資生堂は、国内の新たな製造拠点となる福岡久留米工場を6月に稼働する。化粧品の製造・梱包などあらゆるプロセスに最先端のIoT(モノのインターネット)を取り入れ、高効率・高品質な生産体制を実現した。国内および中国を中心としたアジア市場向けに「エリクシール(ELIXIR)」「アクアレーベル(AQUA LEBEL)」をはじめとした中価格帯スキンケア製品の生産を担う。敷地面積は約9万7000平方メートル、総事業費は450億円。
今後の本格稼働により、特に化粧品の充填〜梱包の生産性は「(従来工場との比較で)3倍程度まで向上する」と同社。2026年以降をめどに、年間で最大約1億4000万個の化粧品生産が可能になる見込みだ。化粧品の容器充填や箱詰め作業などは従来は人の手を介する必要があったが、ロボットに置き換えることが可能になった。そこにはセンシング技術(特殊なセンターを通じて動作・感覚を情報として処理し蓄積・応用すること)やリニアモーター装置といった最新設備が役立っている。品質管理や進捗確認の自動化もIoT化のメリット。例えば「製造釜の中にある化粧品、乳液などは均一な品質か」「材料などの不足や機械の故障はないか」といったあらゆる工程をリアルタイムで監視し、トラブルを事前に防ぐ。
同社は23年12月期までの中期戦略において、日本製の高品質な製品を武器としたグローバル戦略を進める。そのため、製造コスト削減などを主眼に一旦は3拠点まで集約した国内製造拠点を、再び増強している。先行して2019年に栃木・那須、2020年に大阪・茨木に工場を設けた。
魚谷雅彦・資生堂社長CEOは「メイドインジャパンは単に日本で作るということではない。資生堂の強みである『研究』と、それを形にする『製造』の両輪によって実現する」と話す。久留米工場ではIoT化により、約250人の従業員(5月26日現在)は単調で反復的な工場労働から解放され、より主体的・自律的な業務に専念できるようになる。具体的にはロボットの制御・監督や、弾き出されたデータを元にした柔軟な状況判断、機械では判別できない微妙な色彩やテクスチャーを見極める検品作業などだ。「これまでの工場員の仕事はルーティンワークが7割、創造的な仕事が3割だった。だが久留米工場ではこの割合が逆転するだろう」とアントニオ・スピリオポトロス(Antonios Spiliotopoulos)資生堂エグゼクティブオフィサー チーフサプライネットワークオフィサー。
また、従業員の6割を占める女性が働きやすい環境をつくるため、製造区域内はピンクを基調としたクリーンな内装を施し、女性用トイレの数も従来より増やした。またサステナビリティにも配慮しており、施設内は全館LED照明で、使用する電力は100%再生可能エネルギー。従業員用の駐車場敷地には太陽光パネルも導入している。