日本におけるジュエリーの代表格といえば、パールネックレスだろう。冠婚葬祭には欠かせないもので、誰もが目にしたことがあるものだ。最近では、ジュエラー「ミキモト(MIKIMOTO)」と「コム デ ギャルソン(COMMES DES GARCON)」がコラボレーションし、パールのネックレスへの注目度が急上昇。同コラボにより、パールネックレスは女性だけのものでなく、男性へも広がった。そして、パールが、ミレニアル世代をはじめとする環境に配慮する世代が“サステナブル”と認識するジュエリーになっている。エンゲージメントリングというとダイヤモンドが一般的。だが、ミレニアル世代などは、パールを選ぶ人が増えているそうだ。
エジソンが驚いた真珠養殖、そして、真珠を育む海を守る「貝リンガル」
現在、市場で販売されているパールのほぼ100% は養殖によるものだ。「ミキモト」の創業者である御木本幸吉は、1893年に世界で初の真珠の養殖に成功。発明王のトーマス・エジソン(Thomas Edison)は、「真珠の養殖発明は世界の驚異だ」と感嘆したという。御木本の「多くの女性をパールで飾りたいという思い」が発明につながり、真珠王と呼ばれるようになった。彼は1900年初頭に、真珠の研究のためにミキモト真珠研究所を開設。そこでは、パールに関する総合的な研究および生産に関する研究が行われている。
ミキモト真珠研究所は2004年に、九州大学と東京測器研究所とともに、2枚貝の生体反応を利用した世界初の水質環境観測システム「貝リンガル」を共同開発。「貝リンガル」とは、2枚貝が生息環境の異常を察知すると、通常とは異なる貝殻の開閉運動をすることに着目し、貝殻にセンサーと小型磁石を取り付けて水中の貝の開閉運動のデータをパソコンへ送り、24時間監視するというものだ。「貝リンガル」の開発により、真珠養殖海域で発生する赤潮などの環境異変を早期発見し、アコヤガイへの被害を防ぐことができるようになった。また、「貝リンガル」は、環境への負荷・貝への負担を減らすことを念頭に置いて開発されており、養殖海域だけでなく、二枚貝が生息する場所であれば、海、淡水湖、河川など、どのような環境でも監視ができる。ミキモト真珠研究所では、「貝リンガル」をバロメータとして真珠を育む海を守るための研究を行っている。
無駄なものはないパール養殖
「ミキモト」では、ゼロ・エミッション型の真珠養殖実現に向けた取り組みを行っている。ゼロ・エミッションとは、産業廃棄物の排出をゼロにするシステムのことで、環境保全の観点からさまざまな製造現場で取り入れられている。真珠の養殖過程では、真珠収穫後に化粧品原料や貝柱(食用)の他に、貝殻と貝肉が出る。それらにはカルシウムやタンパク質(コンキリオン)、コラーゲンなどの有用物質が含まれており、化粧品や健康食品へ利用されている。ミキモト真珠研究所では、今まで廃棄されていた貝肉も、一部がコンポスト(堆肥)の原料として再利用できることを実証した。貝殻は、土壌改良剤として野菜畑へ散布されるそうだ。
「ミキモト」といえばパールだが、オリジナルのコスメを開発製造する姉妹企業のミキモト コスメティックスがある。同社では、真珠養殖のバイプロダクトである真珠層・真珠貝由来成分を配合した独自の処方のコスメを製造販売している。