自分はサウナーではなくオンセナーなので「“整う”とは何ぞや?」と違和感がずっとあった。“サ道”と呼ばれる、ストイックで修行、いや苦行のような、ちょっと意識が高い人たちがハマっている感じもなんだか敷居が高く、じっとしているのも苦手……。お作法を知らないので、“サ道家”にこっぴどく叱られそうというイメージもあり、昨今のサウナブームの波に乗りきれなかった。しかし、そんな私でもスタイリッシュで趣向を凝らしたサウナ施設を取材、体験するうちに、だんだんと“サ熱”に目覚めてきたのである!
自分のペースで整う、完全個室ソロサウナ
そのきっかけとなったのが、恵比寿にオープンした「ひとりサウナプラス」。こちらはサウナ、そのあとの外気浴的な休憩所や着替えなど全てがプライベート空間で、自分のペースでゆったり過ごせる完全個室サウナ。もちろんサウナストーンにアロマ水をかけて蒸気を出すロウリュもし放題。ただし、浴槽はなくシャワーのみ。
まず温泉好きにとっては、汗を流した後、湯船に入らずシャワーだけなんてありえない。サウナが、というよりもきりっと身がしまる水風呂の爽快感を求めて、熱い中、我慢して座っているのに!と思っていたが、天井から滝のように注ぐマイナスイオンをまとったシャワーは期待以上に心地よく、気持ちもクールダウンしてきて……。「ん?整うってそういうこと?」と、なんとなくつかめた気に。くるくるとフル回転しているココロやアタマがすっとトーンダウンする感じ。“整う”とは瞑想やマインドフルネスなどにも近いのだと実感。
「ひとりサウナプラス」では、全部屋1名での利用のみ。60分税込3800円、90分税込4800円で、フィンランド式サウナやシャワー、パウダールーム、横に寝転ぶこともできるサウナベンチのある完全個室を使用できる。どう過ごそうが自由、という自分次第なのがまたうれしい。
インテリア取材で豪邸を訪れる機会が多く、コロナ禍以降では富裕層こそ個の時間を過ごす空間を重視し、プライベートな設備を求めていることを目の当たりにした。本格的なマシンをそろえたパーソナルジムやプライベートバー、ゴルフ練習場、そして露天風呂やサウナを自宅内に作る例も。外気浴ができるようなルーフバルコニーやサンルームも設けるなど、なんともぜいたくな環境も見た。豪邸には暮らせない自分にとっては、そんな豊かなときを時間貸しできる施設はありがたい。しかもスタイリッシュで、さまざまなニーズに応えたプライベート感覚のサウナが続々開業しているのだから驚く。
個性的なパーソナルサウナも続々登場
それぞれの趣向にあわせた個性的なプライベートサウナも増えている。例えば、表参道の「サウナテラピー(SAUNA THERAPY)」は、女性専用の完全個室サウナ。その日の体調や気分にあった香りのオイルを選び、アロマ天然水をセルフロウリュ。女性専用ならではのスタイリッシュな内容で、神宮前の天然水をくみ上げた水風呂、ヴィーガンソープやオーガニックコットンタオルを使用するなど、優雅に“整う”ことができる施設。会員制で、サブスク会員は月4回コースのライト会員が月額税込3万3000円、月8回コースのスタンダード会員が月額税込5万5000円で、都度払いのスポット会員は1回8800円(初回は5500円)だ。会員がいれば4人までの女子会利用もかなうという。洗練されたセルフエステのような空間で、“サウナはマッチョな男の世界”という今までのイメージが吹き飛ぶ。
また、上野には科学に基づいたユニークなサウナ「レッド イーサウナ ウエノ(RED゜E-SAUNA UENO)」が4月に開業。最先端のテクノロジーを駆使して、“整う”を可視化したプライベートサウナで、eスポーツ推進企業による事業だという。心拍数などを測るサウナ用ブレスレット“トトノウバンド(TOTONOU BAND)”が貸し出され、独自のアルゴリズムで整う状態を1〜100点で数値化。サウナの個室内にはスマートテレビが設置され、好きな映像や音楽を楽しみながら過ごせる。サウナから水風呂までの距離はわずか一歩。超単焦点プロジェクターの継ぎ目のない映像により、森の中で外気浴しているような仮想空間のラウンジもあり、最新技術で“整う”体験ができる。80分税込5800円、120分税込7800円で、2名利用の場合は80分税込8400円、120分税込1万1000円だ(※ボードゲームは別料金)。体と心がすっきりした後は、ボードゲームで頭も整えて。
「サウナで整うことが旅の目的」という時代に
アウトドアのサウナが目玉のグランピング施設も誕生している。千葉県千葉市の稲毛海浜公園内にある「スモールプラネット キャンプ&グリル(SMALL PLANET CAMP & GRILL)」は、50分ごとの予約貸し切り制。BBQを楽しんだ後に、星空を眺めながら外気浴で整うのは最高だ。ロシアのテントサウナブランド「モルジュ(MORZH)」の、体感温度100度というアウトドアサウナはぜひ体験してほしい。サステナブルをテーマにしたグランピング施設だけに、石を積み上げたアウトドアバスは自然に溶け込むように設計されている。焚火の音をBGMにリラックスして整おう。
アートを鑑賞しながら整うことができるのが、群馬県前橋の「白井屋ホテル」のデザインサウナだ。創業300年という老舗を、建築家の藤本壮介が大胆にリノベーションし、建築やアートを楽しむための空間に変えた。ロビーやレストランなどの施設はもちろん、世界各国のアーティストが手掛けた部屋も作品そのもの。フィンランドサウナやミストサウナもあり、1日4組限定で1名5000円、最大4名までで貸し切ることができる。サウナエリアには絶景の外気浴スポットがあり、内気浴スペースには宮島達男のアート作品を体感できるギャラリーが!こんなプライベートサウナは全国でもここだけ。整った後は、金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」で知られるレアンドロ・エルリッヒ(Leandro Erlich)の大型インスタレーションが圧巻の「ザ・ラウンジ」へ。緑に囲まれたこの空間で余韻を味わおう。
新宿のホテル「ユクシステイ(yksi STAY)」の2階にも、完全個室のフィンランドサウナ「ユクシサウナ(yksi SAUNA)」がオープン。快適でコンパクトな都会のホテルに滞在しながら、ふとした時間にサウナで整いリラックス&デトックスというのも、ウィズコロナならではの旅の在り方だろう。5室のサウナは、最大2名までで利用可能。もちろんロウリュも自分のペースで自由自在だ。
都内で開催されるイベント「サウナタウン」もユニークなアウトドアサウナだ。2021年4月は渋谷で、22年春にはイベントスペース「下北線路外 空き地」で「サウナタウン下北沢」が開催され、駅前サウナとして話題になった。サウナ好きのブランドマネジャーの熱意により、「亀の子束子」がボディ用たわしだけでなく、サウナウエアやグッズも製作するなど、他業種による動きも活発だ。
サウナもスタイルに合わせて選ぶ時代。コロナ禍だからこそ、接触の機会が少なく、仲間だけで楽しめるソロサウナやプライベートサウナは今後も注目されるだろう。“サ道”を究める求道系サウナとはまた違ったアミューズメント系サウナは、今後さらに増えるはず。カラオケや遊園地で騒いで負のエネルギーを発散させる感覚に通じそうなプライベートサウナで、愉快に、アクティブに整おう。