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ファストリ柳井正会長が語った「ウクライナ紛争」「企業のあるべき姿」「成長の次の一手」

 「本気で次の成長を目指す」「企業こそが平和を作る」。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は4月14日、2022年8月期上期決算会見に登壇した。決算会見の場で半年ごとに行われる柳井会長のプレゼンテーションは、同社が今後長期的に何を目指すのか、なぜそう考えるのを知るための絶好の機会だ。コロナによる足踏み状態から次の一手へ。柳井会長のプレゼンテーションとメディアとの一問一答をまとめた。

 柳井正ファーストリテイリング会長兼社長(以下、柳井):ファーストリテイリングとして今何が最も大切だと考えているのか、今後どのような考え方で経営を進めていくのかをお話します。新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、一部の国や地域では今も拡大傾向にありますが、日本を含め多くの国では感染拡大に警戒しつつ、正常な経済活動や日常生活を取り戻そうとしています。これからは、いよいよウィズ・コロナの時代に入っていきます。この2年間、お客さまや従業員の感染防止、国内外の移動制限、物流の混乱といったことが影響し、ビジネスを思い通りに進められない状況でした。しかし、今からは新しい時代に向けて、改めて今期は新しい成長を目指していきます。

 今年の年頭、私はファーストリテイリンググループの一年の方針を「世界で稼ぐ」としました。私たちがお客さまに提供している“LifeWear”、つまり快適で豊かな生活を実現する高品質な日常着を、世界中のさまざまな国と地域で、現地の人々と一緒に作って売っていく、この姿勢をより徹底していきます。コロナの影響で、世界各地での新規出店ペースは落ちていましたが、今期から積極出店を再開し、近い将来に年間で400〜500店を作りたいと思います。

 同時に店舗とECの融合を世界各地で高いレベルで実現していきます。工場、倉庫、店頭の全ての在庫を一元化し、商品の企画から生産、物流、販売の動向、お客さまのご意見や要望、あらゆる情報を瞬時に把握し、それをもとに世界各地域のヘッドクオーターが現場で直接経営判断をしていく体制を構築します。そして、世界各地で集めた情報に基づき即座に商品化し、優れた技術を持つ世界中の生産パートナーと協力して新たな売れ筋商品を開発していきます。

 今月21日、英ロンドンのリージェントストリートに、「ユニクロ(UNIQLO)」と「セオリー(THEORY)」が同居する欧州で初の店舗がオープンします。今後、イタリアやスペイン、ドイツでも出店していきます。アメリカや東南アジアでも、中国と同様に服の分野で圧倒的なトップ企業となり、世界ナンバーワンのカジュアルウエア企業を今期で目指します。そのためのカギを握るのは人材です。世界各地で今後の会社の経営を任せられる人材が次々と育ち、私の経営を引き継ぐ次代の体制も大枠は固まってきています。世界各地で圧倒的な成長を成し遂げるために、立派に経営を遂行できる体制が整いつつあります。その点、私は何も心配しておりません。

あらゆる戦争に強く反対する

 企業の最大の意義は継続にあります。10年後、20年後、30年後、さらに次の世代まで見据える経営をする。それが本当のガバナンスであると思います。そして、上場企業の最大の目的は成長して収益を上げることです。目先の会計年度ばかりを考えて近視眼的な経営に陥らず、良い意味でのオーナーシップを維持し、より高い利益を上げ、株主の利益を守ります。少数株主の利益にも、引き続き十分な配慮をして参ります。そのために一番大切なことは、企業とは世の中にとって良いことをする存在でなければならないということです。

 まず、私たちの本業である服の事業を通じて、世界中のあらゆる人々により快適で豊かな生活を実現する。このことを徹底的に実現していきます。さらにサプライチェーンにおける人権や労働環境の尊重、気候変動などの地球環境問題、障がい者雇用、難民支援といった世界的な問題解決への取り組みを、より積極的に進めます。

 現在、ファーストリテイリングは世界27の国と地域に3500店舗以上を展開し、中国やアジアを中心に数多くの国々に生産パートナーも存在します。こうした地域では、現地のパートナーと一緒になって、多くの社員がボランティアとして社会貢献活動に参加し、現地社会に溶け込んでいます。しかし、こうした活動はまだ十分ではなく、出発点に立ったばかりですが、今後さらに力を入れていきます。

 私はあらゆる戦争に強く反対します。人々の人権を侵害し、平穏な生活を脅かすいかなる攻撃も非難します。現在行われている戦争を即座に停止し、国家間の深刻な対立をいかに解消し、どうすれば平和な世界ができるのか、世界中の人々が幸せに暮らすことができるのか、真剣にその方法を考えなければなりません。特に、日本はその役割を積極的に担うべきだと考えます。その点で企業の果たすべき役割は非常に大きいものがあります。企業にできることは限りがあるのではなく、企業にしかできないことがたくさんある。そう考えるべきです。暴力で解決できることは何一つありません。憎しみあって対立構造を作るのではなく、世界の人々が協調する。そのために企業としてできることを最大限やる。国が分断されても、企業は分断されません。むしろ分断を解消し、お互いの理解と融合を深めるのが企業活動です。

国ではなく、企業にしかできないことがある

 私たちの服の産業は平和産業です。人々の暮らしをより豊かに、楽しく、快適にする産業です。私たちの使命は、快適な普段着を継続的に人々に提供することにあります。現在のように混迷した状況にあっても、平和な社会の実現のために、一つ一つの企業、一人一人の個人が最大の努力をするべきです。そのために、私たちは世界各地で安定的に事業を継続し、経済の成長、雇用の確保に努力すると共に、緊急事態に対応するため、国連難民高等弁務官事務所を通じて(ウクライナ避難民支援のために)1000万米ドルの寄付を行い、20万点の衣料を提供しております。欧州各地で、多数の従業員有志がウクライナからの避難民の方々に直接日常の服をお届けする活動を始めています。戦火に見舞われている方々の境遇に深く思いを寄せ、今後も最大限の支援を続けていきます。

 平和は黙っていてもやってはきません。世界が一つにつながっている現代、戦争は違う国のことだから、自分は民間人だから、と傍観者になることはできません。服を変え、常識を変え、世界を変えていく。私たちの提供する“LifeWear”、そしてその基本となる“MADE FOR ALL”の核心は、服を通じて社会を変え、より良い社会を作っていく、そのこと自体にあります。平和な世界が実現しない限り、グローバルな企業として私たちが成長することは不可能です。冒頭に申し上げた世界ナンバーワンも、それでは何の意味も持ちません。

 私たちはこれまでの活動を通じて、国連難民高等弁務官事務所、国連女性機関、国際労働機関などの国際機関と長い協力関係があります。さらに、社会貢献を目的に活動する各国の民間団体、法人、世界中の心ある投資家の方々とも連携できる関係にあります。豊かで安定した社会の実現を他人任せにするのではなく、世界中のあらゆる人々との協働を通じ、自分たちの力で未来を作り出す、そのような考え方に立って今後も行動していきます。

 厳しい現実があっても、人類は必ず混乱を克服し、新しい平和で繁栄した時代がくると私は確信しております。アジアを中心に40億人の新たな中産階級が誕生しつつあります。この動きは止まることはありません。世界は確実にアジアの時代になります。発展途上国と先進国が協力し、その流れを促進し、人々の生活をより良くする、自国の都合のみを考えた国益ファーストではなく、本当の自由主義、民主主義の世界を実現する主役は、企業であり個人です。改めて、自分たちは何のために商売をするのか、企業の存在意義とは何か、自分たちの原点を深く考え、より平和な世界とより良い生活の実現に努力して参ります。今後ともご理解とご協力をお願いします。

【質疑応答】

――ウクライナ紛争など、世界情勢を今どのように見ているか。ファッション企業が何をすべきか。ファーストリテイリングには何ができるのか。

柳井:今の状況は危機的だと思いますが、世界の全てがそういうこと(悲観すべきもの)ではなく、欧州で起きたことが全世界に瞬時に伝わっているということは、(見方を変えれば)素晴らしいことでもある。ある一カ所で起きたことが世界中に瞬時に伝わり、世界中に影響を及ぼしている。そのことを世界中の人がもっと認識すべきだと思います。それぞれの役割と本質が問われる時代になっている。民間企業だから(支援が)できない、個人だからできない、ということではないと思っています。むしろ国だと国益が影響して、やりたくてもできない。民間企業や個人の方がむしろ自由にできる。ここは自由と民主主義の国ですから。その中で、本当にやってやろうと思っている企業や個人が少ないんじゃないかと思っています。

 日本は欧州から見たら極東、アメリカから見たら極西です。だからこそなんでもできるんじゃないか。日本はアジアで最初に先進国になった国ですし、ファッションにおいてもアジアで最初になった(産業や文化として成熟した)国だと思います。戦前は欧州、戦後はアメリカからファッションが入ってきて、それをうまく消化したのが日本。日本ほど情報に敏感な国はありません。日本の企業だからこそいろんな発想がきっとできると思うし、ファッション企業だからどうのということではなく、企業として個人として、できないことを考えるよりできることを考えて実行することが大事だと思っています。(ファーストリテイリングとして)できないことは何もないです。どんなことでもできると思います。日本には国益やアメリカとの軍事同盟など、いろんなものがある。国にはやりたくてもやれないことがあると思います。

――今後の価格戦略について。今春物は一部商品で値上げをしているが、今後の値上げをどう考えているか。

柳井:今の日本の経済情勢から考えて、安易な値上げはできないと思います。価格に非常に敏感ですよね。われわれは値上げはほとんどの商品でしていませんが、ほとんどしていない中でも「これは値上がりした」という情報はすぐに伝わります。それが今の現状です。ただし、原材料価格が2倍や3倍になっているなっているケースもある中で、それを今のままのプライスで売ることは不可能です。われわれも上場企業ですから、成長を目指していく中で利益がなければできません。それをどううまく努力していくか、それを考えて実行していく。ビジネスは会計年度やシーズンで考えるものではなく、もっと長期で考えるものです。2022-23年秋冬物、23年春夏物は考えに考えぬいたプライスになる。それが私の答えです。

――今後も値上げはやむを得ないということか。

柳井:やむを得ないということではないんじゃないでしょうか。考えに考え抜いたプライスならば、お客さまにご理解していただけると思います。

――中国のゼロコロナ政策が事業に与える影響は。

柳井:われわれも収益面や従業員の生活で大変困っています。しかしこれは国の政策なので、それぞれの国によって考え方は違います。やはりまずはコロナが早く収束すること、それが一番大事で、世界中で同時に(コロナに)対応していくことが重要だと考えています。

岡崎健取締役グループ上席執行役員CFO(以下、岡崎):中国の行動規制が今後どうなるかについては、我々がコントロールできることではありません。上海港からの出荷が難しくなるなど、個別の問題は出てきています。しかし起きている問題は仕方がないことなので、他の港から出荷するなどしています。中国は行動規制により休業している店もありますが、それがない地域ではかなり売り上げも戻っています。規制が明ければ経営も回復してくると思っています。短期的な業績の影響はもちろんありますが、下期全体としてはそれほど大きな心配はしていません。

――ロシアの店舗について、営業継続から一転して休業に至った経緯は。

柳井:あらゆる状況を見極めて判断しないといけません。さまざまな面で事業継続が困難になったから休業しました。商品が届かない、紛争が非常に激しくなった、さまざまな面があり、総合的に判断して休業に至ったということです。

岡崎:当初は状況を注視しながら、我々の使命である一般の方に日常着を提供すること、現地従業員の雇用という面でも営業はでき得る限り継続するというのが我々のスタンスでした。しかし、その後状況を注視する中で紛争が進み、人々の平穏な日常が脅かされるということで、営業を継続するべきではないと判断しました。

――営業休止の決定が遅れたと思っているか。

柳井:遅れてはいないと思います。皆さん勘違いされているんじゃないかと思いますが、今はいつでもどこでも誰とでも、テレビ会議で話ができる時代です。現地の状況、世界各地の状況は全て分かっています。ですから遅れるということはあり得ません。

――円安について。円安のメリットとデメリットをどう考えるか。

柳井:円安にメリットは一切ありません。日本全体から見てデメリットばかりです。今まで円安メリットといったことを言っていたのは、企業ばかりですね。しかも、それも本当のところではメリットではない。日本は世界中から原材料を仕入れて、加工して付加価値を出して売っています。そういう中で、自国通貨が安く評価されることは決していいことではありません。円安の行方については心配しています。これ以上円安が続くと、日本の財政が悪い方向にいく。そうならないように日本の財政をどうにかしないといけないんじゃないかと考えます。

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