三越伊勢丹発のラグジュアリーなコスメブランドを集めたセレクトショップ「イセタン ミラー メイク&コスメティクス(ISETAN MIRROR MAKE & COSMETICS 以下、イセタン ミラー)」は今年3月、10周年を迎えた。百貨店の化粧品フロアで展開されるラグジュアリーなコスメ、いわゆる“デパコス”を来店客が自由に手に取り、ブランドミックスで購入できるセミセルフ業態は今でこそ身近になったが、10年前は新鮮で新業態として話題になった。
「イセタン ミラー」は現在、アクセスしやすく生活の動線の中で購入できるルミネやパルコといったファッションビルや商業施設内を中心に全国18店舗を展開する。「欲しい時に、好きなように、欲しいものだけ買える」のコンセプト通り、来店客はブランドにとらわれずに自由に製品をセレクトできる。カウンターでの接客を受けることが苦手な人や、時間がない時に手短に購入できるなど、手軽さが特徴だ。一方で、同店で取り扱う100ものブランドの知識を持つイセタン ミラー スタイリスト(美容部員 以下、スタイリスト)が悩みや希望を汲んで相談にのり、ブランドの垣根を超えて製品を紹介し、タッチアップすることも可能で、来店客は自分のペースや要望に合わせて、コスメを選ぶことができる。
三越伊勢丹 第2MDグループ イセタンミラー営業部の佐野恭子バイヤーは、「百貨店の化粧品フロアではブランドごとにカウンターが並び、ブランドの垣根を超えた製品の比較購買ができないという点を改善した。スタイリストは全てのブランドを横断して接客することができ、中立的に製品をおすすめできるのが強みだ。百貨店が提案するセミセルフ業態だからこそ接客力にも力を入れている。販売者側の視点ではなく、お客さま視点で提案している」と話す。
スタイリストは、たくさんのブランドを取り扱う「イセタン ミラー」だからこそ製品知識を日々吸収する根っからのコスメ好きが多く、お客さまとの会話で盛り上がることもしばしば。接客中の会話からコスメのリアルトレンドを拾うこともあるそうだ。スタイリストは三越伊勢丹の化粧品オンラインストア「ミーコ(meeco)」でのスタッフレビューの掲載や、ブランドを横断したメイク提案のライブ配信など、活躍の場を広げてファンの獲得を目指している。
カラーコスメ提案からライフスタイル提案へ
当初より変わらずコア客層の20~30代に加えて、デパコスへのエントリーとして若年層や、オープン当初から足を運ぶ40代など、幅広い年齢層の顧客を獲得している。ラグジュアリーなブランドを中心にセレクトしているが、顧客の価値観やニーズの変化を捉えて、新規ブランドの導入にも積極的で、4月には東京ミッドタウン日比谷店で、韓国コスメを中心にラインアップしたポップアップイベントを実施中だ。
「10年前はラグジュアリーコスメといえば直営店が定説で未知数だったセミセルフ業態だが、実績を積み重ねて出店ブランドからの信頼を得ている。昨年秋に上陸した 『ドランク エレファント』は、本国アメリカでセミセルフ業態を中心に展開していることもあり、当店との相性も良い。セミセルフ業態とマッチする国内外のブランドを含め、展開ブランドの幅は広がっている」と佐野バイヤーは振り返る。
コロナ禍で消費者の化粧品への意識は日々変化している。マスク着用の常態化によってリップの需要が落ち込む一方で、リラックスするためのフレグランスや、セルフケア意識の高まりによるスキンケアニーズの上昇などによって、「イセタン ミラー」の売れ筋アイテムも変化しているという。
「当初は若い顧客層のニーズとして、キラキラした自分を作るカラーメイクが強かったが、現在は顧客層の価値観の変化、コロナ禍を経て、スキンケアやベースメイクのニーズが高まっている。自分が心地よく過ごすためのライフスタイルの一環としてコスメが求められている」と佐野バイヤーは分析する。カップルや家族といった男女でコスメをシェアする人が増えていることや、男性の来店も増えていることを背景に、ユニセックスなブランドやアイテムの充実もはかっているという。ラグジュアリーなコスメのセレクトショップを核に、半歩先を行く製品提案とサービスの拡大を目指す。
ローカルでの出店とOMO戦略が要
「イセタン ミラー」は、三越伊勢丹の化粧品オンラインストア「ミーコ」とシステムの連携を進めている。また、「イセタン ミラー」アプリの機能を三越伊勢丹アプリ内に移行し、グループ内でオンラインとオフラインを自由に行き来できる購買体験を提供するべくOMO戦略の強化を行う。同時に、「リアル店舗の出店も視野に入れている」と三越伊勢丹 第2MDグループ イセタンミラー 営業部の橋川隼人マネージャーは向こう3年間を見据える。
「この10年間は、新宿ルミネ店を代表とする都市型ターミナルへの出店と、湘南テラスモール店のような感度が高く生活圏にある大きな商業施設への出店という2つの出店戦略をとってきたが、いずれも首都圏内で完結していた。この戦略で10年間順調に推移してきたが、コロナ禍で首都圏の店舗は客足が遠のき、大きな打撃を受けた。一方で、地元圏内のネイバーフッド型店舗は売り上げが好調だった。トラフィック重視でビジネスモデルを組み立ててきたが、変化が求められている」(橋川マネージャー)。
地方・郊外百貨店の閉店が相次ぎ、ラグジュアリーなコスメを購入できる場が減っていることにも注目だ。化粧品はECで購入できるものの、実際に色みや質感を試してから購入したいという要望も根強い。橋川マーチャンダイザーは、「空白地帯をセミセルフ業態で補うという選択肢を取るデベロッパーは増えている。僕らも出店を考える時には難しい部分もあるとは思うが、検討していきたい」と話す。また、「『イセタン ミラー』や伊勢丹新宿本店を含めた化粧品フロアといったリアル店舗と、『ミーコ』や三越伊勢丹アプリといったオンラインをつなげながら、全国のお客さまとタッチポイントをもつことが非常に重要だ」と今後の展開を語る。