「エルメス(HERMES)」は、イベント「エルメスシアター『LA FABRIQUE DE LA LEGERETE―軽やかさの工房』」を東京・六本木の東京ミッドタウン・ホールで開催する。会期は、6月12〜21日(14日は休み)。入場無料だが完全予約の1日4回入れ替え制で、5月27日11時から「エルメス」公式サイトで予約を受け付ける。同イベントは、3月末にパリでメディア関係者向けに開かれた2022年のテーマ発表会を再現したもの。「もっと軽やかに」という年間テーマを、6つのシーンを通して描く。ここでは、開幕に先駆けて、パリでのイベントの模様を紹介する。
撮影現場を見学するような演出
発表会の会場は、パリの北側に位置するオーベルヴィリエにある倉庫のような巨大な建物。中には趣向の異なるミニチュアのセットが組まれ、さながら映画スタジオだ。そこで「ペガサスと六つの軽やかさを探す旅」と題した空想の物語の撮影風景を、カメラ越しの映像と共に生で見せるというユニークなプログラムを用意した。監督を務めたのは、ベルギー人映画監督・演出家のジャコ・ヴァン・ドルマル(Jaco Van Dormael)と、振付師のミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ(Michele Anne De Mey)のデュオ。セットデザイナーのシルヴィー・オリヴェ(Sylvie Olive)、作家のトーマス・グンズィグ(Thomas Gunzig)と組み、温かみのあるファンタジーの世界を作り上げた。
ストーリーのベースとなるのは、ペガサスに6頭の子馬がいたという伝説。広い平原を走り、高い山に登り、荒れた海を泳ぐ術を教えた父ペガサスは、彼らに空を飛ぶための翼を手に入れるには自分だけの“軽やかさ”を見つけなければならないと説いたという。会場では、そんな軽やかさを探求する旅が、詩的なパフォーマンスによって表現された。例えば、シーン2の「渡り手袋の飛翔」ではカラフルな手袋が渡り鳥のように砂漠や森を飛び越えていく姿を描き、シーン3の「サーカス」では指で表現した馬や人が綱渡りを披露。シーン5の「四つの鞄のオペラ」では、色や大きさの異なる“ケリー”が舞台に登場し、美しいハーモニーを奏でる。
観客自らが次々にセットを進みながら楽しむ演出は、テーマパークのアトラクションのよう。人の手とアナログな仕掛けを駆使して生み出されるそれぞれの映像は、「エルメス」らしい遊び心にあふれている。その“表”と“裏”が一気に見られるというのは興味深く、驚きも満載。ぜひ実際に体験してほしいイベントだ。
「エルメス」の年間テーマとは?
そもそも年間テーマを設けるというアイデアが誕生したのは、エルメスが創業150周年を迎えた1987年のこと。当時のジャン=ルイ・デュマ(Jean-Louis Dumas)社長が発案したもので、「いろいろなものを削ぎ落した結果、残るのがテーマ」だと語っている。テーマは、87年の「花火」に始まり、「フランス」(89年)、「太陽」(94年)、「アフリカ」(97年)、「手」(2002年)、「スポーツは素敵!」(13年)、 「自然-軽やかなギャロップ」(16年)、「夢を追いかけて」(19年)、「エルメスのオデッセイ」(21年)など多彩。それは、メゾンの在り方を新しい視点で見つめるように誘うプリズムのようなもので、デザイナーや職人にとって新たな創造の領域を開拓する上での羅針盤になっているという。そして、製品に加え、ウインドーディスプレーや展覧会などを通して世界に発信されるほか、年2回発行されている冊子「エルメスの世界」でも表現されている。
22年のテーマである「もっと軽やかに」について、ピエール=アレクシィ・デュマ(Pierre-Alexis Dumas)=エルメス アーティスティック・ディレクターは「軽やかであることはメゾンに与えられた使命のようなもの。私たちは『エルメス』を訪れてくださるお客さまの毎日がよりいっそう軽やかになることを願い、志としてきた」とコメント。その姿勢は、創業者のティエリ・エルメス(Thierry Hermes)が1837年に馬具工房を立ち上げ、馬が自由に走り回る際に動きの妨げとなる装飾を省いた新たな馬具を考案したメゾンの起源に遡るという。