ファッション

ブランドリユースは序章にすぎない 「なんぼや」バリュエンスグループ嵜本CEOが描く成長ストーリー

 買い取り専門店「なんぼや」を運営するバリュエンスホールディングス(HD)は、会社設立(2011年)から11期目にして売上高500億円を突破。老舗のコメ兵ホールディングスとも肩を並べる国内のブランドリユース市場におけるトッププレイヤーだ。

 事業子会社バリュエンスジャパンは現在、「なんぼや」と完全予約制の「ブランドコンシェル(BRAND CONCIER)」を国内外に計150店舗(うち国内が128店舗)を構える。ていねいな接客とデジタルを活用した強固な顧客の構築が、他社との競争優位性を生み出している。店舗は買い取りに特化し、買い取り品の販路はオークションによる古物商への卸売が中心。直販よりも粗利率は下がるが、在庫リスクを軽減し、安定した収益を得ることができている。

 近年は消費者の中古品への抵抗感が薄れるとともに、コロナ禍で在宅時間が増えたことで自宅に眠っていたブランド品を整理する人が増え、二次流通市場も活況を呈している。バリュエンスHDの2021年9月〜22年2月期は売上高が前年同期比10.0%増の261億円。買取商品の仕入高は116億円で、同期間としては過去最高となった。

 だが嵜本晋輔バリュエンスグループCEOは、「(ブランドリユース市場は)今後はますます難しい局面に入っていくだろう」と見る。「このビジネスをテコに、“その先”の可能性を広げていかなければ未来はない」と語る嵜本CEOに、今後の展望を聞いた。

WWD:自社の強みをどう分析するか。

嵜本晋輔バリュエンスグループCEO(以下、嵜本):競合との差別化要素になったのは、一つがデジタルでの集客。設立当時(2011年)から折込チラシや新聞広告といった買取業者の集客の常套手段に縛られず、新規客獲得のためのリソースをデジタルに振り切った。自社に約20人のデジタル専門チームを作り、SEO対策やリスティング広告で認知拡大を進めた。

 二つ目が「おもてなし」。当社の収益構造を説明すると、約半数の優良顧客が利益の9割以上を生み出してくださっている。高価なジュエリーや時計をお持ちになる40〜60代の男女がその中心だ。会社を起こす前に競合他社の買い取り現場を見て、正直に言えばもう勝ち筋は見えていた。どこも顧客目線での店舗設計ができていなかったからだ。高価なブランド品、それもお客さまが思い入れのある大切な品物を扱うにもかかわらず、周りから丸見えのチープな買取ブース。担当するスタッフもブランド品をこれみよがしに身にまとい、お世辞にも信頼に足るような装いではなかった。そこで僕たちは、買い取りの際にはお客さまを上質でプライベートな個室空間にお招きし、スーツにネクタイを締めたスタッフに応対させた。今では業界のスタンダードと言えるものも、実は僕たちが先駆けとして導入した。

WWD:買い取りにおいて「おもてなし」が重要なのはなぜか?

嵜本:買い取りは「いかに高い金額で買い取れるか」の勝負になるかと思われがちだが、必ずしもそうではない。お客さまに査定金額を提示するまでの数十分の間に、対話を通じて提供できる価値がある。持ち込んでいただく品物には、お客さまのさまざまな思いが詰まっている。「正しい査定金額を出してもらえるか」「引き取った後も大切に扱っていただけるのか」と、さまざまな不安も抱えている。だからこそスタッフはお客さまと真摯に向き合い、物と出合って別れを決断するまでのストーリーを分かち合う。商品には「価格」があるが、所有する人によって「価値」は違う。コミュニケーションから得た情報は、買い取り価格の値付けにも反映している。例えばお客さまが新卒社員のときにコツコツお金を貯めて買ったというバッグなら、たとえこちらが少し損をしてでも高く買うようにする。

WWD:店頭スタッフはどのように育てている?

嵜本:評価制度として、点数成約率やリピーター率、利益貢献度などを数値化し、インセンティブ報酬として還元する仕組みを創業時から敷いている。その上で、単にモノの価値が正確に分かるだけではなく、お客さまから信頼され、「この人になら託したい」と思われるような人間力のあるスタッフになってもらいたいと考えている。起業して間もなくは、僕も現場で鑑定士をしていた。ある日女性のお客さまが持ち込まれた高級バッグに、査定額7万円を提示した。聞けば、前に訪れた店の査定額は10万円だったという。半ば諦めかけた僕に、女性は「あなたに買い取ってもらいたい」と。僕は驚いた。そして、こういった事象が何度も続いたことで確信した。お客さまは最後は「誰に委ねたいか」で決めている。

 たしかに買い取り価格で訴求することは簡単だ。他店で10万円と査定された品物に対して「うちは11万円出しますよ」と提案すればいいだけ。だがこれはアパレルの値引きと同じで、いわば麻薬のようなもの。これを市場のプレイヤーが一様に同じことを繰り返せば査定価格のつり上げ合戦になり、業界全体がジリ貧に陥ってしまう。

WWD:業界の今後をどう見通すか。

嵜本:企業はより透明性のある経営を求められ、業界もそのような流れに向かうだろう。僕らに関して言えば、競合他社に先立って買取価格を積極的に自社ホームページなどで公開し、お客さまの信頼につなげてきた。情報化が進む中で、消費者は買取業者の提示する査定価格に対してはますますシビアになる。すると、従来のような利益を生み出せなくなるプレイヤーも出てくるかもしれない。そもそも国内のブランド品の中古市場の規模は2400億円※にすぎず、限られたパイを数多くのプレイヤーで奪い合ってきた。市場には今後、かなり難しい局面が訪れると予想している。

※出典:リサイクル通信「リユース市場データブック2021」

WWD:自社の長期的な経営戦略は?

嵜本:時代に合わせて、僕らもビジネスモデルを大胆に変えていく。コロナがきっかけで古物商向けのオークションがリアルで開催できなくなり、オンラインに移行した。結果、小さな企業でもウェブ上で自由にオークションが開催できるようになった一方、僕らのように自社で大きなオークションハウスを構える優位性が薄れてしまった。今後は主戦場をB to B取引(古物商への卸売)からB to C取引(消費者への直販)へ移していく。顧客とより近づき、深くつながることが必要になる。この春には、買取だけでなく販売も行う新業態「アリュー(ALLU)」を、銀座、心斎橋に続く3店舗目として表参道に新規出店した。開店以降は好調なすべり出しで、初年度予算10億円を大きく超えるペースで推移している。

 さらにブランドの買い取り販売を入口として、自動車やマンションなどの不動産買取といったビジネスにも裾野を広げる。高級時計を身につけている男性は、高級車に乗っている人が多いことは想像がつく。当社には100万人以上の顧客情報があり、月間約3万人ずつ増えている。買い取り客に訪れたお客さまにはアンケートをお願いし、年齢や性別、収入や興味関心などさまざまなデータを収集している。すでに自社内には不動産買い取り専門の10人程度のチームを組織した。まだ赤字ではあるが、「LINE」でのメッセージや店頭に買い取り目的で訪れたお客さまに営業をかけ、マンションなどの買い取りが月に数件ペースで成立している。今後はスタッフに求める役割やスキルも変わっていくだろう。テクノロジーの進歩で真贋はAI(人工知能)が判別し、査定価格もデータを叩けば瞬時に出せる時代になる。これから磨くべきはお客さまが持つ潜在的なニーズをあぶり出す能力だ。

 こういったブランド品の買い取り販売以外の分野が、全社の収益の2〜3割を稼ぎ出す体制を近い将来作っていく。取り扱うカテゴリーは不動産や車だけでなくアートや骨董品、ワインなどあらゆる実物資産へ広げる。まだ価値が見出されず、埋もれているアセット(資産)は世界中に山ほどある。それらを発掘し循環させていく役割を、僕らが担っていきたい。

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