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連載 小島健輔リポート

三陽商会とオンワードはなぜ勝ち組から転落したのか【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回は老舗アパレル、三陽商会とオンワードホールディングスの過去から現在までを振り返る。アパレル不況で大きな痛手を負った両社のデータを詳細に分析すると見えてくることがある。

 シェイクスピア作品やギリシャ詩人など世に「3大悲劇」「4大悲劇」と言われるものは枚挙にいとまがないが、わが国平成令和の大手アパレル「3大悲劇」とは20年5月に破綻したレナウン、2015年春夏でバーバリーを失って以降、売り上げが3分の1に激減した三陽商会、欧州ブランド事業や百貨店売場の撤収にコロナ禍が加わって2期で1027億円も純資産を失ったオンワードホールディングス(HD)と言うべきだろう。週刊誌にまで散々暴かれたレナウンの転落劇はともかく、百貨店アパレルの勝ち組だったはずの三陽商会とオンワードHDの転落は表に出た要因だけでは説明がつかない。成功劇は語られることが多いが、転落劇に学ぶことも大切ではないか。

10数年で売り上げが大幅減(売り上げは旧会計基準)

 三陽商会の売り上げはバーバリーを失う前の14年12月期には1110億円と1000億円を超え、ピークの07年12月期には1431億円に達していた。それが15年春夏期でバーバリーを失って以降、つるべ落としに急減してコロナ前(20年2月期※1)には583億円まで落ち込み、コロナ禍に直撃された21年2月期には379億円まで沈み込んだ。ピークの07年からは実に3掛け以下(26.5%)に落ち込み、22年2月期も386億円(同27.0%)とほとんど浮上していない。

 オンワードHDの売り上げは欧州事業の大半を撤退する前の20年2月期には2482億円もあったが、コロナ禍を経て直近22年2月期は1609億5000万円まで落ち込み、07年2月期の3187億円からは半分近く(実質50.5%※2)に減少している。

 企業経営の最終評価たる純資産(正確には株主資産だが)の減少はオンワードの方が劇的であり、19年2月期の1622億1000万円から21年2月期には595億1000万円と、実に2期で1027億円も減少。ピークの07年2月期の2251億4000万円からは1656億3000万円も減少して3掛け以下(26.4%)に落ち込んでいる。直近22年2月期は固定資産売却益や関係会社株式売却益を乗せて772億6000万円まで戻しているが、営業利益は10億8000万円の赤字と業績は浮上しておらず、含み資産の益出しによる。

 三陽商会の純資産は15年12月期の651億5000万円からバーバリーを失って21年2月期は334億6000万円と半分強(51.4%)に激減し、ピークだった07年12月期の665億6000万円からはほぼ半分(50.3%)に落ち込んだが、3掛け以下に落ち込んだオンワードHDほど劇的ではなかった。同じ減損でも、守りで傷ついた三陽商会より攻めで傷ついたオンワードHDの方が傷が深かった。

※1 三陽商会は18年までの12月決算から19年は20年2月末までの14カ月変則決算とし、20年(21年2月期)以降は2月期決算に移行したが、23年2月期から新会計基準に移行するに伴い、決算説明資料では22年2月期、21年2月期のPLを新会計基準で現すとともに、20年2月期(12カ月間)も仮定して同様に表している

※2 オンワードHDは22年2月期から新会計基準に移行するに伴い、21年2月期PLの一部を新会計基準で表しているが(DATA BOOK)、売上表記は両社とも旧会計基準で統一した。

参考 2021年4月から始まる会計年度より上場企業や大会社では新しく設けられた新収益認識基準(小売売上計上)が強制適用になるに伴い、これまで卸売上計上していたオンワードHDや三陽商会は百貨店の手数料分などが売り上げと粗利益、販管費に加わるが、売上原価と営業利益は変わらない。これまでも小売売上計上だったワールドより粗利益率が数%〜10%程度、低目に出ていたが、これで同じ基準で比較できるようになった

株価に見る両社の評価

 両社の経営状態は悪化してしまったが、深刻度の受け止め方や将来の回復期待は評価する視点で異なる。両社とも東証上場企業だから、まずは株価の推移を見ておこう。

 三陽商会の直近株価(4月20日終値)は861円、時価総額は109億円。年初来の高値は1月5日の908円、安値は3月8日の583円で、以降は急回復している。オンワードHDの直近(4月20日終値)株価は246円、時価総額は388億円。株価は三陽商会の3掛けに届かないが、20年2月期まで継続した自社株取得が途切れていることも影響しているのだろう。年初来の高値は1月14日の320円、安値は3月9日の223円で、移動平均は下降気味だ。

 三陽商会の過去最高値は89年10月に付けた2万1900円(06年1月にも1万3700円)、同最安値は20年10月20日に付けた464円、オンワードHDの過去最高値は89年12月に付けた2490円(06年1月にも2450円)、同最安値は20年11月30日に付けた185円。ともにバブルピークに最高値を付け、コロナ禍20年の10月、11月に最安値を付けている。ピークから見れば、三陽商会の株価は4%弱、オンワードHDの株価は10%弱で、長期の投資家は報われなかったが、ボラティリティの大きさは投機的投資家には好まれたかもしれない。

 4月20日の終値でPER(株価純利益倍率)が三陽商会は11.6倍、オンワードHDは19.6倍、PBR(株価純資産倍率)も三陽商会は0.31倍、オンワードHDは0.50倍だから、指標的には三陽商会の方が割安で再評価余地が大きいが、オンワードHDの方が経営陣への期待値が高いということでもある。

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