アパレルECで切っても切り離せないのが、実際に試着ができないが故の「サイズが合わない」問題だ。それを解決すべく登場したのが、オンライン試着サービス「バーチャサイズ(Virtusize)」だ。同サービスは自分の性別や身長を登録すると、アイテムごとに自分の体形にフィットするサイズをリコメンドするものとして、世界で標準的なオンライン試着サービスとなっている。「バーチャサイズ」はアパレルECの何を変えたのか。「スナイデル」「ジェラート ピケ」などを展開するマッシュホールディングスのEC事業を担当する須藤誠執行役員EC管理本部本部長と、バーチャサイズの森永マーク最高執行責任者(COO)、高橋君成・最高ビジネス責任者(CBO)との対談をお送りする。
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WWDJAPAN(以下、WWD):マッシュホールディングスにおけるECの基本的な考え方は?
須藤誠マッシュホールディングス執行役員(以下、須藤):当社は、ブランドを横断した商品を取り扱う「ウサギオンライン」とブランドごとの自社EC、他社と共同運営するモール型の「スタイル ヴォイス(STYLEVOICE.COM)」など、全部で14のECサイトを運営しています。EC運営の基本的な考え方の一つが、グループ企業と連携した自社開発です。マッシュはもともと、店舗を軸にブランドをお客さまに訴求しながら発展してきました。EC化率でいうとコロナ以前は20%前後だったのに対し、現在では40%近いブランドも出てきています。最終的にご購入を決定するのはお客さま、というスタンスではあるものの、マッシュグループが掲げている「お客さまに幸せを届けられるサービス」という意味で言うと、ECはまだリアル店舗には追いつけていないという感覚です。
WWD:アパレルECの課題をどう見る?
須藤:デジタルテクノロジーは猛烈な勢いで発展していますが、あえて言いたいのは、基本的に服の購入に関してはリアル店舗の方が利便性が高いのでは?ということです。だからこそ、「バーチャサイズ」の、試着をオンラインでもできるという部分に着目したサービスには非常に注目しています。
森永マーク=バーチャサイズCOO(以下、森永):「バーチャサイズ」の役割は、お客さまの最初の購入のハードルを下げつつ、2回目以降のリピートにどうつなげ、最終的に顧客のライフタイムバリュー(LTV)をどう上げていくかという点になります。これはたとえ、最初に購入いただけたとしても、実際にサイズ感が思った通りでないと、2回目以降のコンバージョンが落ちてしまう。悪い体験だったら、もう購入しない。逆に、いいサイズを見つけられたら、その商品と比較しつつ、違うブランドでもこのサイズ、とだんだん組み合わせた体験にもつなげられる。この部分に関しては、相当の研究開発を行っています。
須藤:EC自体の課題と感じているのが、お客さまからの評価と不満を、すくい取りづらいことです。店頭ならサイズ感が違えば、その場でフィードバックがあって販売員が解決できます。でもECだと何も言わずに離れていき、結果的にノークレームでも離脱率だけが高くなっていく怖さがあります。「バーチャサイズ」の場合は、導入後に返品率は20ポイント以上低下しました。返品率の低下で、商品の販売効率の向上だけでなく、返品関連業務の削減など、全体的な業務効率の改善にもつながりました。なぜこのような効果を上げられるのでしょう?
高橋君成バーチャサイズCBO(以下、高橋):ユーザーにとってサイズやフィット感は最もセンシティブなものだ、と当社は認識しています。先ほど森永も指摘した通り、サイズが合わないと、それ以降の購入率がかなり落ちてしまいます。一方でユーザーが求めるフィット感は、実はブランドやアイテムによってだいぶ違うんです。マッシュさんのブランドの中でも「スナイデル」と「ジェラート ピケ」では、それぞれに求めるフィット感はだいぶ違う。当社は裏側でブランドの特徴に合わせて、カスタムしたサイズリコメンドエンジンを作っており、例えば購買履歴や閲覧履歴などユーザーデータをベースにロジックを組み合わせています。ブランドによっては、ぴったり合わせたものを展開するだけでなく、あえてワンサイズ上をリコメンドすることも。こうしたことは当社がディープラーニングに基づいた年間5億回を超えるリコメンドを、改善しながら行っているからこそできると自負しています。
リアル店舗やCRMで活用、
「オンライン試着」の
先にあるもの
WWD:いま、両社でリアル店舗で使えるツールを開発中とか?
高橋:まさにマッシュの方から「もっと試着室の体験をリッチにできないか?」という要望をいただいています。当社はこうしたオンラインのサイズフィッティングテクノロジーをオンライン試着やネットだけにとどめておくつもりはなく、リアル店舗での活用などにも積極的に取り組みたいと考えています。逆に、そのリアルで買うときの接客のポイントを、オンラインでも提案できるようにブラッシュアップも進めています。例えば、カートに商品を入れて、買う寸前に「このサイズで本当にいいですか」っていう一言を出そうと思っています。リアル店舗でもレジで、「Mサイズですけどよろしいですか?」と聞かれますよね。それと同じことを、カートの中身を確認するページで実施したい。また、最近だとインスタグラムや公式サイトなどのスタッフのコーディネートのページとも連携させて、自分とそのサイズがマッチするかどうかみたいなことの相談も受けています。
WWD:須藤さんから「バーチャサイズ」にリクエストは?
須藤:店頭での接客をECに例えるなら、多くのお客さまがサイトに来た場合にはまず検索することを考えると思います。ECでは、商品検索の精度をもう少し進化させたい。検索結果が自分にとって刺されば、すぐクリックするはずです。店頭の販売員はそれをコミュニケーションを取りながら、自然にやっている。お客さまから「旅行に行く」と聞いたら、「だったらこれを」と接客することで、購買率が上がっていく。でも、ECだと検索結果を見てもらうことしかできないため、新機能でカバーできると嬉しいです。
森永:おっしゃる通りです。実は検索機能って、ファッションとあまり相性が良くないんですよね。店舗に行って「何をお探しですか?」って聞かれたときに、「赤いドレス」って具体的にいう方はあまりいない。実際には、「こういう雰囲気で」とか「こういうスタイルを探している」ということを仰るわけで。われわれは、そういった行動を「ディスカバリー」と定義していて、実はすでに開発済みです。「このアイテムはどんなシーンで着たいですか?」「どんなスタイルをお探しですか?」といった、いくつかの質問に答えてもらうだけで、自分の好みに合う商品がずらっと出てくるような仕組みがあります。
「バーチャサイズ」は、
実はオンライン試着サービス
じゃなかった!?
須藤:これまでは、「こういった機能がほしい」といった場合はまず、社内で検討して、それから機能に応じてサービス会社を探したり、取引のある会社に投げかけてみる、といった流れでした。そもそも「バーチャサイズ」は私の中で「オンライン試着サービス」というイメージが強くて。けど、実はCX(顧客体験)系のふんわりとした開発テーマを初期段階で相談してもいいわけですね。なら、実はもう一つ相談が(笑)。これは接客か集客か、定義しにくいところではあるのですが、ECでコンテンツとして楽しい企画がほしいんです。実は当社はECでかなり早い時期から今はやりの骨格診断を行っていて、非常にアクセスを伸ばせたことがあった。店頭でよくフェアやイベントをやるように、ECならではのイベントや企画をもっともっと増やしたい。ただ、自分たちだけではなかなか思いつかないことがあり。そういったことも相談していいですか?
森永:もちろんです!ぜひお願いします。これまでもさまざまな取り組みをアパレル企業とさせていただいていて、「バーチャサイズ」を筆頭に自社の新しいサービスやプロダクトに関してデータを収集させていただくことはありますが、実は「骨格診断」のような新しい切り口や企画のデータを取ることが難しくて。こういった切り口の場合、単にコンバージョンだけでなく、アクセス数や他のコンテンツへの遷移率などが重要になってくるからです。企画の早い段階からご一緒できれば、新しいアイデアや切り口、さらにはその後のデータ分析とそのフィードバックも含め、もっとお役に立てる可能性があります。
「バーチャサイズ」とは?
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オンライン試着サービス「バーチャサイズ」は、身長や体重などの項目を入れるだけで、自分に合った製品をリコメンドしてくれるサービスだ。月間のアクティブユーザー数は200万人を超え、年間のリコメンド数はなんと5億回に達している。これまで蓄積してきた1000万体以上のボディーデータをディープラーニングで分析し、リコメンドだけでなく、さまざまなツールやサービスの開発も行っている。
PHOTO:TAMEKI OSHIRO
バーチャサイズ
「アパレル産業をデジタルでアップデートする方法」