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コットンの持続可能性とサステナブルなラグジュアリー素材を識者と考える【特集・サステナブルな素材とは何か?】

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 大量の水と土地を必要とする綿花栽培の見直しが求められている。水資源の枯渇に加えて、温暖化に伴う異常気象や、農薬や肥料の使用が農地に与える影響が大きくなっているからだ。世界的な人口増加にも対応するべく、食料生産とのバッティングまでを見越した原料調達が求められる日も近い。連載後編ではコットンは持続可能性とコットンに代わる素材とは何か、ラグジュアリー×サステナブルな素材を識者2人と考える。

WWD:植物由来であれば、育成時に光合成でCO2を吸収するから石油由来の繊維よりはサステナブルだという考え方があります。そもそも非可食部を活用していれば納得ですが、可食部を活用した場合、食糧生産とバッティングしますが、サステナブルといえるのでしょうか。

吉川久美子マテリアルコネクション東京代表取締役(以下、吉川):グローバル視点では「避けるべきこと」という認識が広がっています。非可食部の繊維などをバイオポリマーに使う動きは進んでいて、食料生産とバッティングせずに作ることができる材料が増えています。土地利用が必要な場合、麻などの生育が早いものが良いとされています。

WWD:コットンは食料生産とのバッティングに加えて、農薬や肥料、水資源の枯渇などさまざまな課題を抱えています。コットンに代わる素材は何になっていくのでしょうか。

吉川:コットンは生育に大量の水が必要ですが、温暖化が進めば水資源が減るので、長い目で見ると作ることができなくなる可能性があるかもしれません。水資源が豊富な日本にいると実感が湧きづらいですが、すでに水資源が枯渇しているエリアも出てきていて、そういう状況を見聞きしなければと感じます。すでに生育が速い麻でコットン風の風合いを表現するメーカーが出てきています。また、セルロース繊維などで代用していくことや、山ほどあるコットン古着を資源と捉えてリサイクルするなどでしょうか。ただ、リサイクル過程で短繊維になり、強度が出ないなどの課題はあると聞きます。コットンのリサイクル繊維と麻や和紙などの繊維とを混ぜるなどの糸の開発が進めばと思います。

梶原加奈子カジハラデザインスタジオ代表(以下、梶原):水の循環は今後非常に重要になることから、23年春夏のテキスタイルテーマにも上がっています。気候変動の影響で干ばつや台風、洪水が相次ぐことが予想されるので、その状況で農作物やコットンが育つかという問題もあります。その代替として麻系の素材が浮上していますが、現実的には麻の価格はまだ高い。選びたいけど、選びづらいのが現状です。今はポリエステルやセルロース混の麻素材で調整しているように感じます。コットンは新疆綿の問題もあり、トレーサビリティが厳しくなり糸の背景の確認や生産地証明が求められています。そのうえコットンの価格が高騰しており価格が不安定な状況です。そうした背景から、麻やヘンプ、ペーパーヤーンなど水を多く使わず生育が早い素材の活用に今後ますます注目が集まると思います。

吉川:麻に関しては自動車産業でも、今までガラス繊維で強化していたものが麻の繊維に置き換わってきています。

ラグジュアリーをサステナブルに表現する素材

WWD:ラグジュアリーを提案するときに有効なサステナブルな素材とは?

梶原:ラグジュアリー=希少性だと思います。誰もが持てるものはラグジュアリーにならないと思うので、例えば、ハンドメードでしかできないものなどクラフト的なデザインがラグジュアリーになっていくのではないでしょうか。再現できないようなヴィンテージの古着もその可能性を秘めていますね。自分が管理して作った原料を使用した素材など、個別化していく過程でラグジュアリーに変化していくような気がします。

WWD:お米やワインのようですね。毛皮やカシミヤなど糸が細くてフワフワしたタッチのものがラグジュアリーとされていた時代もあります。

梶原:「ユニクロ」がカシミヤを導入してから、これまでラグジュアリーとされていた素材をひとくくりにラグジュアリーといえなくなっています。技術が発展している今、タッチの良さでの差別化は難しい。同じカシミヤでもどこの地域で採れ、どこの水で洗ったか(水によってトリートメントが異なり触感が変わる)など工程に希少性を求めることで、価値が生まれてラグジュアリーになるとは思います。

吉川:今後は普通のウールのセーターやコットンのTシャツがラグジュアリーになる気がします。私たちの孫世代に「おばあちゃん、ウールのセーターを何十枚も持っていたの?」と驚きをもって尋ねられるような。他方で、スパイバーが取り組んでいるような新しい素材は今、希少なのでラグジュアリー素材といえますが、大量生産が可能になるとポリエステルの後に私たちの生活を支えるものになるかもしれない。

WWD:新素材として、藻類を活用した素材の話題が増えています。

吉川:海だけではなく湖の藻を樹脂にしてプラスチックとして使ったりしています。

梶原:藻類からできたアクセサリーも出てきていますね。

吉川:海由来のものは、海洋生分解性があるものが多いのでストローや海で使うようなもので藻類を活用する動きは見られます。日本では海藻を食べますし、また採り過ぎることで海水の温度上昇や酸化も懸念されるのでは。

WWD:自生している藻類を原料にしているものが多いのですか?

吉川:養殖は見ないですね。ですので、地元で採れた藻類を乾燥させて吸音材としてインテリアに使用するなど、地域の水質を改善しながら地産地消で地域貢献というアプローチが多く、大量生産大量供給できるものとして扱われていない印象ですね。

WWD:レザーの代替素材は?

梶原:アップルレザーが速いスピードで進んでいる印象です。マッシュルームレザーは情報が多いのですが、品質の課題に加えて高価格でもあるので、リーズナブル感があるのはアップルレザーでしょうか。

吉川:リンゴだけでなく、搾りかすの繊維を活用したものは出てきていますね。繊維側やコーティング剤で石油由来の樹脂を使用していることもあり、添加物やコーティング剤は何を用いているかという点もポイントです。100%植物由来でシューズや自動車に採用できるものはまだないと思います。石油由来の材料の量を減らすことが大切になっているとはいえ、理想は100%ですが難易度が高いので、100%でなくても使ってみるという姿勢も大切だと思います。あとは、サボテンレザーも注目です。サボテンは水を使わずに育つ点でサステナブルといえます。アパレル産業での活用は始まっていますが、自動車にも使えるように開発が進んでいます。サボテンレザーはナイロンやポリエステルの生地にサボテン由来の樹脂をコーティングしているのですが、生地はリサイクルナイロンやリサイクルポリエステルに置き換わり、使用後にサボテン樹脂と繊維両方をリサイクル可能にする開発が進んでいたりと進化しています。

WWD:マッシュルームレザーはアパレル産業以外で話題になっていますか?

吉川:事例はファッションが圧倒的に多いですが、インテリアの壁材としてキノコの菌糸を用いているものもあります。麻や食物の繊維にキノコの菌糸をはわせて、それを圧縮してボードにする吸音材など、インテリア分野でも注目が集まっています。家電などでは水に弱いなどの課題からまだ使いこなせていないと思います。

梶原:現実的なところではリサイクルレザーの人気が出てきています。合成皮革もどうリサイクルしていくかの議論が始まっていて、例えば粉砕してワタにする技術はできています。それをフェルトにするのか、違う素材に応用していくのかーー今メーカーと研究、デザインしているところです。

WWD:最後に服をデザインする人に向けて、どんな視点でモノを選び、何から選べばいいのかについてメッセージをいただけますか?

吉川:迷ったときは、環境負荷が低い原料素材を選ぶこと。その次に、自分たちが作ったものがどんな地域で消費されて、どう廃棄されるのかを考えることが大切です。3~5年後にリサイクルのインフラが整っているかもしれないので、今できることだけを考えるのではなくて、未来視点で設計することが求められています。自分たちが目指すものをメーカーなどに発信して伝えていくことが大切だと思います。開発が進むきっかけにもなりますし、私たちも開発に取り組む企業の力になれるのではないかと思います。

梶原:根本は世の中が平和に過ごせるように、未来を想像する視点を持って行動することだと思います。そのために焼却するものを減らすことや水の使用量を減らすことや節電をすることなど、出来ることが何か考え続ける姿勢が大切だと思います。長く使ってもらえる商品を企画することや、アップサイクルなどで楽しさを表現することなど、簡単に捨てられない価値観を作ることもクリエイターの役目だと思います。マテリアルはアップデート段階にあるので、100%サステナブルは難しい。今は整合性が取れなくてもマインドを持ち続けることが大事です。サステナビリティを一過性のトレンドとして捉えるのはなく、地球全体の問題として学ぶ姿勢を持つことも大切ですね。

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