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ロックダウンの上海から現地報告 ファッション企業の対応と人々の暮らし

 新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、中国・上海では2週間以上もロックダウン(都市封鎖)が続いている(4月15日現在)。世界最大級の消費市場でもあり、「世界の工場」としての顔を持つ上海のロックダウンは、ファッションビジネスにどんな影響を与えているのか。そして人々の暮らしはどうなっているのか。上海在住のVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)コンサルタントの内田文雄氏が報告する。

 2020年1月に中国・武漢から全世界に広がった新型コロナウィルス。中国ではその年の7月頃から収束に向かい出し、その後は何回か各都市で猛威を振るった時期もありましたが、ここ最近は落ち着きを見せ、経済的にもコロナ前の市況に戻った感がありました。

 特に中国を代表する経済都市・上海はコロナの影響もほとんど受けずに、「コロナ政策の優等生」でした。

 ところが、その上海も今年の3月初めに香港から流入したオミクロン株の感染が広がり始め、3月21日頃から上海の各地域で小区(日本の町内会に相当)単位の封鎖、商業施設も封鎖が続きました。

 そして、ついに3月28日から上海市の東側(浦東)が4日間、西側(浦西)が4月1日から4日間の実質的なロックダウン(都市封鎖)に突入しました。当初東西地域共に4日間で終わる予定でしたが、それに反して徐々に広がる感染者(陽性患者、無症状患者)の数は、1日1万、1.5万人、2万人…と日増しに増えていき、上海市政府は「継続的に封鎖を延長する」という判断を下しました。

 私は上海の西側に住んでいます。東側に比べて封鎖が4日間遅かったため、食料品などを購入する機会に恵まれました。でも東側に住んでいる人たちは突然封鎖隔離が決まり、即施行されたことで大混乱になりました。

 上海市民全員が自宅、またはホテルで完全隔離を余儀なくされています。家から一歩も出ることができず、ほぼ毎日のようにPCR検査があり、その検査のときだけ屋外に出ることが許されます。私自身もこの原稿を書いている時点(4月14日)で既に隔離15日目を家で過ごしています。

 隔離封鎖中は自ら食料品のデリバリー注文はできません。基本的に物流は止まっているし、デリバリースタッフも隔離されています。上海市政府から週に1度、野菜、肉、米などの配給はありますが、それでは絶対的に足りません。各小区、各居住マンション単位で団購(グループでまとめて購入する仕組み)は許可されており、ネット上のグループチャットを通じて注文をすることになります。普段は安価な野菜が異常に高騰していて、それを揶揄するような写真がSNS上で話題になりました。

 上海の商業施設をはじめありとあらゆる物販、飲食店、銀行は閉まっており、SNSなどで発信される嘘の様に人一人いない上海の街の姿に、市民が寂しい思いを抱かせています。

ファッションビジネスにさまざまな制限

 ファッション企業の仕事も、例外なく在宅リモートワークを強いられています。リモートワーク自体は20年のコロナ発生から短期間の隔離を何度か経験しており、慣れているように見えます。ただ、今回のようなに、隔離がいつ終わるか見えないロックダウンという特殊な状況では、いくつかの点で違っているようです。

 1つ目は、素材、材料などを直接触って確認ができないこと。デザイナー、MD、生産の担当者が服の素材スワッチ、商品サンプルを確認できない。あるいは店舗の内装設計担当者であれば、内装で使う材料や什器サンプルなどを確認できないのです。

 2つ目は、物流インフラの停止です。ファッション企業もオフライン店(リアル店舗)は全店閉鎖しています。一方でオンライン(ネット通販)はできても上海市内のお客さんへは配送ができません。

 3つ目は、コミュニケーションの制限です。上海のオフライン店は閉鎖していても、上海以外にオフライン店がある場合は、ライブ動画で店の状況を見ることはできます。でも直接現場を見ないと、お客さんの細かい反応も分からず、的確な指示を出せません。

 4つ目は、PCR検査の多さ。ほぼ毎日小区内で実施されるPCR検査は、時間が決まっていません。自宅でリモート会議中でも呼び出されると中座して、検査に行くしかない。会議に支障が出るケースが少なくないのです。

 5つ目は、何よりも食料確保が優先されることです。リモートワークも重要だけど、終わりが見えないロックダウン中は、生きていくうえで食料品確保が欠かせません。団購で購入するタイミング(基本的には朝から夕方くらいまでに実施、つまり仕事をしている時間と重複している)を逸すると、食料品を何日も購入できない。それを考えるとリモート会議に集中できないのです。

 さて本題の上海のファッション企業のロックダウン中の状況です。まず日系ファッション企業、続いて中国ローカル企業という順番で事例を挙げます。

【日系企業の事例1】解除後を見据えて仕掛けを練る

 この大手SPAは、上海で5店舗展開していますが、14日時点で全店を休業しています。オンラインは継続販売しています。上海市内への配送はできないけれど、数字は好調とのこと。その要因は物流倉庫を上海市郊外に置いているためです。ロックダウンの影響を受けずに、上海以外の地域に配送をできるからです。とはいえ、店舗休業は痛手です。販売期間の短い春物商品を好調なオンラインでの消化させています。

 今後のプロモーション、イベントに関しては、全て延期せざるを得ず、広告宣伝費投資を抑制。それでも先を見た準備にはぬかりがありません。20年のコロナ発生時と同様に、ロックダウン解除後にマーケットの反動重要が起こることを前提に、販促の計画を練っているそうです。

【日系企業の事例2】上海以外の店舗の在庫でECに対応

 中国全土に30店舗を展開する雑貨アクセサリーブランドは、上海市政府のルールに従い、上海の店舗のみ閉鎖しています。生命線のオンライン販売は、物流倉庫を上海市内に置いているため出荷配送ができない。ただし、出荷配送が可能な地方店舗から振り替えするなどの打ち手で対応したそうです。上海以外の店舗では、上海のロックダウンを想定して、事前に相当数を出荷していたこともあり、現時点では欠品、商品要望は出ていない。

 ロックダウンが解除されるであろう4月末に向けてネットでのイベントを仕掛ける予定です。店舗でも解除後に顧客に向けたイベントを企画中です。

【日系企業の事例3】物流拠点の分散の必要性を痛感

 上海に1店舗、卸販売で数十店舗展開している婦人服ブランドも店舗は休業中です。ロックダウン自体は想定外だったけど、その前から明らかに消費マインドの下落が見えていたそうです。

 なのでロックダウン直前の3月初めに、上海の店舗で春新商品のオフ施策実施。卸販売では3月中旬に物流倉庫がPCR検査のため停止するも、事前にリスク回避のため、前倒しで出荷を済ませことなきを得ました。オンライン販売はT-mallで好調に推移しています。

 しかし、ロックダウン中は店舗の閉鎖、オンライン販売も物流倉庫が上海市内に有るため配送が機能せず、打ち手なしになってしまいした。ロックダウン解除後には、日本側からの動画、SNSの配信強化、仕入れ抑制、仕掛け前商品のキャンセルなどを予定しています。

 ロックダウンでの痛い教訓は、物流倉庫拠点の一極集中でした。機能停止を避けるための、リスクヘッジ策が不可欠と考えています。

【日系企業の事例4】上海以外のエリアでの販売強化

 中国に約900店舗展開する日本を代表するカジュアルブランドも上海市政府のルールに従い上海市内86全店舗を休業しています。上海では本部、オフライン店全員が自宅隔離でリモートワーク。その分、上海以外のエリアでの販売を強化し、華北、華南地区では売り上げが上昇しています。ただ上海にもいくつかの物流倉庫があり、地方への配送の遅延が起こっているようです。

 一方、生産面は縫製工場自体が中国全土に分散しているので影響は軽微といいます。問題は生産された商品の海外への物流です。上海港まで輸送できないので、積載地を変更するなどで苦労しています。

【日系企業の事例5】店舗閉鎖は上海だけではない

 全国に10店舗展開している日系のアメカジブランドは、本部、倉庫共に上海の浦西(上海の西側)に立地するため、4月1日からロックダウン前に倉庫に着荷した商品から、投入スケジュールを前倒して新作を全国各区店へ出荷しました。倉庫出荷担当スタッフの1人は解除期間が読めなかったため、ロックダウン解除後すぐに対応できるように3月末から今現在も倉庫に寝泊まりし対応しているそうです。

 上海に店舗がないため、販売では直接的な影響はないそうです。しかし全国的にコロナ影響が出ている。東北部のハルピン、瀋陽のショッピングセンターは、3月から施設が長期クローズの状態。蘇州は2月10日からコロナの影響が非常に大きく、現在もまだ収束がつかず、ついに食品を除いたSCの大部分の休業が続いている。

 販促面は、店頭は春物新作1件9折、2件85折(1枚購入10%OFF、2枚購入 15%OFF)のイベントを春節後から現在まで継続実施中。

 ECモール大手のTモールの販売委託会社、倉庫共に上海市内にあるため、ロックダウンにより多大な影響を受けている。上海の物流が機能していないことから、全国各オフライン店からお客さんへ直接発送に切り替え対応をしているものの、販売後の対応や、購入者の受け取り先エリアの物流制限(上海、蘇州、北京など)もあり、非常に対応が困難な状況にあります。

【中国企業の事例】コロナの長期化を織り込んだ戦略策定

 上海と温州に本部があり、中国全土に4800店舗を展開する子供服アパレルは、上海の店舗は休業した。

 オンライン販売は数字も概ね好調だという。物流倉庫を温州に置いているため、上海以外の全国に配送をできていることが挙げられる。

 上海でのオンライン販売は、販売期間の短い春物と一部初夏物を大きな割引率で販売している。だが、上海市内の物流停止で商品受け取りは封鎖解除後となることと、隔離中は服よりも野菜、肉など生活必需品に対する欲求が高いため、販売額は伸びていない。

 中国では元々ライブコマースが発達している。ブランド本部のみならず店舗からも日々配信しているが、これも上海の店舗では開催ができない。各店店長は自宅からSNSを使って商品情報や割引情報のみ発信し続けているが、自宅でのライブコマース配信は困難なため、売り上げへの貢献には限られる。

 ちなみに私はVMDの専門家として同社に「商品企画/売り方/売り場に至る一連の仕組み、改善指導」を担っている。4月初めにリモートワークで行われた23年春商品系会議では、今のロックダウン現状や、全国で繰り返されるコロナによる規制、影響なども鑑み、「23年春もコロナの影響がある」という前提で議論が行われた。他の中国企業も同様で、コロナ感染リスク織り込んで次のシーズンの戦略を立てている。

物流拠点のあり方を再考する

 上海のロックダウンではオフライン店が全滅の中、オンラインがビジネスの生命線となるが、物流倉庫を上海市内とそれ以外のエリアに置いていることの違いで、大きな差が出ました。最近、近くて便利だけど家賃が高い上海に倉庫を構えるよりも、例えば杭州など他の省の倉庫の方が家賃も安く、かつ配送サービスも行き届いた場所に構えるという選択肢もあるのではないでしょうか。

 実際に私の中国人の知人が杭州に持つ巨大倉庫は、上海に本社を置く日系アパレルや酒類販売会社も利用していて、今回も何の支障も無く、中国全土に配送を行なっています。

 同時に物流倉庫の一極集中というリスクもないわけではありません。コストは掛かるけれど、倉庫の分散も考えるべきでしょう。

情報発信の仕方を再考する

 私自身もロックダウンを初めて経験しているわけですが、隔離中にスマホは絶対手放せませんでした。しかもウィーチャット(日本でいうとLINEに近い機能)は情報交換、日常のやり取りに不可欠です。

 しかしロックダウン中にこのウィーチャットのモーメンツに友人が近況報告、企業が広告をアップしても見ることができない環境になりました。なぜかといえば、上述の通りで「隔離中はまず食べることで必死」だからです。ウィーチャットを使って小区単位や各住民が団購を行う。食料品、生活用品の確保に不可欠なのです。調達する商品は数量限定のものもある。欲しいものをスピーディに注文することに、朝から晩まで忙殺されます。

 都市封鎖レベルの状況では、各種SNSを使った販促、宣伝の効果は極めて弱いと言えます。事実、ロックダウン前まで毎週の様に定期的に送られてきていた販促目的のメールが全く来なくなりました。これは企業側が故意に送信をストップしているのだと思われます。

 逆にソフト宣伝というか、ロックダウン中「いかに自宅で有意義に過ごすか」「家で野菜を育てませんか」などのメッセージを送信するライフスタイル古本&古着店「多掴魚」は、隔離で苦しんでいる人たちを逆なでせず、好感が広がりました。心情的に訴求できる、的を射た手法です。

長引くロックダウンの過酷さ

 ロックダウンの異常な環境のなかでは、1日1日を大事に生活しようと心がけるようになります。仕事も重要ですが、何と言っても生きていくために食料品を確保して、毎日食べることだけを考えている、と言っても過言ではないと思います。

 それほど、食料品、生活用品の購買への不安や悩みに尽きない、過酷な状態であるということを日本の皆さんには理解していただきたいです。

 今回のロックダウンで、陽性患者、無症状患者がいない一部の地域では、条件付きの封鎖解除がされています。しかし私の予想では上海全体の封鎖解除されるのは、早くても5月以降になるのではないかと思います。1日も早く解除されいつものオシャレで活気のある上海に戻ることを祈っています。

内田文雄(うちだ・ふみお):福岡県福岡市生まれ。ワールドで22年間のVMD経験、1993年に上海交通大学留学、上海駐在を経て、その後はアジア事業で海外を飛び回る。2005年ユニクロへ転じ、海外の大型店などのVMDを手がける。2011年、独立して上海に拠点を移す。中国のアパレル、小売企業に対しての実務指導、セミナー講演を行う

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