「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」2022-23年秋冬コレクションの展示会に行ってきました。このコレクションはブランド設立30周年のアニバーサリーを祝して、4月に東京・代々木第二体育館で、ショー形式で披露したもの。繊細な刺しゅうやビジュー、オパール加工など、同ブランドらしいクチュール技術を生かしたウエアはもちろん、ロゴを使ったカジュアルアイテムなど若年層を意識したピースもそろえ、ブランドのこれまでとこれからを表現しています。
ウィメンズのイメージが強い同ブランドですが、実は3年前からメンズも手掛けており、これが面白いんです。芦田多恵デザイナーいわく「女性は“かわいい”と思ったら斬新なアイテムも手に取ってくれる。一方で男性は、目新しいものでもすぐには手に取らない。だから、なじみのアイテムに、少しだけエッセンスを加えるくらいがいい」とのこと。なるほど、なんだか分かるような、分からないような。そう思っていると、「実際に着てみてください」と試着タイムがスタート。袖を通すと、なるほど!と膝を打つアイテムばかりでした。
例えば、硬さのあるヘリンボーンウールでクラシカルな印象を受けるコートは、実は超ソフトなジャージー素材。手に取った瞬間、その柔らかさと軽さに驚きます。「男性はスーツスタイルをはじめ、制服としての機能を優先しがち。少しでもリラックスしたウエアを提案したくて、シャープな見た目のまま素材や設計を見直した」と説明します。ポリなどでストレッチ性をもたせたビジネスウエアはありますが、上質素材で着心地を高めるのは同ブランドならでは。ほかにも、重厚なミリタリーコートをウールナイロンのダブルフェイス素材で作ったり、簡単にレイヤードスタイルを楽しめるようジャケットの袖口にニットを忍ばせたりと、アレンジします。
既存のアイテムに新しいエッセンスを加えるメンズの手法は、1年ほど前に見出したそう。「それまで手探りだったけど、ようやくメンズとの向き合い方が分かった」。顧客にも徐々に浸透し、「これまで奥さまと娘さまで楽しむ方が多かったところ、最近はご主人や息子さまも加えて、ファミリー全員でブランドを楽しんでもらうことも増えた」といいます。
父・芦田淳から受け継いだ「ジュン アシダ(JUN ASHIDA)」では、無数のカメラでモデルを撮影し、CGに落としこんだコレクションムービーを継続的に発表するなど、デジタル表現にも積極的な芦田デザイナー。先日は、アメリカで行われた“メタバース”がテーマのシンポジウムにパネラーとして招待されたのだとか。クリエイションとその表現において、常に前のめりな姿勢こそ、芦田デザイナー一番の魅力かもしれません。