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VRクリエイター・せきぐちあいみが語るバーチャル × ファッションの可能性 AR、NFTなどもわかりやすく解説

 昨年フェイスブック(Facebook)が仮想空間の開発を強化するため社名をメタ(Meta)に変更したことを皮切りに、世界中でVRコンテンツの普及が加速している。ファッション業界でも今年「メタバース・ファッションウィーク(MVFW)」が開催されたり、東京ガールズコレクション公式のメタバース「バーチャルTGC」が生まれたりなど、今後さらにメタバース市場に注目が集まりそうだ。今回はVRクリエイターとして活躍するせきぐちあいみが、メタバースやVRとファッション業界のつながりを紐解く。

WWDJAPAN(以下、WWD):VRアーティストに関心を持ったきっかけとは?

せきぐちあいみ(以下、せきぐち):もともとはクリーク&リバー社(CREEK&RIVER)所属のユーチューブクリエイターとして活動していました。その時はVRやARとは関係なくライフスタイルやバラエティ系の発信をしていたのですが、たまたま3Dペンに興味を持ち、その様子を発信するように。3Dペンは、熱でプラスチックが溶けたもので描くと、描いた瞬間から冷えて固まるもので立体が描けるのが面白い。作品を作り続けていくうちにデジタル上での3Dアートにも興味が湧き、2016年から公式でVRアーティストと名乗るようになりました。当時はまだVRアーティストという職業もなかったような時期です。

 ちなみに最近は、脳波を使って絵を描く実験もしています。頭蓋骨や頭皮を通して受け取ることができる脳波はかなり微弱なので、まだコントロールするまでに修行が必要です。でも脳波で何かをするというのはたくさんの可能性があると思い挑戦しています。

WWD:VRとARの違いとは?

せきぐち:VRとはバーチャルリアリティー(仮想現実)のことで機器の中に別の世界が広がっているという面白さや魅力があります。この別世界の空間に3Dの絵を描くのが私が、行なっているVRアートです。360度広がるキャンバスの中に、自分だけのワンルームから壮大なテーマパークまでの世界が作れるのも魅力です。

 VRはバーチャル空間に世界を作っていくものですが、ARはオーグメンテッドリアリティ(拡張現実)のことで、現実の世界に重ねてバーチャルを作っていくもの。パンデミックの影響で現実世界の行き来が難しくなったので、ARのトレンドは少し後回しになってしまいましたが、もしコロナがなかったらVRよりARの方が流行っていたのでは、と思います。ARの技術を使えば、何もないところに新たな観光名所を作ったり、観光地や遺産などを工事することなく新たな魅力を加えたりできます。ちょうど今、歴史ある神社とコラボレーションして、NFTアートの作品を作っているので、ぜひ見ていただけると嬉しいです。

 とはいえ、VRやARの面白さは世間的に皆さんが使っているパソコンやスマートフォン、テレビなどでは伝えにくい。まずは実際にデバイスを使って感動体験をしないと、初めての人にとっては少し遠い存在のように感じてしまうと思います。コロナ禍で直接人と会う機会がなくなったのでオンライン上のテクノロジーが注目された一方、リアルでデバイスを体験してもらう機会がなくなり、VRの体験施設もかなり減ってしまいました。

WWD:ファッション業界におけるメタバースにはどんな可能性がある?

せきぐち:ファッション業界における廃棄の問題は、事前にVRでシミュレーションができるのがメリットだと思います。最近は素材感の再現度も非常に高いため、材料を無駄にせず仕上がりをテストできると思います。実際に建築業界ではすでにこのシミュレーション技術が役立っていて、建物が建つことを想定した人の動きなどを事前に確認し、安全性と効率性を確かめているのです。

 また、消費者にとってメタバース空間が身近になり、仮想空間の中にもう1人の自分を持つようになったら、第二の自分の容姿もこだわりたくなる人もでてくると思います。デジタルファッションだと現実の制約から開放されるので、現実とはまた違ったクリエイティブが楽しめ、リアルだとできない素材や形状など、新たなファッションが登場します。現実の洋服とアバター用の洋服がセット販売も増え、新たな市場が広がると思います。

 メタバース上での雇用についても、今後は注目が集まりそうです。メタバースのプラットフォームの一つである「VRチャット(VRChat)」内では、「バーチャルマーケット」という即売会イベントが開催されていて、バーチャルファッションやアバターなど、VR内で使えるものがたくさん売られ、百貨店やコンビニエンスストアチェーンなども出店しています。

 そういった仮想空間でのショップ運営の中で、メタバース上のカリスマ店員なども生まれてくると思います。すでにメタバース上にアルバイト求人を出しているショップもありますし、実際に収益を得ている人もいますよ。地方の人がメタバース上でなら都会でお仕事できたり、さまざまな事情で自宅から出られない人もメタバース内で働いて実際に収入が得られたりするのは嬉しいですよね。「バーチャルの中ならショップスタッフもAIでいいじゃん」と思う方もいるでしょうが、VR内とはいえ実際に人間が販売と売上は全く異なります。「この店員さんから服を買いたい!」というファンが生まれることもあるし、1人でAIと話しながら買い物するよりは画面の向こうに誰かがいて、お買い物をサポートしてもらう方が楽しんでしょうね。現実とVR内では商品のおすすめの仕方が変わってくるので、現実は売れっ子店員さんでも、VR内ではなかなかうまくいかない、なんてことも起きてくるかもしれません。

WWD:メタバース上で購入した商品は、どのように価値が保証される?

せきぐち:メタバース上では、NFT(非代替性トークン)であることが本物の価値を担保します。NFTはブロックチェーンで管理されている、誰にも改竄(かいざん)することのできないデータ。そのためコピーされることも変更されることもなく、きちんと本物であることが証明されるのです。

 現実で物を買う時、「コピー品でもいいや」という人には「人に偽物だとバレなければいいや」という感覚の人が多いと思うのですが、メタバース上では人の持っているもののリストを可視化できる“ウォレット”という機能があり、NFTに紐付けることで本物かどうかが他人にもわかります。そのため、メタバース上で本物のレアアイテムを持っていれば、世界中から注目されることもあります。実際にNFTのレアスニーカーはすでにかなり高額で販売されています。

 変更されることがないのがNFTですが、洋服自体が経年劣化したり、逆に育ったりするプログラムは可能です。経年劣化した服のみを扱う古着屋さんのようなショップも今後メタバース上で生まれるかもしれません。

 また、NFTのデータは過去に持っていた人も可視化することができます。だからセレブリティが昔着用していた服などは付加価値がついたりするのです。セレブが買っているから私も買おう、という売れ方も実際に多いです。パリス・ヒルトン(Paris Hilton)やジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)など、多くの海外セレブもNFTアートに進出しています。日本でもこれらの動きは今後活発化してくると思います。

 ただ、現状NFTと連携しているメタバースの有名なプラットフォームは「メタバースファッション・ウィーク」を行なっていた「ディセントラランド(DECENTRALAND)」くらいです。現実のイベントと連携しているので、ファッションビジネスに向いているのかもしれませんね。

WWD:ファッション業界に置いて注目したいプラットフォームは?

せきぐち:初心者でも楽しみやすいのは「クラスター(cluster)」だと思います。アバターやファッションもいろいろなものが選べるし、スマホやパソコンでも楽しめるのでおすすめです。ちょうど話題になっていた“バーチャル渋谷”をやっていたのも「クラスター」です。

 ファッションビジネスとして注目したいのは「バーチャルコレクション(Virtual Collection)」。クリエイターたちが自主的に集まり、アバターのファッションショーを定期的に行なっている団体です。これまでに何度も開催しているので、大企業よりノウハウがあり、クオリティがどんどん上がってきているので今後の参考になりそうです。例えば「メタバース・ファッションウィーク」ではお客さん一人ひとりの洋服のデータを読み込むため、膨大なデータ量が発生して会場のコントロールができなくなるなど、多くのトラブルが発生しました。一方「バーチャルコレクション」では、ランウエイ会場に入った途端にお客さんは皆、シンプルな服装に強制的に変更される仕様にしました。会場のデータ量を軽減でき、その分ランウエイを歩くモデルたちの衣装をより細かく作り込むことができるのです。また、デジタルファッションはリアルな服とはまた見せ方が少し変わってくるので、ランウエイ上での動きにも工夫が必要です。「バーチャルコレクション」では、そういったメタバース上のファッションショーに適したモーションを得意とするモデルも生まれてきています。

WWD:メタバースが抱える課題とは?

せきぐち:一つ目はVRデバイスの問題だと思います。先述した通り実際に体験できる場所が少ないことのほか、デバイスそのもののをまだ進化させる必要があります。もっと手軽に、スタイリッシュに、サングラスのような感覚で着用できるようになった時に、VRやARの技術、そしてメタバースも爆発的に広まっていくのではないでしょうか。ちょうど昨年「レイバン(RAY-BAN)」とフェイスブックがコラボしたスマートアイウエアが発売されていましたが、スタイリッシュにするため機能をかなり削ぎ落としていました。今後見た目も機能もアップデートされ、皆さんが「これならアリかも!」と思えるものがきっと生まれるでしょう。また、仕事や友達とコミュニケーションができるなど、日常生活で活かしやすいVRデバイス向けアプリケーションが増えていくことも、世間に浸透するために必要な要素です。

 二つ目の課題は、プラットフォームの統一。現状違うプラットフォーム同士を行き来することはできません。アバターの形式もそれぞれ違うことから、プラットフォームを移動すると全く違う人になってしまうのです。この課題についてはメタバース業界だけではなく、国を挙げて検討している段階なので、今後何らかの取り組みが行われるはずです。個人的には、日本だけではなく世界共通の規制やルールができると良いと思うのですが、著作権の問題などまだまだたくさんの壁があります。今後絶対的に支持されるような今後プラットフォームができたら、自然と周囲もその形式に合わせることになると思うので、時間が問題を解決していくことでしょう。


 6月6日発行の「WWDJAPAN」(ウィークリー版)では、「メタバース特集」と題し業界の先駆者たちにフォーカスしていく。

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