アメリカで人工妊娠中絶の権利が憲法で保障されなくなる可能性のある動きが見られることを受けて、女性の権利保護を訴える声がファッション業界でも上がっている。
ことの発端は米メディア「ポリティコ(POLITICO)」が5月2日、米連邦最高裁のサミュエル・アリート(Samuel Alito)判事による、多数意見をまとめた草案をリークしたことだ。米国では、1973年の“ロー対ウェイド(Roe v. Wade)判決”により憲法で中絶の権利が保障されているが、草案によれば、これを覆すことに9人の判事のうち過半数が賛同しているという。
98ページにも及ぶ草案には、“ロー対ウェイド判決”を「根拠が薄い」とし、中絶の権利を国で保障せず、各州に判断を委ねることを推奨することなどが記載されていた。ジョン・ロバーツ(John Roberts)最高裁判長は、この草案が本物だと認めたが、進行中のものであり最終的な立場を表すものではないと述べている。“ロー対ウェイド判決”が覆されると、多くの州で中絶が違法となる恐れがある。
「グッチ」は5月8日に声明を発表し、「『チャイム フォー チェンジ(CHIME FOR CHANGE)』を2013年に発足して以来、ブランドの発信力やリソースを使って、世界に向けてジェンダー平等をかなえるために闘ってきた。アメリカの歴史における重要な局面を迎える今、『グッチ』は人工妊娠中絶の権利は基本的人権の一部であり、誰もがアクセスできるべきものだという考えを貫く」とコメントした。
また、「在住する州で安全な医療が受けられないアメリカの従業員に旅費を提供する。『チャイム フォー チェンジ』を通じて、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)へのアクセスの普及と、当事者の保護など人権問題に取り組むパートナー組織への支援も継続していく」という。
同性婚をめぐる問題やLGBTQ+コミュニティーの権利向上を継続的に支援してきたリーバイ・ストラウス(LEVI STRAUSS & CO.)もいち早く声明を出している。同社は、「人工妊娠中絶を含むあらゆるリプロダクティブ・ヘルスに関する権利を守ることは、ビジネス上の重要な問題だ」とし、「中絶の権利を規制するだけでなく、違法とする動きは、アメリカの労働環境や経済、ジェンダーと人権の平等の実現など、多岐にわたって影響を持つ。この50年で女性が勝ち取ってきた職場での立場や権利を奪うだけでなく、(そもそも不利な立場にあることが多い)有色人種の女性をさらなる窮地に追い込んでしまう。さらに、(州ごとに法規制が異なると)企業は州別に異なる健康施策を導入せざるを得なくなる。今の危機的な状況を鑑みて、ビジネスのリーダーは当事者の声を聞き、従業員の健康と福祉を守るための行動を取るべきだ」と述べた。