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ビューティ企業は競合との“共創”がカギ サステナブル投資研究の第一人者に聞く

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 SDGs(持続可能な開発目標)と併せて、国内外の金融市場で広まっているESG投資。ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の頭文字を組み合わせた言葉で、企業が持続的な成長を目指すためにはこれら3つの観点が重要であるという考え方だ。長年にわたり、環境金融の分野で政府、機関投資家や企業などに向けてアドバイスする、サステナブル投資研究の第一人者でもある三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まりプリンシパル・サステナビリティ・ストラテジストは、「同業者が手を組み、スピーディーに解決しなくてはならない段階にきている」と警鐘を鳴らす。そこで今、ESG投資の観点からビューティ企業が取るべき方策を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2022年5月30日号からの抜粋です)

WWDJAPAN(以下、WWD):ビューティ業界では競合企業同士がサステナブル領域においてタッグを組む動きが広がっている。ESG投資の観点からこのような動きはどう見えているか。

吉高まり三菱UFJリサーチ&コンサルティング プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト(以下、吉高):これまで投資家は、企業の価値を短期の収益など財務情報を重視し評価してきたが、2006年に国連が提唱した「国連責任投資原則(以下、PRI)」により、ESG投資が拡大した。PRIは投資家に向けた、ESGの課題を投資の意思決定プロセスに組み込む国際ガイドラインであり、投資家にとっては以前のように単なるもうけだけで投資をするという世界ではなくなっている。企業側も今までは投資家へアピールするために同業他社よりどう抜き出るかという競争をしていたが、その前提として社会課題も含めて投資家が評価するようになれば、まずは業界の課題を解決した後に競争しないと共倒れになってしまう。例えば、リサイクルシステムに関しても、1社だけが頑張ったとしても他社が取り入れない限り、競争する土台にもならない。そういった社会や環境課題を連携して解決することが重要になってくる。Bコープビューティ連合のように、企業同士が共に社会や環境問題の解決に向けて取り組んでいるのは、欧米ではESG投資対象としてベースラインになっているからだ。

WWD:まずは業界で標準を作ることが課題解決への近道となる。

吉高:ESGをリードする欧州では、気候変動対策の一つとして「欧州グリーンディール」を推進している。具体策として、「サーキュラーエコノミー行動計画」を掲げているが、その推進にパイロットフェーズを終えた「環境フットプリント」という指標がある。製品の環境負荷に対しての“見える化”を各業界に推奨しており、大量廃棄問題が深刻な衣料品、包装や農産物などでも環境プリントが活用される。やや課題が異なるビューティ業界では、まずはパーパスを持ち、マテリアリティ(重要課題)を特定することが大切だ。そのレンズを通して同じ考えの人が一緒になり、スピード感をもって環境課題を解決することが求められている。

WWD:ESGをリードする欧州に比べ、日本は後れを取っているように感じる。

吉高:例えば今、東京証券取引所に約3800以上の企業が上場しているが、ESGに熱心に取り組んでいるのは、グローバルでも活躍し欧州の動きにも敏感な数百社程度。日本企業の99%を占める中堅、中小企業はESGに対する意識がまだ低い。ただ最近では、海外と取り引きをする中小企業が、海外の上場ベンダーからESGへの取り組みについて聞かれることが多いという。投資家からのプレッシャーだけでなく、リスクを下げビジネス機会を失わないよう、企業の持続的な成長には欠かせない要素でもあるため、自社で取り組むべき問題について考えることが必須だ。

WWD:ESG投資に関してビューティ業界はどこに比重を置くべきか。

吉高:一番はやはりプラスチックごみ問題だ。ここ最近、企業がどのようにプラスチック関連の問題に取り組んでいるかを評価する投資家の指標ができ始めており、世界で法令整備の動きが加速している。また、金融機関や企業の気候変動に対する情報開示を促す「気候関連財務情報開示タスクフォース」とともに、国連開発計画や世界自然保護基金などにより設立された「自然関連財務情報開示タスクフォース(以下、TNFD)」にも投資家の注目が集まっている。TNFDは、民間企業や金融機関が生物多様性や自然資本に関するリスクや機会を適切に評価し、情報開示をするためのフレームワークだ。

WWD:日本はとにかく安全・安心が強みだ。

吉高:世界的に見てもそれはブランドとなっている。しかし日本はどんどん人口が減少し、現状再生可能エネルギーのコストも高く化石燃料依存から抜けられないため、エネルギー価格も高騰からの出口が見通せない状況が続いている。同業他社が知見を共有し、業界全体でサステナブルを実現し、その上で切磋琢磨し成長につなげる。すなわち競合でなく、共創がスタンダードになることを期待したい。


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