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ユニクロ×「マルニ」の仕掛け人、勝田執行役員に聞く ユニクロが考えるコラボの成否とは?

 ユニクロは5月20日、イタリアのファッションブランド「マルニ(MARNI)」とのコラボレーションコレクション「ユニクロ アンド マルニ(UNIQLO AND MARNI)」を発売する。過去1年だけを見ても、ユニクロはジル・サンダー(Jil Sander)氏との「+J」や「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」手掛ける黒河内真衣子など、国内外のさまざまなデザイナーとのコラボで話題を呼んでいるが、そうしたコラボプロジェクトを率いているのが、ユニクロのR&D統括責任者である勝田幸宏ファーストリテイリンググループ執行役員だ。勝田執行役員に、「マルニ」とのやり取りやコラボについての考え方を聞いた。

WWD:「マルニ」とのコラボプロジェクトは、いつからどのように始まったのか。

勝田幸宏ファーストリテイリンググループ執行役員ユニクロR&D統括責任者(以下、勝田):ちょうど1年前だ。2022年春夏商品について考える中で、その頃にはコロナによる自粛も終わり始めて、世の中に「解放されたい」というムードが広がるだろうと予想していた。そういった空気を洋服に置き換えると、鮮やかな色や柄のアイテムを元気よく着たいとみんな感じるようになるんじゃないかと考えた。社内で使っている22年春夏のキーワードの1つが“リバレーション(解放)”だが、解放をユニクロとしてどう表現するか。ユニクロの通常ラインでも色や柄の打ち出しは頑張って行っているが、それを盛り上げる22年春夏の大トリのようなプロジェクトがあるといいなと思った。それで「マルニ(MARNI)」が思い浮かんだ。「マルニ」は以前から注目していたブランドの1つ。フランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)がディレクターを務めるようになってから、若い人から大人の客まで、より幅広い層に受け入れられているという印象がある。

WWD:色柄を得意とするブランドとして、「マルニ」に注目したということか。

勝田:色や柄の表現はとても難しい。特に柄表現についてはその難しさを常々実感している。柄はアートそのもの。ユニクロ社内のグラフィックデザイナーももちろん日々努力しているが、柄というアートの領域に踏み込む以上は、そこに長けた、その領域で生きているブランドやデザイナーと組むべき。それで「マルニ」が真っ先に思い浮かんだし、「マルニ」以外にはアプローチしていない。実際に取り組んでみて、色柄の使い方は真似できないし、真似をしようとしても無理だなと改めて強く感じた。柄も配色のセンスも、見様見真似でできるようなものではない。今回のプリント柄は全て、コラボのために手描きで製作してもらった。ユニクロとして、これまでも柄の使用で他社と協業することはあったが、「マルニ」は柄や色という二次元だけでなく、シルエットやシェイプといった三次元にも定評があるブランド。シルエットやディテールを含め、洋服全体としての完成度をお互い突き詰めることができた点で、非常に意義がある。

WWD:「マルニ」からはどのような意見や要望があったか。

勝田:ユニクロは19年9月にミラノに出店しているが、フランチェスコや「マルニ」のメンバーと最初に顔を合わせた際に、「ミラノの店を見に行っているし、実際に買っているよ」と教えてくれた。ユニクロの商品や使用素材についても非常によく知っていて、「コラボをするならこの素材を使いたい」というものが彼らの中に最初から明確にあった。その1つがコートに使った“ブロックテック”素材だ。ブロックテックという名前までは知らなかったが、「あれを絶対に使いたい」という指名が入った。ブロックテックは3層構造で防風などの機能性を持たせた素材。「適度なハリやコシがあるので目指すシェイプを作り出せる点がいい」として、実用性とファッション性を兼ね備えた素材だと気に入ってくれた。ただ、欧州だとこの素材は年間を通して売れるが、日本の梅雨は蒸し暑いので、この時期は通常あまり使わない。「ブロックテックを使いたい」と言われて最初は困ったなと思ったが、今年は日本もまだまだ気温の低い日があるので、ちょうどよかった。これまでブロックテックのコートはいくつも作ってきたが、今回の商品はその中でも最高傑作だと僕は思っている。

 “感動ジャケット”や“感動パンツ”の素材にも興味を持ってくれた。感動シリーズはお客さまからの要望を受けて、ユニクロとして今年からウィメンズも作っている。ウィメンズの追い風となるように、ファーストリテイリンググループ内の「セオリー(THEORY)」とのコラボでも感動シリーズを企画して現在非常に好調だが、社内で作ると感動シリーズはどうしてもスリムなシルエットできれいめな印象になる。「マルニ」と組むことで、感動シリーズをベースにしながら、独特の「マルニ」らしいリラックスしたシルエットで作ることができた。今回のコラボでは、このように既存の素材を使うことで、価格も通常商品からそのままスライドできている。その点も、「試しに1着買ってちょっと挑戦してみる」ということにつながると思う。

単に実用的なものを作ればいいというわけでは決してない

WWD:ユニクロとしてはかなり大胆な柄表現を取り入れている。大胆さと、あらゆる人が着られるデザインとのバランスについては、どのように考えているのか。

勝田:確かに、ユニクロとしては初めてと言ってもいいくらい振り切った柄ではある。洋服は着やすいものを着回すという考え方もあるが、最初に話した解放というキーワードのように、今年の夏は少し大胆な色や柄を取り入れることで、これまでとはちょっと違う、新しい自分に出会うというエモーショナルな(感性的な)要素が、われわれのコンセプトである“LifeWear”の中にあってもいいんじゃないかと考えた。もちろん、全てが着られない服では困る。僕自身も全てをルック写真のスタイリング通りに着ることはできないが、ユニクロのベーシックな商品とこれらを組み合わせることで着こなすことができる。「マルニ」が好きな方はルックの通りに着こなすだろうが、一般のお客さまも、ユニクロの既存商品に今回のコラボ商品を1、2点取り入れることで、きっと新しい自分を発見できる。これまでとは違う自分に出会う楽しさは、洋服が持っている可能性や魅力の1つ。コラボ商品を1着買うことで、そうした楽しさにつながれば嬉しい。

WWD:ユニクロは非常に論理的に商品を作っている印象がある。エモーションの話がこんなに強く出てくることは正直意外だ。

勝田:実際のところ、論理とエモーションのバランスをどう取るかはとても難しいが、エモーションの要素はもちろんユニクロの中にある。服は結局のところ、値段やブランドよりもその人が毎日着たくなるか、実際着るかに尽きると思う。1000円のユニクロのTシャツでも、ラグジュアリーブランドの20万円のシャツでも、着なければいいか悪いか、便利かそうではないか、心地いいかどうかは分からない。20万円で買ってタンスにしまい込んでいたら、本質的にその服はよいものだったと言えるだろうか。1000円のTシャツでも、毎日それを着て生活の中に溶け込んでいれば、その人のパートオブボディー、つまり自分の服になる。それは、その人にとって実用的でありエモーショナルでもある服だったということ。エモーションの取り入れ方は永遠の課題であり、これが完成形だというものもない。ユニクロとして、ワクワクするようなエモーションを抜きにして単に実用的なものを作ればいいとは決して思っていないし、常にそうしているつもりだ。どう受け取るかはお客さまに委ねている。LifeWearが目指すのはアート&サイエンス。感性や美というエモーションと、論理性のバランスがLifeWearの真髄なのかなと思う。こういう議論は社内でもよくしている。

WWD:近年は「+J」や「マメ クロゴウチ」「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」など、コラボが続いている。コロナ禍以降、特に22年8月期は売り上げの進捗も厳しいが、意図的にコラボを増やしているのか。

勝田:たまたま去年はコラボが多かっただけで、戦略的に増やしたわけではない。よく聞かれることだが、毎シーズン、コラボをいくつやるといった取り決めは全くない。信じられないかもしれないが、コラボは意外と無計画なものだ。僕としては無理をしてコラボをすることはない。毎年3件コラボをするなどと決めると、自分に嘘をつくことになるからブレてくる。(今シーズンはコラボはないのかと)期待はされるが、ない時はない。われわれの考え方に賛同してくれる理想のデザイナーがいる時はするし、いない時はしない。コラボは社内のシーズンディレクションやコンセプトありき。社内のディレクションの延長上に、その分野でずっとやってきている、世界ナンバーワンのデザイナーやブランドがないかを考える。それで、一緒に取り組めばきっとすばらしい商品ができると思ったらオファーをする。

コラボはストーリーがあってこそ

WWD:今はどんなブランドもコラボをするのが当たり前になっている。

勝田:だからこそ、それらと同じだとは思われたくない。われわれは(社内ディレクションの延長上でデザイナーにオファーをするというように)少なくとも自分たちにストーリーがあってコラボをしている。有名なデザイナーだから、売れているブランドだからと何でもかんでもコラボをするわけではない。ユニクロとして外部デザイナーとのコラボを始めたのは15〜16年前だが、当時からその考えは変わっていない。コラボの目的は、自分たちの商品をレベルアップすることであって、集客のためのマーケティングではない。もちろん、コラボをすることで売り上げにつながったり、お客さまへ新しい商品提案になったりはするが、われわれ自身がプロジェクトを通して成長していくことがコラボの本質だ。

WWD:ユニクロにとって、コラボの成否を判断する基準や、コラボによって得られるものは何か。

勝田:自画自賛ではないが、売り上げとして目もあてられないというようなコラボはこれまでなかった。過去のどのコラボも、それぞれのデザイナーの服作りへのアプローチとして非常に学びがあった。ユニクロの服はベーシック、シンプルといった言葉で片付けられがちだが、そんなに簡単なものではない。デザインはとても奥が深くて、シンプルでベーシックっぽいもので品質もよければそれがいいというわけではない。白いTシャツなら何でもベーシックなのではなく、やはりそこに革新的なディテール、デザイン、素材など、何かしら進化があり続けないと、作っている僕たちもお客さまもつまらない。コラボを通して、外部デザイナーの追求の姿勢に触れる度に、改めてデザインの奥深さや難しさを感じるし、それが僕たちのモチベーションにもなる。会社の成長のために日々勉強しないといけないという面ももちろんあるが、モノ作りに携わる人間として、そのように突き詰めていく領域が無限にあることは楽しくもある。ユニクロはお客さまの声や要望も日々収集し、それを商品作りに反映しているが、いただいた声の通りに作るのであれば、われわれでなくてもできる。声を聞いた上で、それを2倍、3倍にしてプロダクトとしてお返しするのがデザインの力。ユニクロが企業・ブランドとしてグローバルでもっと差別化していくためには、デザイン力がさらに重要になる。

WWD:「マルニ」コラボは継続の予定はあるのか。フルラインアップ展開店舗は国内で123店と、他のコラボと比べても多い。

勝田:春夏シーズンに関してはお互いに(アイデアややるべきことを)出し尽くした感覚はある。今回のコラボは、特別にファッションを知っていたり、好きだったりする方だけでなく、世界中のどこの人でも、どんな方にも、試しに1枚買ってみることで、日常の中でアートを楽しむように既存のワードローブに華を添えていただきたいという意図がある。それで、今回はチャレンジとして小規模な店にもサイズを絞って全型投入するようにしている。在庫量には細心の注意を払っている。「+J」の復活後最初のシーズン(20年秋冬)のように、買いたくても買えないというお客さまが出てしまってもダメだし、在庫を積みすぎて余らせてしまって、せっかく買った商品がもう値引きされているというのでもいけない。これについても永遠の課題だ。

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