写真家の伊藤明日香は、東京・中目黒にあるギャラリーのコンプレックスブースト(COMPLEXBOOST)で初の個展“コンセプション(Conception)”を5月6日から13日まで開催する。
伊藤は1992年生まれ、山形出身。東京のスタジオに務めた後、渡英して撮影やドミュメンタリー写真の作品制作を2年半行った。2020年に帰国後は、東京の子供や母親、家族、福島をテーマにした作品制作を続けながら、ファッションメディアなどでポートレートを中心に撮影している。
同展では写真の展示に加え、プロジェクター3台を使って男女のポートレートのポジフィルムを投影し、テーマの“内包”をインスタレーション形式で表現した。男女それぞれ100人のポートレートを壁に投影し、人の出会いの偶然性を感じさせたり、妊婦の写真の裏側に、これから母になる女性の気持ちを表す写真を重ねたりし、作品の流れを通じて鑑賞者にテーマを伝える。伊藤は「出産を控えた母親に取材していると、結婚のきっかけやパートナーとの出会いについて『タイミング』と答える人が多かった。タイミングや関係性は目で見えるものではないけれど、その“見えないもの”を写真で形にしてみたかった」と語る。
しかし、初の個展を前にトラブルが起こった。開催を3日後に控えた5月3日に、プロジェクターの1台が中目黒で盗難に遭い、展示に使用予定だった男性100人分のポジフィルムを紛失した。慌てて作った段ボールのボードで「作家が困っています」と返却を訴えたものの、戻ってはこなかった。「初の個展に向けて準備してきたものが一瞬でなくなったから、その日の夜はやけ酒。関係者から『SNSで募って可能な限りポートレートを撮り直したら?』と提案されたが、正直あまり乗り気ではなかった」。
結局、知人からの説得もあり、物は試しとインスタグラムでトラブルの経緯とポートレート撮影を募る投稿を決意。それを知人らが善意で拡散し、予想を大幅に超えるメッセージが伊藤のもとに届いた。最終的に2日間で100人の男性の撮影に成功した。伊藤は個展を翌日に控えた5月5日も、中目黒駅前でカメラを手に男性を撮り続けていた。「この2日間、ストリートハントはしていない。撮影した全ての人が、知人の誰かとつながっている。これも目に見えない関係性がつながっていったからこそで、結果的にテーマに沿う作品になった。まさか2日間で100人撮るなんて想像もしていなかったけれど」。
■伊藤明日香 / Conception
会期:5月6〜13日
会場:コンプレックスブースト
住所:東京都目黒区青葉台 1-15-10
時間:12:00-18:00(時間外はアポイントメント制)
入場料:無料