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ファッションから学んだ気鋭のフローリスト 「ディリジェンスパーラー」店主が考えるものづくりの本質

表参道ヒルズの一角に店を構えるフラワーショップ「ディリジェンスパーラー(DILIGENCE PARLOUR)」は、今年でオープン7年目を迎える。越智康貴は同ショップを22歳で開業し、現在は2店舗の経営、企業やブランドの装花、文筆活動など多方面で活躍する。フローリストになる前は文化服装学院で学んでいたという彼に、ものづくりに対する考え方やアイデアの着想源を聞いた。

ファッションを通して触れたものづくりの源流
広がった人とのつながり

WWD:文化服装学院(以下、文化)入学の理由は?

越智康貴ヨーロッパ代表取締役(以下、越智):文化に入学したのは、ものづくりに対する憧れから。源流に近いところからファッションを学びたい。新しいことをスタートするなら一流の環境から、という感覚が当時からありました。

WWD:文化で学んだことで今に通じるものは?

越智:服装科の授業では、パターンの引き方、素材、デザイン、流通のことまで幅広く学びます。技術的に役に立ったことはたくさんありますが、いちばん大きかったのは多様なものの見方を養えたこと。個性的な先生、年齢も立場も違うクラスメイトの存在は大きな刺激になりましたし、著名な卒業生に学んだ制作との向き合い方も今に活きています。

WWD:卒業生の言葉で特に印象に残っているのは?

越智:印象に残ったのは卒業生・皆川明さんの講演。ある生徒の「丁寧に縫うこととスピード、どちらを優先するべき?」という質問に対する「両者は反比例するものではない。だって、寿司屋がゆっくり寿司を握ってたらまずそうでしょ?」という返しには、目からうろこでした。クオリティーとスピードは共存しうる。仕事をテキパキと時間内に進めていく要領は、文化の課題と向き合う中で身に付きました。

「繊細な服と強い(長持ちする)服」について、「デザインが繊細で素材が強くなくても、着る人が長く大切にしたいと思えるなら、それは長持ちする服だ」とのお話もありました。たくさんインプットを得て、それを絶えずアウトプットできたのは貴重な経験です。

WWD:花にはいつ頃から携わっていた?また、そのきっかけは?

越智:在学中から花屋で働いていました。卒業後もいくつかのアルバイトを掛け持ちしながら花仕事を続けていくうちに、デザイナーになった同級生から、ポップアップや展示会の依頼が増えてきて。「シアタープロダクツ(TEHEATRE PRODUCTS)」のディスプレーに空の花瓶があるのを見て、お花を生けませんか?と電話で提案したり、地道にアプローチを続けました。今振り返るとファッションが入り口となって、業界を中心に仕事の輪が広がっていったように思います。

WWD:その後、表参道ヒルズに「ディリジェンスパーラー」を開店した?

越智:表参道ヒルズ開業10周年のタイミングで花屋を開店する話が挙がり、入店を決めるコンペに参加しました。そこで出店が決まり、今年で7年目を迎えます。ラグジュアリーブランドの仕事が増えたのもその頃で、フィービー・ファイロ時代の「セリーヌ(CELINE)」の展示会で装飾を任せてもらえたことは、業界内外での信頼に繋がったのかもしれません。

花という素材と向き合いながら
花だけにとらわれない表現の可能性を模索する

WWD:最近ではJR東海「そうだ 京都、行こう」の東福寺光明院のインスタレーションが印象的だったが、自身の中で最も思い入れのある仕事は?

越智:ライブハウス・リキッドルームにある「カタ(KATA)」での初個展です。種から育て、わずか7cmで咲いてしまった早咲きの“黄花コスモス”を題材にしました。1輪の黄花コスモスにマジックミラーの箱を被せ、ペンライトの光を当てると合わせ鏡の反射によってコスモスの花畑が箱の中に広がって見えるという作品です。

植物の個性を活かしながら、新しい花の見せ方を提案する作品として、自分なりの自信はありました。ところが、来客はまさかの3人。当時はこれが自分の実力なのだ、と悲しさに似た複雑で強烈な感情を覚えました。この時の「多くの人に自分が作ったものを見てもらえるのは、とても貴重なことなんだ」という感覚は、今も忘れずに持ち続けています。

WWD:アイデアの着想源や制作の際に大切にしていることは?

越智:基本的には、植物そのものがインスピレーション源です。いろんなフローリストがいますが、自分は造形的な美しさのみを追求するタイプではないですね。もちろん、花一つ一つの色や形にも目を向けますが、それ以上にイメージをいかに表現するかを大切にしています。例えば、ブーケを作るとき「花びらの波を強調する」「色のグラデーションを見せる」など、常にイメージを据えてブーケを制作しています。自分の場合、イメージが先行しすぎて空想の世界に入ってしまうこともありますが(笑)。持っているイメージを形にするために何かを組み合わせる意味では、ファッションにも似たものがあると思っています。

WWD:西武池袋での花言葉を取り入れたイベントも盛況だった。

越智:花は愛、感謝、悲哀など人の気持ちを媒介する側面があります。エンターテインメント性のある形で、人の心によりダイレクトにアクセスしたいという思いから、花言葉のアイデアは生まれました。花言葉のトレーディングカードを3枚受け取る来場者は、その組み合わせによってメッセージを楽しめるようになっています。生活文化に根付いた花言葉をヒントに、違う手法で表現したり見せ方を展開することで、花の新しい可能性を提示する企画になりました。

WWD:写真、文筆活動など、幅広く活躍されているが、花以外の活動の原動力となっているものは?

越智:根幹には花があります。花の新たな表現を模索する中で、「花と何かを一緒に写真に収めたら面白いんじゃないか」「花のことを文章化してみたらどうだろう」という試みから、写真や文筆活動に繋がっていきました。花、言葉、写真、どれか一つ抜き出した時、自分は1番になれないと自覚しているからこそ、花以外に“伝える”ためのツールが必要なんです。心の機微をシェアしたり、従来の表現方法の一歩先に踏み込んでいきたいと思っています。

まだない表現方法を追求しながら
ものごとの原点に立ち戻る

WWD:今後挑戦していきたいことは?

越智:最近は生け花に取り組んでいます。新しい表現を通して磨かれる鋭敏な感性は大切にしつつ、人が脈々と受け継いできた技巧を取り込んでみたい。20代の時はとにかくたくさん経験を積み、いろんな感情を味わいました。30代は伝統に立ち戻ってその先の景色を見てみたいです。

WWD:自分のファッションとの関わり方は?

越智:「とにかく普通の格好」「とにかく派手な格好」「古着」の3パターンを気分によって取り入れています。洋服がその日の気分に合わないと塞ぎ込んでしまうくらい(笑)。自分を表現するうえで、ファッションはかかせないものです。作り手に思いを馳せたとき、デザイナーの視点が活きているものは身につける喜びがありますし、流通の過程や環境への負荷を考えると、古着なら安心して着られます。

WWD:制作に関わる若い世代に伝えたいことは?

越智:自分自身、人が作るものに励まされてきました。情報が簡単に手に入る今、自分だからできることは何なのか、悩んでしまうことが多いと思います。自分の考えを臆せず、たとえ初めはいびつでもいいから発信していってほしい。明確なイメージを通して伝わる人の思いやメッセージには、価値があると思います。技術を追求した先に残る本質が何なのか知りたいですね。

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