ランウエイには、小さなグレーの椅子と、その上に行儀よく座るテディベアたちが何百も並べられた。グレーのスーツにタイという「トム ブラウン(THOM BROWNE)」スタイルのテディベアの視線の先には、ベアの顔が付いた帽子を被ったモデルが、まるで講師のようにテディベアに語りかけている。“WELCOME TO MY TEDDY TALK”というサブタイトルが付いているから、テディベアは彼の話に耳を傾けているのだろう。
「ニューヨーク。ここは自分を探しにくる街。人生でいちばんの疑問を解きに。今日は、私のお気に入りのニューヨーカーたちを紹介します。自分探しという難題を抱えて、このおもちゃ屋にやってきた彼らは、ここで本当の自分を見つけました」というメッセージとともにショーはスタートした。
前半は、比較的ウエアラブルなデザインで構成された。「トム ブラウン」のシグニチャーであるグレーのスーツルックをベースにしながらも、チェックやストライプをさまざまに重ねて見せていく。赤や青、緑、紺、そしてウクライナの国旗を思わせる黄色と青のコンビネーションも登場。ベストとジャケット、その上からコートのレイヤードのほか、スカートの下から白いシャツを覗かせたスタイルも。左右非対称は当たり前、飽きることないパターンを次々と提案する。足元は、20cmはあると思われるプラットフォームシューズ。靴やバッグ、パイピングに至るまで多色づかいだ。ジェンダーの境界線も、ルールもない、ルックが次々に登場した。カラフルな円形メイクやお団子ヘアなど、おもちゃ箱の中を想像させる。
後半は、おもちゃのテーマをストレートに取り入れつつも、実験的とも言えるシルエットだ。ワイヤー使いで球形のニットトップス、アルファベットのブロックで作ったプラットフォームシューズやバッグ、ラグビーボールのようなオブジェが全身にいくつも付いているルック、ザリガニの爪がジャケットの袖から出ているジャケット、平面的なジャケットにボリュームのあるスカートなど、体の立体感からさらに自由に大きくクリエイトしたコレクションに仕上がった。
「ニューヨークには、本当の自分を探しにやってくる。自分の個性を見つけ、それを大事にしていくことがなによりも大切」。それぞれの個性を祝おう。そんなメッセージが込められていた。