「シャネル(CHANEL)」は5月5日、高級リゾート地として知られるモナコ公国のモンテカルロで2023年クルーズ・コレクションのショーを開催した。会場となったモンテカルロ・ビーチ・ホテルのプライベートビーチに招かれたのは、ようやく渡欧を再開したタイや韓国、香港、シンガポールからのアジア勢を含む世界各国のメディア関係者やインフルエンサー、上顧客ら400人強。メゾンのアンバサダーである女優のクリステン・スチュワート(Kristen Stewart)やティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)、シャルロット・カシラギ(Charlotte Casiraghi)、BIGBANGのG-DRAGON、そして今回のコレクションのティザー映像を手掛けた映画監督のソフィア・コッポラ(Sophia Coppola)らセレブリティーも数多く来場し、華やかなクルーズショーの復活を印象付けた。
「シャネル」とモナコの深い関係
「モナコは『シャネル』の歴史と密接な関係にある。私たちは、そこで多くの幸せなひとときを紡いできた」とヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)=アーティスティック・ディレクターが語るように、同国はメゾンと切っても切れない場所だ。その歴史は、創業者のガブリエル・シャネル(Gabriel Chanel)がモナコと地中海沿岸の周辺地域を訪れた1910年代までさかのぼる。現地を頻繁に訪れて社交生活を送った彼女は、20年代の終わりにモナコに隣接するロクブリュヌ・カップ・マルタンの高台に別荘ラ・パウザ(La Pausa)を建設した。
一方、83年に「シャネル」のデザイナーとなったカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)も80年代後半から90年代後半にかけて、モンテカルロ沿岸の高台にある別荘ラ・ヴィジー(La Vigie)で夏を過ごし、現地で度々キャンペーンビジュアルの撮影を行なっていた。長年カールの右腕を務めてきたヴィルジニー自身も、モナコでカールだけでなく、彼と親交の深かったカロリーヌ・ド・モナコ(Caroline de Monaco)公女、そして、カロリーヌの長女であり2021年から「シャネル」のアンバサダーも務めているシャルロット・カシラギと多くの時間を共にしており、「私にとってモナコとは、何よりも感情を豊かに呼び覚ます場所」だと話す。今回の会場となったビーチは、ラ・ヴィジーからも見渡せる場所。そんなロケーションでのショーを、カールも夢見ていたという。
F1、カジノ、海……モナコの要素満載のコレクション
そんなメゾンにとって特別な場所で披露されたコレクションは、モナコにまつわる要素が満載だ。インスピレーション源は、モンテカルロのコスモポリタンなビーチスタイルと、南仏のコートダジュールにまつわる「シャネル」の歴史。クルーズ・コレクションにふさわしく、軽やかさとエレガンスを融合したアイテムがそろう。
ファーストルックは、ノーカラージャケットとパンツをアレンジしたようなコットンツイードのジャンプスーツに、ワッペン風の装飾を施したキャップを合わせたスタイル。その後も、序盤は毎年5月に開催されるモナコグランプリにちなみ、F1レーサーや整備士のユニホームをエレガントに再解釈したルックをバリエーション豊富に打ち出した。レーシングの要素は、それだけにとどまらない。チェッカーフラッグのモチーフやチェック柄は、風をまとう軽やかなシフォンドレスやスイムウエアにプリントしたり、ニットで表現したり。ドライビンググローブをはめ、ヘルメットを携えたモデルもランウエイを闊歩する。
コレクション全体に漂うのは、スポーティーな雰囲気。スイムウエアにはボクシングショーツやなめらかなシャツドレスを合わせ、テニスウエアを想起させるミニスカートやショーツのルックはメタリックカラーをアクセントにしたスニーカーでアクティブに仕上げている。一方、カールへのオマージュを感じさせる白いハイカラーのストライプシャツやシャツドレスも印象的。終盤は、現地に咲く花々をイメージしたスパンコール刺しゅうや総スパンコールで仕上げたグラマラスなイブニングルックで締めくくった。
今季は仕上げのアクセサリーも遊び心満点で際立っている。ヘルメットやスロットマシーン、テニスラケット用のカバーやバッグはキャッチーなミニバッグになり、カジノのコインモチーフはピアスに。ゴールドカラーやパールのジュエリーには、象徴的な“ココ”マークやカメリア、アイコンバッグのモチーフだけでなく、巨大な海洋博物館を擁するモナコに通じる魚や貝のモチーフも見られる。足元は、モンテカルロ・バレエのダンサーが履くトーシューズから着想を得た黒いサテンのパンプスをはじめ、Tストラップサンダルなど。極薄のタイツを合わせるコーディネートは、ヴィルジニーがカロリーヌ公妃と初めてビーチで会った時の彼女の着こなしからヒントを得たという。
昼はテニスやビーチでのひとときを楽しみ、夜にはドレスアップしてディナーやカジノに繰り出す―――そんなモナコでの優雅できらびやかな時間が目に浮かぶコレクションで、ヴィルジニーは「シャネル」とモナコをつなぐ歴史に新たな1ページを刻んだ。
アフターパーティーはカールが過ごした別荘で
ショー当日の夜に開かれたディナーとアフターパーティーの会場は、前述の別荘ラ・ヴィジー。2階にある書斎やベッドルームは、このイベントのためにヴィルジニーとソフィア監修のもと、カールが撮影した過去のキャンペーンビジュアルで飾られた。その中には、実際にこの別荘で撮影されたリンダ・エヴァンジェリスタ(Linda Evangelista)やクリスティ・ターリントン(Christy Turlington)の1991年春夏の写真もあり、今でも色褪せぬ魅力を放つ。
そして郷土料理を交えたディナーの後には、テラスに設けられたステージに音楽プロデューサーでありギタリストのナイル・ロジャース(Nile Rodgers)が登場。シック(CHIC)の「おしゃれフリーク(Le Freak)」や「エブリバディ・ダンス(Everybody Dance)」からファレル・ウィリアムズ(Pharrell Williams)をフィーチャリングしたダフトパンク(Daft Punk)の「ゲット・ラッキー(Get Lucky)」まで、これまでに手がけてきた誰もが一度は聴いたことのあるような名曲でダンスフロアを大いに盛り上げた。
世界を巡るクルーズショーが本格再開
過去2年間、新型コロナウイルスの影響によりデジタルでクルーズ・コレクションを発表していたため、「シャネル」が有観客のクルーズショーを開くのは3年ぶり。このショーを皮切りに、本格的に世界を巡るクルーズ・コレクションのショーが再開する。
今後、5月12日には「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」がアメリカ・カリフォルニアで、16日には「グッチ(GUCCI)」がイタリア・プーリアで、22日には「バレンシアガ(BALENCIAGA)」がアメリカ・ニューヨークでショー開催を計画。6月には「ディオール(DIOR)」と「マックスマーラ(MAX MARA)」もそれぞれスペイン・セビリアとポルトガル・リスボンで2023年クルーズ・コレクションを披露する予定だ。独自のコレクション発表スケジュールに切り替えた「グッチ」と「バレンシアガ」は“クルーズ・コレクション”と題してはいないものの、クルーズシーズンに行われるショーのラインアップに加わることになる。