ファッション

老舗下着メーカー・タカギが描く未来 サニタリーショーツで社会を変える

 1930年に奈良県で創業したインナーメーカーのタカギは、サニタリーショーツのパイオニアとして知られる老舗企業だ。量販店向けの自社製品の製造や大手下着メーカーのOEMなどを手がけるほか、近年はオリジナルブランドの製造から販売までを行う。そんなタカギの4代目社長に高木麻衣氏が今年1月に就任した。

 ファッションのマーケティング会社でキャリアをスタートした高木社長は、2014年に入社。プレミアムインナーブランド「アロマティック(AROMATIQUE)」や、分離型の吸水サニタリーショーツなどを展開する「アヤメ(AYAME)」を立ち上げ、新たな事業の軸を作るべくオリジナルブランドを世に送り出してきた。それと同時に女性が働きやすい環境づくりや、社員の若返り、CSR活動にも注力。創業者である祖父母や父の思いを受け継ぎながら、新たな視点でタカギに新しい風を吹き込む。

自社ブランドのプロデュースと
社内改革を推進

 高木社長が入社と同時に立ち上げた「アロマティック」は、厳選した糸をイタリアから輸入し、編みから縫製までを行うタカギのノウハウを最大限にいかしたオリジナルブランドだ。高価格帯かつ百貨店を中心に展開する同ブランドは、それまでOEMや小売店舗への卸売を中心に商売をしてきたタカギにとって大きな挑戦だった。

 「下着=消耗品というイメージが消費者にはある。特別な日には“勝負下着”ともいうが、それはブラジャーやショーツだったりする。インナーに対しては、防寒や汗対策など機能面が重視される。(他人の)目には触れにくいもので、デザイン性のある高価格帯のブランドは少ない。けれども、モノが溢れる時代にどういうものを身につけたいか。特に、ここ3年ほどで人々の意識は大きく変化し、『アロマティック』と消費者のニーズがマッチしてきている」と高木社長は話す。手仕事で生み出されるがゆえに大量生産はできないが、時代のニーズとマッチし始めた「アロマティック」を着実に育てていきたいと先を見据える。

 オリジナルブランドのプロデュースと同時に高木社長が取り組むのは社内改革だ。14年の入社当時、社員の平均年齢は50代後半。若手社員が少なく、「10年後に会社を続けるためには若返りを行わなければと危機感に迫られた」という。また、女性をターゲットにする製品を扱っていることから、女性の採用に積極的に取り組むことに。「手仕事には熟練の技がもちろん必要だが、会社を後世に残していくためには若手を採用しなければと思った。デザイナーは女性が多いが、営業職は男性が大勢を占める。下着の着心地を身を持って語れる女性を営業職でも積極的に採用したいと、できることから始めた」と高木社長は振り返る。

 若手・女性の積極的な採用を行うにあたり、女性がもっと働きやすい環境作りにも注力。高木社長自身の妊娠・出産といった大きなライフイベントと重なったことからも、「仕事も子育ても、どちらも諦めたくない」という思いや、身を持って感じた働きにくさの改善に取り組む。その一つとして、勤務時間に融通が効くフレックス制度を導入した。

 「6年前から経営に携わるようになった。変化に対してネガティブに思うこともあるだろうが、新しい制度を導入する際には、2年ほどのトライアル期間を設けて着実にステップアップできるようにしている。社員には納得して働いて欲しいので、説明責任を果たすように心がけている。社員には売り上げも全て公開し、年に1度だが社内研修を行い経営方針を説明する」と話す。

 今では社員の平均年齢は50代前半まで若返り、若手女性社員が増えた。当初役員の男女比率は1割を満たなかったが、現在は女性の比率が上回るまでに。次に目指すのは男性社員の育児休暇の取得だ。「小さい会社だが前例をつくっていきたい」と前を向く。

18年からCSRの取り組みを開始
小学校で性教育の授業を行う

 タカギは奈良県の私立小学校で性教育の授業を行う「HAPPPY プロジェクト」を2018年に開始した。サニタリーショーツのパイオニアとして、女性の体に長く向き合ってきたからこそ、生理へのネガティブな印象を女性の体にとって大切なものだというマインドへと変化を目指す。

 「性教育が簡単に済まされ、ほとんど記憶に残らないからこそ、生理に対してネガティブな印象を持ってしまう。赤ちゃんを産むための体になっていくと教えられても、小学生には理解しにくい。そういった視点ではなく、自分の体と向き合い生理が大切なものだというマインドに変えるためにも、小学校で授業を行うことでオープンに話せる機会を増やす。ナプキンの着脱や、サニタリーショーツに水を垂らしてみるなど、体験することで記憶に残るような工夫をしている」と話す。

 現在は2つの小学校で、タカギの社員が授業を担当している。「生理やホルモンバランスの変化など、知ることで心が軽くなることもある。内容や対象を探りながら、ブラッシュアップして活動を続けていきたい」と、実現が可能な範囲で取り組みを進めていくという。

キーワードは「温故知新」
脈々と受け継がれる思いを「アヤメ」に

 女性の働きやすい環境づくりや、CSR活動に取り組む中でタカギは昨年、新たにオリジナルブランド「アヤメ」を立ち上げた。昨年の女性のエンパワーメント、サステナブルといったメッセージと合わせて発売した。

 立ち上げの背景にあったキーワードは「温故知新」だ。「当社の強みは歴史があること。サニタリーショーツやナプキンがまだない時代に祖母は試行錯誤して生理帯(昭和初期当時の生理用下着)を提案した。糸や生地の開発に熱心に取り組みサニタリーショーツを事業の軸に据えて、働く女性を応援したいという祖母の思いを今の会社につなげていきたい」と高木社長は語る。

 また、世の中のSDGsへの気運が高まりを見せる中でCSR活動のほかにも、社員の意識を高めるべくプロジェクトの立ち上げを検討していたという。そこでサニタリーショーツとSDGsを絡めることが思い浮かんだ。時代性を考えてサニタリーショーツをリバイバルしたのが「アヤメ」だ。ブランド名は祖母の名前を掲げ、タカギの歴史と未来を重ねた。
 
 多くのブランドが吸水パッドが内蔵されているタイプのショーツを提案する中で、「アヤメ」は布ナプキン“エコナップ”の取り外し可能なデザインを採用しているのが特徴だ。「CSR活動と関連するが、自分の体と向き合うための選択肢の一つとして手にとってもらいたい。履き心地がよく、デザイン性が高ければ365日履きたいショーツになる。なので、生地も漏れにくさだけでなく、優しい素材にこだわることが『アヤメ』らしさ」と話す。今年3月にはブランド1周年を記念して、ソフトブラを発売。生地をオーガニックコットンに切り替えた。

 「企業として製品でアプローチすることは当然やらないといけないが、製品以外の部分でCSR活動に取り組んでいるので、それを広げていきたい。性別にとらわれない世の中へと変わっていくことに対して、タカギとして何ができるのかを考えているところ」と語る。

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