REPORT
繊細なテクスチャーでなぞるブランドのヘリテージ
コレクション作りにおいて、旅で触れたカルチャーが重要なカギになるキム・ジョーンズが今季、インスピレーションを得た地は東京だ。現代美術家の大巻伸嗣の作品に感銘を受け「一目見てすぐに恋に落ちた」と語っている。彼の作品のようにあいまいでセンシティブなテクスチャーを多用しながら、強さと繊細さを持ち合わせるミリタリースタイルに落とし込んだ。
シトロエン公園内にあるいつもの会場には、天井を大巻伸嗣のアート「Liminal Air Space-Time」の布が覆った。オーガンジーのような大きな細長い布が、下から吹き出る空気によって風をはらみ、上下にふわふわと漂う代表的なインスタレーションの一つだ。風で揺れる様子は独特のアブストラクトな視覚効果をもたらす。そんな作品と呼応するように、極薄のシルクで仕立てたウエアが歩くたびに風をはらみ、シルエットをあいまいにする繊細なドレープを描いた。カラーパレットはダスティーなグレー。ミリタリーコートは体をふんわり包む肉厚のファーを贅沢に使い、Gジャンタイプのコンパクトアウターにはぎりぎりまで薄さとハリを追求したカシミヤやハラコ素材を採用。大きなユーティリティーポケットがアクセントのタイトパンツは、センタープリーツ入りのドレス仕立てだ。ユニフォームに準じた男性ならではの洋服を、ソフトで繊細な素材で仕立てウエアラブルにまとめている。バッグは、体の前に掛けたコンパクトなモノグラムのショルダーバッグが目を引いた。
グラン・パレで現在開催中の大型回顧展「空へ、海へ、彼方へ - 旅するルイ・ヴィトン展」へのオマージュも見られた。同展で展示されている豊富なアーカイブの中からキムが選んだのは、ロゴが目を引くアイコニックな丸いトランクスタンプ。カシミヤトップスやムートンベストなどに大胆にのせた。展覧会のタイトルになっている「Volez, Voguez, Voyagez(空へ、海へ、彼方へ)」の言葉を一面に配したシルキーなパジャマセットアップもキャッチー。後半は、建築的なグラフィックをのせたシャーリングコートに身を包んだ、ラグジュアリーで力強いミリタリーに移行した。