スパイバーは 人工タンパク質“ブリュードプロテイン”を用いた素材革新を進めており、将来的にはファーやウール、カシミヤのような見た目、質感の素材も実現可能だという。となると衣料品のおける“ラグジュアリー”の概念を根底から覆す可能性がある。開発の段階や同社が考える“ラグジュアリー”について聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):ファーやウール、カシミヤのような“ブリュードプロテイン”とは技術的にどのようなものなのか?
スパイバー:当社が製造するタンパク質ポリマーを紡糸し、フィラメントを製造する。その製造したフィラメントを短く切って、短繊維としたものをさらに異なる方法で紡績したり、加工したりすることで見た目も風合いも全く異なる糸を作り出すことができる。また、紡糸する繊維の繊維径や断面形を変えることでも風合いにバラエティをもたらすことができる。こうして生み出す糸は、動物性素材の代替ができるような天然由来素材ならではの柔らかさや触り心地、温かみを実現している。一方、当社は必ずしも動物性素材の模倣を目指しているわけではなく、“ブリュードプロテイン”素材ならではの今までにはない新しい糸や生地を開発・提案していく考えだ。
WWD:いつごろ実現しそうか。
スパイバー:動物性素材の代替ができるような素材という意味では既に実現していると考えている。繊維径はカシミヤと同等レベル、またはさらにそれより細いレベルを実現している。実際に、アパレルメーカーから当社の素材を動物性素材の代替にしたいというコメントは既にもらっている。
WWD:既存のファーやウール、カシミヤ素材との違いは?
スパイバー:一番の大きな違いは、アニマルフリーであるという点だ。それにより、消費者の間で高まっているエシカル・ビーガンファションニーズに応えることができる。また、当社のタイのプラントでフル稼働していければ、温室効果ガス(二酸化炭素ではない)の削減につながる。カシミヤは化学繊維と比べて製造過程における温室効果ガスの排出量が莫大であるが、“ブリュードプロテイン”ならおよそ6分の1程度の排出量まで削減できる可能性がある。水の使用量は、カシミヤと比較しておよそ6分の1程度に抑えられる可能性がある。加えて土地の使用量が小さい可能性がある。
WWD:価格設定はどうなる?
スパイバー:しばらくの間は、かなりの高価格帯となる。タイと米国のプラントがフル稼働できるころには今より手が届きやすい価格帯になる。一方で、当社は原料調達や使用する電力の調達方法、サプライーチェーンや混紡する素材の調達元や人権侵害など、細かく精査をし、社会と環境にとって本質的により良い製造を目指していう。将来的に、アパレル業界で衣類の循環システムを構築・実行するために、当社では基礎技術の開発を進めている。こうした長期的な研究や技術の確立には相当な金額と数十年という時間がかかるため、今後立っていく売り上げはこうした将来のための投資に回していく考えだ。
WWD:これまでカシミヤやファーは「ラグジュアリー」としてアパレルの付加価値につながっていた。“ブリュードプロテイン”でそれらを作った場合、その価値や位置付けは変わると思うか?“ブリュードプロテイン”からみた「ラグジュアリー」とは?
スパイバー:衣料には石油由来の素材以外にも、様々な天然素材が使用されているが、それらの素材は意味・目的をもって使用されていると考え、それらを否定するものではない。しかし、全ての天然素材が地球環境に配慮され、倫理上の課題をクリアしているということではないのも事実であり、希少性によっては非常に高価な素材として取引されている。私どもはこのような天然素材のすべてを構造タンパク質素材に置き換えることを目指しているのではなく、これまで作り上げられてきた文化や伝統も守りつつ、共存・共生しながら地球環境や倫理についてより良い選択肢を提供することに努めている。「ラグジュアリー」という概念は決して素材のことだけではなく、そのモノが生まれた背景や思想、デザイン、付加価値など様々な面から捉えられるものだと思うから、構造たんぱく質素材によってその概念が大きく変わることはないように思う。
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