ファッション

脱サラしてモデルデビュー ヒロ クリヅカって何者?

 日本人モデルのヒロ クリヅカは、脱サラしてモデルデビューした異色の経歴の持ち主だ。坊主頭に鋭い目、鼻筋が通った端正な顔立ちで、2020-21年秋冬シーズンの「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」のランウエイや、「トム フォード(TOM FORD)」の広告など、名だたるブランドに起用されている。モデルを目指した経緯からランウエイデビューまでの道のり、「コンプレックスの固まりだった」と語る学生時代までを聞いた。

海外出張でモデルを勧められ
一週間で辞表を提出

WWD:脱サラしてモデルになったのは本当?

クリヅカ:はい。大学卒業後、繊維商社に入社し、海外ブランドに生地を売っていました。メゾンブランドや「ザラ(ZARA)」などもクライアントでした。海外出張に行った際、あるブランドの生地デザイナーから「君、いいよ。モデルやりなよ」と言われてその気になり、一週間後に辞表を提出。数カ月後には海外コレクションを目がけて、イタリアに発ちました。

WWD:すごいスピード感ですね。いきなりランウエイデビューしたとか?

クリヅカ:いえ。当時は体重88kgで、とてもじゃないけどモデルができるルックスじゃなかった。オーディションも全く引っかかりませんでした。これじゃダメだと減量を決意し、いろいろと調べたら1カ月で4kg痩せる計算になったので、4カ月で16kg落としました。

WWD:どんな計算だったのか気になりますが、その後の流れは?

クリヅカ:やみくもにオーディションを受けてもダメだと、モデル市場をリサーチしました。パリや日本は、線が細くてウィアードな顔立ちのモデルが人気。骨格が太く、顔立ちも個性派じゃない僕は、ミラノやシンガポールにハマると考えて、シンガポールに行きました。すると2週間で事務所が決まり、雑誌とかショーとか、仕事のオファーがバンバン来ました。

WWD:戦略的にモデル業を行ったと。

クリヅカ:そうです。僕はスターモデルになるタイプじゃないし、普通にやっても上手くいきませんからね。シンガポールではモデル仲間にカナダのマザーエージェンシーを紹介してもらい、イタリアやドイツなど8カ国の事務所と契約できました。そこで可能性が一気に広がり、さらに当時はトレンドがストリートからテーラードに回帰していたタイミングで、「ミラノならイケるかも」と思って現地に行きました。そしてついに、2020-21秋冬シーズンに「ドルチェ&ガッバーナ」のショー出演を勝ち取りました。その後、他ブランドのランウエイや「バーバリー(BURBERRY)」「トム フォード」「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」などのキャンペーンも務めました。

WWD:名だたるブランドばかりです。印象深いショーや撮影は?

クリヅカ:まずは「ドルチェ&ガッバーナ」ですね。初の海外コレクションの大舞台は一生忘れません。モデルは100人くらいで、日本人はわずか3人でした。あと「バーバリー」も思い出深い。メッセージがダイレクトで届いて、日本の仕事も結構入っていたからかなり迷ったのですが、こんな機会はもうないとパリに発ちました。撮影の舞台は、パリの中心部から4時間くらい離れた森の中。スケールが異次元で、やっぱすげえなって。日本人モデルは歴代で2人目だったらしく、それもうれしかったです。

WWD:体型維持には気を使っている?

クリヅカ:もちろん。気を緩めるとすぐに体型は崩れちゃうし、プロとしてやらせてもらう以上、100%の自分を提供したいと思っています。撮影前日は絶対飲みにいかないし、当日は水も抜きます。モデルは一つの自己表現だし、それくらいの覚悟がないとやる意味がありません。

WWD:TikTokではモデルデビューまでのエピソードなどを投稿していますね。どんな思いで発信しているのでしょうか?

クリヅカ:いろんな人に夢を与えられたらといいなと。僕は自分にコンプレックスがあって、何をしても1位になれなかった。実は父親がバスケの元日本代表で、親戚にもプロスポーツ選手がいるなど、超がつくほどの体育会の家系。僕は大学までサッカーを本気でやったのですが、華が咲かなかった。しかも友達もいなくて、高校ではいじめも受けていました。そんな僕がモデルとして活動しているのって、夢があるじゃないですか。家族も最初はモデルに肯定的じゃなかったんですけど、最近、スバルの広告に出演させてもらい、それを見た父親が初めて褒めてくれました。めちゃくちゃうれしかったです。

ブランドや写真事業も運営
全ては「本気でモデルをやるため」

WWD:アパレルブランドのディレクションも行っていると聞きました。

クリヅカ:ブランドを2つ運営しています。繊維商社時代に培ったノウハウを生かして、企画・生産から販売まで担っています。キャンペーンなどのクリエイティブも自分で撮影しています。モデルのセカンドキャリアはマネージャーや会社員が多く、今からビジネスをちゃんとやっといた方がいいと考えて始めました。

WWD:写真はどのように学んだのでしょうか?

クリヅカ:いろんなブランドや写真を研究し、独学で学びました。最近は写真メインの仕事もやっています。僕は“フォトディレクション”と呼んでいて、ブツ撮りからSNS投稿までをディレクションし、投稿エンゲージメントのリポートも一括して請け負います。yutoriのブランドとか、飲食店のクリエイティブとか。

WWD:ブランド運営から写真事業までをやっていると、かなり稼いでいるのでは?

クリヅカ:サイドビジネスはモデルをヘルシーにやるためで、金もうけが大きな目的ではありません。別の収入源があるからこそ、本当にやりたいモデルの仕事に集中できるんです。

WWD:なるほど。最後に、今後の目標を教えてください。

クリヅカ:モデル以外の表現にもいろいろと挑戦したい。ヒップホップ好きなので音楽もやりたいし、ユーチューブでの情報発信も良さそう。“脱サラモデル”から、さらに活動を広げて、いろんな人に夢を与え続けたいです。

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