スニーカーにまつわる噂話のあれやこれやを本明CEOに聞く連載。先日、日本ベンチャーカンファレンス(代表理事:鈴木ゆりえ)が主催する、現役東大工学部生と経営者の交流会「東大メシ」にゲスト出演した本明さん。文字通り、食卓を囲んで東大生の面々と約2時間話す会だったが、参加者のほとんどは学生起業家だ。本明さんは若き経営者に何を語ったのか?今回は「東大メシ」の現場から、ビジネスに大事なことを考える。(この記事はWWDジャパン2022年5月30日号からの抜粋です)
本明秀文CEO(以下、本明):会社を売却してから講演の依頼が増えた。なんだか文化人みたいな扱いを受けちゃうというか、みんなビジネスのヒントが欲しいんだね。「東大メシ」に呼ばれて現役の東大生と実際に話したんだけど、あんなにたくさんの学生起業家がいるとは思わなかった。みんな意欲的で真面目だったね。
——そうですね。そもそも、なぜ「東大メシ」に?
本明:スニーカーのコミュニティーを広げるためにアトモスでもメタバースを作ることにしたんだけど、「東大メシ」を企画している(鈴木)ゆりえちゃんがメタバースについて詳しいから相談していたんだよ。その流れで「東大メシ」に参加した。メタバースの制作を業者に頼むと2500万円もかかるのに、彼女たちだと1000万円でできる。「なぜ?」って聞くと、手を動かしているのが東大や早稲田を休学している人たちだからだと。中には高校生もいるんだけど、むしろ高校生の方がセンスがいい。だから昔と今じゃ、全く常識が変わってきている。コルクの佐渡島(庸平)さんと話したときも、「今は新海誠監督と同じくらい絵がうまく描ける高校生もいる」と。だけど、“ストーリーを書ける人”が全然いないんだって。
——なるほど。最近はブランドのビジュアルブックくらいだと、PRや広告代理店が編集者を介さず、直接作るパターンが増えました。だから、画作りは意外と簡単なんだと思います。中身があるかは分かりませんが。将来的にはイマジネーション以外はAIに置き換わるんでしょうね。
本明:だからテクノロジーや技術は年々上がってきている。でもストーリーなんかは経験がないと書けない。だから経験ってのはすごく大切なんだよ。経験は積むもので急に生まれるわけじゃない。その経験と知識を融合する目的が「東大メシ」なんだろうけど。
——そういう意味では、若者の方がメタバースやNFTの理解力があるのは、ゲーム世代だからというのもうなずけますね。僕はゲーム感覚でやっています。
本明:そうそう。だから、小池ちゃん(この連載の著者)もよく理解しているなって思う。僕はゲームにハマったことがこれまで一度もなかった。「ステップン(STEPN)」(歩きながら仮想通貨が貯まるNFTゲーム)は、毎日歩いているからついでにやってみようかな?ぐらいの気持ちでやっているんだけど。でも結局デジタルは広告なんだと思うよ。最後は広告を入れないと運営はもうからない。
——確かに。僕が話した東大生も広告会社を起業してもうかっているみたいでした。でも多くの東大生が好きなことを仕事にするというより、社会問題を意識していて、それを解決するための事業がしたいと言っていたのが印象的でした。感心します。
本明:違うよ、それは表面的な話で、結局はその方がもうかるからだと思う。新薬を開発している子もいたけど、それができたら何兆円でしょ。でもホームランを打つんじゃなくて、ヒットを打ち続けることが大事だよ。大谷(翔平)選手が愛されるのは、ホームランバッターなのに、セーフティバントをしたり盗塁したり、そういうことに惜しまず挑戦するからだと思う。ホームランを狙ってばかりの選手は空振りも多いでしょ。ビジネスではホームランバッターは共感されないんだよね。最終的にはやる気があって、コツコツ、規則正しくできるかどうか。
——たまたま、巨人の中田翔選手が“10年ぶりにバントした”というニュースを見て、「おぉー」と思ったばかりでした(笑)。
本明:だからやっぱり、そういう献身的な姿勢が共感を生むんじゃない?