エルヴィー(ELVIE)は2013年にイギリスで創業し、フェムテック業界をリードしてきたスタートアップ企業だ。創業者であるタニア・ボーラー(Tania Boler)エルヴィー CEOは、科学者であり、国連で10年以上健康教育に携わってきた人物。多くの若者がHIVで命を落としている現実を目の当たりにし、「性の健康」をテーマに起業した。フェムテックブランド「エルヴィー(ELVIE)」を立ち上げ、商品第一弾には、家電のダイソン(DYSON)で経験を積んだ技術者とともに、骨盤底筋を鍛えるトレーニング(通称:膣トレ)用のデバイスの“エルヴィー トレーナー(elvie trainer)”を開発。日本では19年、セックストイや生理用品などを扱う専門店「ラブピースクラブ(LOVE PIECE CLUB)」を運営するアジュマが販売を開始した。
またサイレント搾乳器“エルヴィー ポンプ (elvie pump)”もブランドを代表するアイテムの一つ。欧米では18年に発売したが、日本でも23年春に発売が決定した。日本発売に先駆けて、5月に「エルヴィー」のイギリス本国チームが来日。プレス関係者に向けて、自社商品を紹介しながら、フェムテック関連商品を販売する課題などを語った。
ランニング中でも使える
革命的なサイレント搾乳器
“エルヴィー ポンプ”は、ブラジャーに装着でき、スマホのアプリと連動して母乳を搾乳できる電動搾乳器だ。アプリでは、リアルタイムでどのくらいの量を搾乳できているのか確認でき、これまでに搾乳した量を記録もすることも可能。部品は洗って繰り返し使用することができ、ケアのしやすさにもこだわった。キャロライン・コプシー(Caroline Copsey)エルヴィー ヘッド オブ マーケティングは、「もともと搾乳器は1854年に牛のために初めて作られ、それから150年以上の間その形はそのままでした。稼働音が静かなので、買い物中や運転中、ランニング中、オフィスなどの外出先でも使用しているユーザーもいます。女性たちを自由にする革命的なアイテムです」と説明する。
19年には米「タイム」誌が優れた発明品を紹介する「ベスト イノベーション 2019(The Best inventions of 2019)」にも取り上げられた。すでに欧米を中心に13カ国で販売を行っており、21年にはアメリカとイギリスで最も売れた搾乳器として紹介されている。
3人に1人の女性が直面する
骨盤底筋の問題
代表商品である“エルヴィー トレーナー”では、骨盤底筋の問題にアプローチする。骨盤底筋とは、女性の骨盤の底にある子宮や膀胱、直腸を支える筋肉のこと。エルヴィーの営業を担当するタチアナ・エスコバル(Tatiana Escobar)エルヴィー ヘッド オブ インターナショナル エクスパンションは、「WHO(世界保健機関)によると3人に1人の女性が、骨盤底筋の問題に直面していると言われています。その統計は産後になると増え、10人に8人が経験すると考えられています」と膣トレに関する商品の必要性を話す。「長年、高齢者の問題だと考えられてきましたが、若い女性でも悩んでいる人は多く、特にスポーツを行う女性たちは激しい運動で骨盤底筋にダメージを与えてしまうこともあり、問題を抱えていることもあります」。
骨盤底筋を鍛えることで、尿もれや腰痛、便秘の症状の予防や改善の効果や、セクシャルウエルネス(性生活の健康)の向上も期待できるという。“エルヴィー トレーナー”は、スマートフォンと連動してゲーム感覚で鍛えることができるのが特徴。医療用シリコンで作られたデバイスを膣内に入れると、膣圧を測定してユーザーに合ったトレーニングを作成し、初級から上級までレベルを上げていくことができる。ユーザーは20代前半から60代までと幅広い。イギリスの国民保険「NHS」でも品質が認められ、泌尿器科医や理学療法士が骨盤底筋の衰えを解決する一つの方法として紹介されている。「体を整えることを目的にする場合、週3回5分間の使用を推奨しています。アプリ内でアラーム設定ができるので、日々の習慣にしやすいです」とエスコバル氏。
偏見の壁を乗り越えるためには
いいパートナーと取り組み、対話を重ねていくこと
「エルヴィー」は女性の性に関する商品を広めるのに、偏見などの壁にぶつかってきた。エスコバル氏は「フェムテックの商品を販売することに抵抗がある小売店も多くあります。販売員がどう接客するのか、商品が置いてあることに関して男性客がどのように感じるのか、など心配する声を聞きます。いい販売店のパートナーと取り組み、対話を重ねていくことが重要になります。女性の体のための商品がお店に並ぶことは決して恥ずかしいことではなく、それを不快に思う人がいることも理解することが大切です」と話す。
ケイト・クラーク(Kate Clark)エルヴィー ゼネラルマネージャーは「エルヴィーのミッションは、女性が他人に判断されることなく、自分で決断する力を与えるテクノロジーを提供していくこと。世の中に女性の性にまつわる商品は増えてきたが、まだまだ偏見が多いのが現状です。私したちはグローバルブランドとしてその固定観念を壊していたいと考えています。今後も世界に販売先を拡大する上で、各国での課題を、現地の販売パートナーとともに解決していきたいです」と話した。