REPORT
ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)から届いたインビテーションには、彼が指揮を執る舞台のチケットが一枚。会場はパリの中心地、オペラ座ガルニエ宮だ。裏口から案内されると、ステージにランウエイが用意されていた。シートは正面の観客席ではなく、壇上の両端。華やかなステージをあえて別アングルから捉え、舞台袖を背景にコレクションを観る構成になっている。彼が普段から好む、高天井でインダストリアルなムードをたたえるロケーションだ。
コレクションは今季も、さまざまなキーワードを内包する折衷主義で溢れている。舞台の監督でもあり指揮者でもあるドリスは、テーラードやユニフォーム、サイケ、ストリートといった異なる演者の魅力を最大限に引き出しながら、高貴で美しいエンターテインメントにまとめ上げてゆく。特にミリタリーの色を強めた今季のイメージは「プラダ(PRADA)」とも共通する、戦闘から帰ってきた兵士たち。彼らのアウターの裾は切りっぱなしで、長く着込んだせいかくたびれたニュアンスだ。一方で、“役目を終えた地位や階級を誇示する”章飾がたっぷりついたオフィサーコートや、ファー襟とベルトをドッキングさせたハーネスなどは、厳格な雰囲気を漂わせる。モッズコートにはアーティストのウェス・ウィルソン(Wes Wilson)によるサイケなグラフィックが踊り、ドレープを利かせたワイド幅のセットアップにはピーコック(クジャク)が自由に羽ばたいた。後半は、戦いが終わって訪れた平和な世界。フォーマルの装いを強め、ベルベット素材に美しいエンブロイダリーをたっぷりのせている。
ミラノでも浮上した、着方を自在にアレンジできる“スポンテニアス”のアイデアも満載だ。トレンチコートのウエスト部分を半分に切ったようなデザインの洋服は、それぞれ別にジャケットとラップスカートとして、もしくは上下一緒に合わせてコートとして着用できる。バリエーションが充実したファー襟付きハーネスは、ベルトを操ればスタイルが自在に変化しそうだ。
フィナーレは、モデル全員がステージに並んでお辞儀をするパフォーマンス。次いで一礼したドリスが舞台袖に去るまで、鳴りやまない拍手喝さいが会場を包んだ。