなかったので、また来日してほしい。代表的なカーディガンの素材を地球に優しくしたり、洋服を作る上で余った布でエコバッグを作ったり。それを私たちが使えば、「アニエスベー」と共に環境問題を解決しようとしている感じになれて「いいな」と思った。今春の洋服を見ることができて、先取り感があってすごく嬉しかった。(Hana 中学2年生)
SDGsなどにしっかり取り組み、ファッションブランドらしく伝えていた。SDGsに関する取り組みは、%で表したり、個数で表現したりバラバラ。「全然違うんだな」と感じた。身近でできるSDGsを考えようと思う。(Koto 中学2年生)
中高生向けだったので少し難しかったけれど、SDGsの17の目標は知っていた。ブランドの人が実行しているのを初めて聞けて、おもしろかった。海が好きで、「タラ新聞」を読んでいたので、「タラ号」の話がとてもおもしろかった。ファッションにはあまり興味がなかったけれど、ファッションもSDGsを意識して地球の問題を解決しようとしていることにびっくりした。これからもっとファッションにも興味を持ってみたい。(Ao 小学5年生)