都内で古着の街といえば、下北沢と高円寺だ。近年、電鉄各社による再開発が進む下北沢は、新しい商業施設の誕生や古着チェーンの進出もあり、かつてのようなにぎわいが戻ってきている。では、高円寺はどうだろう。以前のように古着ファッションを楽しむ若者はいるのだろうか?記者はコロナ以前から数年ぶりに高円寺に降り立った。
改札を抜けると、駅前の路上ライブの歌声がコンコースにも響いてきた。風情の残る商店街には、マスクもせず缶ビールを片手に座りこむ若者たちがいる。古本屋やレコード店、ロックバーはこの時世とは思えないにぎわいだ。時代や情勢が大きく変化する中でも、高円寺にはこの街だけの時間と空気が流れている。
「僕らが店を開くならここしかないと思った」。そう話すのは3月、高円寺に古着店「HIGAN」をオープンした大崎龍之介さん(25)、宮本理一さん(同)。スタイリスト業や古着の買い付け・卸売りで生計を立てていた大崎さんは、かねてからの友人で大阪・アメリカ村の古着店で働いていた宮本さんを誘い、店を開いた。
「高円寺は、人と人の関係性が村みたいに近い。別の古着屋さんが『面白い店ができたみたい』って顧客さんを僕らの店に誘導してくださることもあって。その方もまた別のお客さんを紹介してくれて、人づてにうちの評判が広がっている」と大崎さん。「あと、東京だけど排他的な雰囲気がないよね。ロータリーで喧嘩している人や、路上で座り込んで歯磨きしている人がいても、誰も気にしない(笑)。僕らも外からは店内が見えないようにして、変わった古着屋をやろうとしてたから、ちょうどいいかなと」(宮本さん)。
「HIGAN」では、1970年代の欧米の古着を中心に買い付けている。「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA、現「メゾン マルジェラ」)や「ヘルムート・ラング(HELMUT LANG)」のアーカイブは30万円以上で販売しているものもある。大振りのフリルがついたデコラティブなシャツや、ウィメンズのワンピース、スカートなども仕入れているが、買っていくのはほとんどが男性客という。「そう話すと(古着の)ディーラーさんもありえないと驚く。でも僕らとしてはフツーの感覚」。
なぜ下北沢を選ばなかった?と水を向けると「性に合わなかった」と2人。「僕らからすると、シモキタの店で売ってる古着は売れ線狙いの、キャッチーなものばかり。それをお客さんが求めているんだろうけど。おしゃれでモテそうな服を安く買えればいいじゃん?みたいな感じで面白みがなかった」と語る。
顧客同士がつながることで、「HIGAN」は高円寺の古着好きのコミュニティーハブになりつつある。「シモキタがわちゃわちゃしている分、それを避けて、ちょっと変わっているけどイケてる人が高円寺に集まってきてる感じがする。新しい文化とかスタイルは、僕らみたいなニッチな、小さな店から生まれる可能性だってある。そういう気概でやっていきたい」。