「サステナブルな素材ってつまりどういうこと?」ーーアパレルメーカーの担当者と話す中でよく耳にする疑問だ。先に言っておくと明確な答えはない。原料、生地、加工、副資材など服作りの全工程で日々技術が進化しており、選択肢が増える一方、開発は発展途上の段階にありそれぞれに課題があるのが現状だ。連載前編は、リサイクルポリエステルとポリエステルの循環、代替素材についての現在地と私たちが持ちたい「これからの考え方」を識者2人の対談から考えたい。
WWD:リサイクルポリエステルが広がりつつありますが、品質にばらつきがあるのが現状です。また、ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルの2種があり生地の特性にもつながりますが、その違いはまだまだ認識されていません。今後、それぞれどのように進化していきますか。
梶原加奈子カジハラデザインスタジオ代表(以下、梶原):ケミカルリサイクルの糸はバージンポリエステルに近く、マテリアルリサイクルの糸は回収から製造方法によってクオリティーのばらつきがあります。テキスタイルメーカーはケミカルリサイクルの今後の発展に期待を寄せていると思います。一方で、まだまだ国内の生産量が少なく安定供給が難しい。日本の廃棄衣類の回収や分別の仕組みが確立されていない点やケミカルリサイクルできる工場が整っていない点が課題です。実装にはある程度の量が必要です。
マテリアルリサイクルは、白度や色の再現性に制限があるので、さらなる研究が必要な段階にあります。色の再現性に加えて、各社の糸に微妙な差異があるため一概にポリエステルが織れたら同じ状態でリサイクル糸も簡単に織れるということでもありません。繊細な調整が必要です。またケミカルでもマテリアルでも現在表記は「リサイクルポリエステル」。そのリサイクル糸を選んだ背景にはさまざまな考えがあるけれど、そのストーリーをどこまで伝えるべきかーー開発現場では日々葛藤を抱えています。
吉川久美子マテリアルコネクション東京代表取締役(以下、吉川):品質の違いやリサイクル時のエネルギー使用量の違いなどの課題はどの産業も同じです。アパレルのマテリアルリサイクル糸はそれほど性能が良いものがないという認識です。マテリアルリサイクルでは不織布にして、車のトランク周りの素材に用いられることが多いです。カスケードリサイクル(品質の低下を伴うリサイクル)だったとしても、リサイクルした素材が100%ポリエステルであれば再度リサイクルが可能ですので、必ずしもケミカルリサイクルによって分子レベルまで戻す必要はないと思っています。ヨーロッパは、(ケミカルリサイクルよりも必要なエネルギー量が少ない)マテリアルリサイクルの技術を向上させることで、よりエネルギー使用量を少なくして、純度の高いものを目指す傾向が見られます。
WWD:分かりやすい「服から服」の循環をイメージしがちですが、環境負荷が低くかつ資源循環が可能な方法を考えることはとても重要だと思います。産業横断というハードルもありますが。伝え方についてはどう考えますか?
吉川:着心地などにデメリットやメリットが出てくる場合は違いを伝えるべきだと思います。消費者が知っておくべきことは、今後のリサイクルのインフラによりますが、廃棄方法や安全性について。人の命に関わる差異がないなら、個人的にはケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルの差異を詳細に伝える必要はないのではないかと考えます。私自身、服を購入するときに服の組成が分からないまま買ってきていることがあります。
WWD:リサイクル材について何パーセント使用すればリサイクルといえるのでしょうか。
梶原:会社ごとに決まっている印象です。各社の方針を確認しながら進めている印象です。
WWD:リサイクル率はぜひ記載してほしいところではあります。リサイクル材の基準を設けている産業はありますか?
吉川:今後ISOの国際基準などでリサイクル材の含有率が設定される可能性はありますが、まだ具体的に示されているものはないように思います。欧州ではパッケージ産業団体が2030年までにリサイクル材含有率30%という目標を設けているようです。また、家電や自動車では基準はありませんが、企業目標として30年までに30~50%をめどにリサイクル材を使うという目標を発表しているところがあります。例えばBMWは40年までに100%リサイクル材、またはリサイクル可能なものを使用すると目標を掲げ、コンセプトカーを21年に発表しています。まずメーカーの方はリサイクル材を使い、リサイクル材含有率を上げることが第一ですが、次のステップとして、自分たちが作ったものがリサイクル可能かを検討し、リサイクル可能なものを作りに循環させていくことが大切になります。
梶原:衣類は混紡や複合のものが多く、組成問題が課題になります。今後、リサイクルしやすいように単一素材を意識した製品デザインも出てくると思います。その際に課題になるのがボタンやテープ、裏地など服飾資材です。リサイクル素材やPLA(ポリ乳酸)、天然素材のバリエーションがまだまだ少ない。生地だけではなくて服飾資材でもサステナブル化が同時に起きないと、単一素材のモノ作りが難しいのが現状です。
吉川:ある一定の熱で溶ける糸や全部ナイロンでできたファスナーが登場したりはしています。
WWD:商品の回収方法、リサイクルの進化についてはどう見ていますか?
吉川:香港のHKRITAは、分別・分解に力を入れています。複合素材がファッション産業の課題だとすると、分解業者が大事になる。家電や自動車の産業ではすでに製造者の責任として、回収してリサイクルする仕組みがありますが、衣類は量が莫大なので回収拠点の整備やより多くのリサイクルメーカーが出てこないと難しいという状況でしょうか。
梶原:店舗回収が進んでいる印象ですが、回収後に業者がどのように分別し、その後どのような形で活用されているか明確化できていないという問題があります。
吉川:回収スキームの構築を進めると同時にメーカーは回収後に次の資源として使えるような設計をしなければいけないですね。
ポリエステルはどうなる?代替品現る?!
WWD:量産型ブランドに欠かせない、繊維の大半を占めるポリエステルに置き換わっていく素材は何だと思いますか?あるいは量が多過ぎるので置き換えは難しいでしょうか。
梶原:これからの素材開発で期待されているのは植物由来のバイオマスプラスチックとしてPLAでしょうか。熱に強く強度があり染色可能なフィラメントとスパンのPLAが開発されていて供給も安定していく兆しがあります。また、機能性がある天然繊維の開発も進んでいくと思います。アウトドアやスポーツの分野でも天然素材は見直され活用され始めています。それに合わせて品質基準も変化していくと思います。
吉川:ポリエステルは使い続けないと人口増加に対応できないと思うので必要な素材だと思います。バージン素材を作るのではなく、リサイクルして使い回すことが大切。廃棄せずに無駄を省けば、PLAがポリエステルに置き換わる必要もないかもしれません。
梶原:リサイクルポリエステルは安価なバージンポリエステルの価格では買えないという課題はあります。また、合成繊維の糸はロット
が大きいので、メーカーや問屋がリサイクル糸を活用した生機在庫に転換していく英断をしないとバリエーションは増えない。在庫を持つ企業は、どれだけの需要があるのか確認してから進みたいというのが本音です。ユーザーも関心が高まっていると感じますので少しずつ状況は変わってくると思います。
吉川:需要と供給の問題に加えて、リサイクルできるポリエステルをどれだけ集めることができるか、という課題もあります。大量に集めて一気にリサイクルするとコストを抑えて効率良く生産できますが、その状態に至っていません。ただ、そのためにペットボトルをたくさん集めるとなると本末転倒です。
WWD:というと?
吉川:石油原料のペットボトル自体はそもそも減らす、なくしていくことが必要ですよね。リサイクルポリエステルを作るために何かを引っ張ってくるーーどんどん捨てていいということではありません。
WWD:循環させることも大切ですが、循環するモノ自体を減らしてスピードをスローにすることもまた重要です。
梶原:飲料メーカーが再生ペットボトルの活用に舵を切ったことで再生ペレットは衣料ではなくペットボトルや資材で必要とされる傾向が高まっています。リサイクルポリエステルの衣料活用はまだまださまざまな課題がありますので、廃棄する服のリペアやリユースを積極的に考える姿勢も大切だと思います。
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