ファッション

わずか3年で社員300人、起業家ROLANDが新ブランドで目指す先(後編)

(前編はこちらから)
 カリスマホストのROLANDは4月15日、新ブランド「ミニマス(MINIMUS)」をスタートした。後編は、起業家でもあるROLANDから見たファッション・ビジネスの難しさやミニマリストとしてのワードローブと消費生活、アパレルビジネスの最終目標を聞いた。ROLANDは2019年に自己資金で事業を始め、わずか数年で従業員を300人まで大きくした現在も無借金を貫く。ミニマリストを自称し、浪費をせず、稼いだお金の大半を事業につぎ込む姿からは、自分の美意識を貫きながら、ストイックに事業に打ち込む起業家の姿が見えてきた。

WWD:「ミニマス」のコンセプトはどう決めた?

ROLAND:僕自身、所有している服の数が少なくて、シンプルが自分のフィロソフィーなところもあり、色使いが多いものや柄物をあまり着ないことを、本間さんにお話させていただきました。

WWD:所有している服の数は?

ROLAND:ファッションメディアのインタビューで答えていいようなワードローブではないんですよ。下着類が3着、ジャケットが1着、ワイシャツ3着、トレンチコートが1着、靴1足、サングラス1個。あとは同じデザインのルームウェアが3着。俗に言うミニマリストですね。YouTubeを見てもらうとわかりますが、どの番組見ても、衣装提供がある場合以外は、黒のジャケットか黒のシャツですね。

WWD:ちなみにブランドは?

ROLAND:スーツはイギリスのサヴィル・ロウのテーラーブランド「ハンツマン(HUNTSMAN)」で、ジャケットはそこのビスポークでビロードの1着。靴は今日履いている「プラダ(PRADA)」。もし、気に入ったアイテムが見つかれば、それまで使っていたものをトコロテン方式で押し出して処分して、最高の1着だけを常に大事にするという考え方です。毎日服を選ぶ時間を、別の思考する時間にあてたいというのがきっかけだったんですけど、そういうふうに生活していくと、同じ服を着ていることで、体重の変化や、服の肌触りで風邪ひきそうとか、体調の良・不調までわかってきます。思考もクリアになるので、もっと大切なこと…家族のことや仕事のことにフォーカスできるようになる。「ミニマス」を通じて伝えたいことも、そういうことです。「ミニマス」をまとうことで、シンプルな思考になり、もっと人生大事なことにフォーカスできるようになってほしい。そうやって、人々のライフスタイルを変えるのが、最終的なこのブランドの野望です。なので、ブランドのメッセージにも「服を選んでいた時間を、もっと大切なことに向ける。服を選ぶこと以上に、あなたのライフスタイルには価値がある」としています。

WWD:自身では、ホストやアパレル以外にも飲食店やサロンなど、さまざま事業を手掛けている。起業家としてアパレルビジネスをどう見ている?

ROLAND:他の事業と異なる点は、競合他社さんの数。アパレルはまさにレッドオーシャンで、選ばれる大義名分を作るのがすごく難しい。「クリスチャンローランド」のときも、まるで自分の子どもを育てているかのように愛情と時間と手間を注いで作ってきた。でも例えば、自分の子どもが受験に落ちたとします。うちの子はこんなに頑張ってきたし、こんなに可愛くてこんなに才能があるのに、なんで落ちたんだろう?って思いますよね。親は我が子が塾に通ったり、家で勉強しているその365日24時間のフルタイムの頑張りを見てるわけじゃないすか。でも学校側は試験と一瞬の面接だけで、いいか悪いか、それだけで判断する。アパレルも同じことです。「これだけ熱量を入れてめちゃくちゃこだわってるのに、何で売れないんだろう」というこちらの温度感に対し、お客さんは試着したり、ぱっと目にとめたり、ポップアップで手にとったときに、「これ違うな」って思えば一瞬でハンガーに戻してしまう。だからこそ「他のブランドではない、これをわざわざ買うべき」という大義名分が、価格なのかデザインなのか、それこそネームバリュー、あるいはブランドなのか。それを作るのがとても難しかった。

WWD:ホストも一瞬で心をつかむ難しい仕事だと思うが、アパレルは何が違った?

ROLAND:「クリスチャンローランド」を例に取るとデザインは、サンローランとかセリーヌと同じ方向性だったけど、そこには勝てなかった。値段の点で、同じクオリティーで価格が10分の1だったら、買われたかもしれない。でも、そういう大義名分を作れなかった。あるいは、仮に価格も高くてデザインも悪くても「天下の〇〇」みたいな、そういう位置付けのブランドだったら、また話は変わってきたかもしれない。選ばれる大義名分作りっていうのが、今回の「ミニマス」の新しいテーマでもあったし、難しさでもあった。

WWD:経営者として、今後「ミニマス」をどのくらいの期間継続していく?

ROLAND:仮に収益が悪かったとしても、自分の資金力が続く限りは続けたい。なので、資金が続く限りはやるつもりだし、業績が良ければ別に終わらせる必要はないので、半永久的に続けます。

WWD:なぜそこまで?ビジネスとしての可能性?

ROLAND:私は服は好きですが、単なる好きとはちょっと違う。ライフスタイルを変えられるのは、家具でもなければ食生活でもなくて、やっぱり身に着ける衣服なんじゃないのかっていうのが僕の考えです。先ほども言ったように僕自身がクローゼットをシンプルにしたら、思考がシンプルになって、すごくクリアな思考でいろんな物事をもっと大事なことに向き合えるようになった。それは、僕の成功の一番の要因なんじゃないのかなと思えるくらいの体験だった。それを服を通じて伝えることができたら、素敵なことだなあ、と。だからやっぱり僕にはこのアパレルビジネスが、すごく魅力的に映るんですよね。

WWD:話を聞くと「クリスチャンローランド」でも、伝えたいコンセプトは変わっていない。その考え方は今後もずっと変わらない部分?

ROLAND:そうです。そこを変えたらアパレルブランドをやる意味がなくなっちゃうんですよね。この事業でめちゃくちゃ儲けたいというのはあまりない。それ以上に、1億総ミニマリストに変えることができたら、それが面白い。

本間:哲学は同じでも、前の「クリスチャンローランド」は特別な日の一着だったが、今回の「ミニマス」はその逆。どれだけ日常にシームレスに入っていけるのかっがポイントだった。ジムと仕事、仕事とゴルフなど、自分たちの生活を全部シームレスにできる1着があるといいだろうな、どんな服だろうな、と。それが先ほどの無人島に持っていう服の話に繋がっていきます。価格帯もジャケットで大体3万円台後半、パンツで1万円台後半から2万円台前半。シャツも大体同じぐらいですかね。ジャージのブルゾンで2万円台後半から。価格帯でいうと、本当にいわゆる“ドメブラ”です。

WWD:その価格帯で素材もこだわって日本製ということだが、原価率も相当高いと?

ROLAND:具体的には言えませんが、もしプロ野球選手だったら、伝説のバッターになってるぐらいの割合です。イチロー以上ではあることは断言します(笑)。「儲けたい」ではなく、目標は「ライフスタイルを変えたい」ですから。

WWD:売り上げの目標は?

ROLAND:まずは年商1億円です。

WWD:けっこう謙虚な目標設定だが、他の事業でも常にそういう感じ?

ROLAND:リアリストな自分とロマンチックな自分が同居しているので難しいですが、やっぱり新しい業界に行けば、1年生だよっていうのは忘れちゃいけないなと思っています。もちろん自信も大事だと思うんですけど、謙虚な姿勢が一番だなっていうのは起業して一番学んだことです。アパレルでも、本当にできることからしっかりやっていこうと。

本間:サロンの方はうまく行ってますよね。

ROLAND:サロンはそうですね、今年おそらく、全国で50店舗くらいいけるんじゃないかと思います。でもそれも、できるところからやった結果です。

WWD:ROLANDグループホールディングスの年商は?

ROLAND:正確な数字は出せませんが、脱毛サロンは直営で30店舗あって、全体で社員は300人くらいです。

WWD:起業にあたって出資や融資は?

ROLAND:少し出資を受けていますが、ほぼ自己資金で始めて、いまも金融機関からの融資は受けず、無借金経営です。そもそも水商売をやっているとお金を貸してもらえないので。あくまで僕の感覚ですが、出資を受けてやるのって、他人のふんどしで相撲をとるじゃないですけど、なんかそういう感覚に近いものがある。だから経営も、あくまでも背伸びをせず、自分の身の丈に合う形でやっています。

WWD:「ミニマス」の最終的な夢や目標は?妄想レベルでもいいので。

ROLAND:先ほども言ったように常設の実店舗を持ちたいっていうのは、そんなにない。今の時代、コストに見合った効果が得られるかわからないので。そういった意味では、最終的な目標は10人すれ違って5人ぐらい「ミニマス」を着ているみたいな未来でしょうか。すれ違う人たちが「この人も『ミニマス』を着ている、あの人も『ミニマス』を着ている…」という状態になったら、みんながもっと家族や仕事など、大切なことにフォーカスできる未来になる、それが目標です。

本間:あくまで体感の話ですが、東京で生活圏が同じだと、5000枚くらい売れると、1週間にひとりすれ違うくらいかなと。しかし10人中5人となると…。

ROLAND:例えば「ユニクロ」さんだとそのくらいでしょうか。そのくらい生活に入り込みたい。

WWD:言われてみると「ユニクロ」の“LifeWear”ってコンセプトと「ミニマス」の目指す方向性は近い。

ROLAND:いや、「ユニクロ」さんとは勝負しません。ある仕事でユニクロさんのオフィスに行って企画会議にご一緒させてもらう機会があったのですが、本当にびっくりした。お客さまからのクレームの受け方やヒアリングの仕方がとにかくすごい。規模も圧倒的だけど、その姿勢はさらにすごい。日本人って「1000円あげるから俺の嫌いなとこ挙げて」と言ったとしても、言わない人が大多数の国民性なのに、そんなお金をもらってもクレームを言えない人種から、クレームとか改善点を引き出す技術があり、その上「毛玉が多い」と言ってきたお客さまには、わざわざ素材のスワッチを送り直して、フィードバックをもらっていた。その謙虚な姿勢を見て、これはさすがに勝てないな、と。「ユニクロ」さんと戦ったら負けるんで、あくまで違う土俵で「ミニマス」はやっていく。

WWD:あまり服にはお金を使わないということだが、お金の使いみちは?

ROLAND:時計は普段、アップルウォッチだし、いわゆる高級時計も持っていますが、本当に一つだけ。その他にコレクター癖もない。ただ、節約しているわけではなく、欲しいものがないという感覚です。サングラスも買ってから4、5年経つ。ものを買うときは特に期限や時期を決めているわけではなく、欲しいと思ったら、心の赴くままに、という感じ。車は自社で一台持ってますが、他は法人として買っている社用車。服を最後に買ったのは、思い出せないくらい前です。

WWD:ではお金は何に使っている?

ROLAND:うーん。新しい事業の資金かなあ。去年はレストランを開業するなど、いろんな業種にチャレンジしていて、その資金が必要だったので。不動産を買ったりということもない。

WWD:今までいろいろな方と仕事をしてきた本間さんから見て、ROLANDさんはどういう人でしょう?

本間:一番は、未知数というか可能性が多い人だなって印象です。会って話をしてみると、めちゃくちゃスマート。デザイン監修に入っているデザイナーの橋本さんも似たような感じで、楽しくやってますね。

WWD:全員が体育会系だから?

本間:それは大いにあるかもしれないすね。みんなトレーニーだし。

ROLAND:確かに体育会系ノリかもしれませんね。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2025年春夏ウィメンズリアルトレンド特集 もっと軽やかに、華やかに【WWDJAPAN BEAUTY付録:2024年下半期ベストコスメ発表】

百貨店、ファッションビルブランド、セレクトショップの2025年春夏の打ち出しが出そろった。ここ数年はベーシック回帰の流れが強かった国内リアルクローズ市場は、海外ランウエイを席巻した「ボーホー×ロマンチック」なムードに呼応し、今季は一気に華やかさを取り戻しそうな気配です。ただ、例年ますます厳しさを増す夏の暑さの中で、商品企画やMDの見直しも急務となっています。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。